(31)【賞与】支給日在籍要件

5.労働条件

1 ポイント

(1)賞与請求権は、使用者の決定や労使の合意・慣行等によって、具体的な算定基準や算定方法が定められ、算定に必要な成績査定もなされてはじめて賞与請求権が発生する。

(2)賞与の支給基準や支給額の算定方法は、労使間の合意ないし使用者の決定により自由に定めることができるが、支給要件の内容は合理的でなければならず、差別的取扱いや合理的理由を欠く取扱いは許されない。

(3)賞与の支給日に在籍することを賞与の支給要件とする就業規則の規定は、合理的理由があり有効である。

2 モデル裁判例

大和銀行事件 最一小判昭57.10.7 労判399-11

(1)事件のあらまし

X(原告・控訴人・上告人)は昭和51年4月1日Y(被告・被控訴人・被上告人)に入社し、昭和54年5月31日にYを退職した。Yの旧就業規則32条では「賞与は決算期毎の業績により各決算期につき1回支給する」と定め、毎年6月と12月に賞与を支給してきたが、従来から賞与はその支給日に在籍する者に対してのみ支給するとの慣行が存在していた。そして、6月支給分は、4月1日から9月30日までの上期決算期間を対象として前年10月1日から翌年3月31日までの査定に基づいて6月中旬に支給され、12月支給分は、10月1日から翌年3月31日までの下期決算期間を対象として4月1日から9月30日までの査定に基づいて12月10日頃支給されていた。Yは労働組合からの申し入れを受け、それまで慣行として実施されてきた支給日在籍者に対する賞与支給を就業規則に明文化するための協議を行い、昭和54年5月1日より就業規則32条を「賞与は決算期毎の業績により支給日に在籍している者に対し各決算期につき1回支給する」と改定した。改定に先立ち同年4月下旬には現就業規則を全従業員に配布し、その周知徹底を図った。Xは同年5月31日に退職し、支給日に在籍していなかったため、賞与の支給を受けることができなった。そこで、XはYに対して賞与の支払いを求めて提訴した。

(2)判決の内容

労働者側敗訴

Yにおいて、就業規則32条の改訂前から、年2回の決算期の中間時点を支給日と定めて、その支給日に在籍している者に対してのみ、決算期間を対象とする賞与が支給されている慣行が存在していた。就業規則32条の改訂は単にY銀行の労働組合の要請によって慣行を明文化したものであって、その内容においても合理性を有する。XはYを退職した後の賞与については、支給日に在籍していなかったので、受給権を有しない。

3 解説

(1)賞与請求権の発生

賞与などの臨時の賃金を制度として支給する場合には、就業規則にその支払いに関する規定をおく必要がある(労基法89条4号)。ただし、就業規則では一般的な規定をおくにとどまるため、賞与請求権は、就業規則によって保障されるものではなく、使用者の決定や労使の合意・慣行等がない場合には、具体的な賞与請求権は発生しないとされている(福岡雙葉学園事件 最三小判平19.12.18 労判951-5)。業績連動型の報酬についても同様である(Y証券株式会社事件 最一小判平27.3.5 判タ1416-64)。また、具体的な支給基準がない場合には、賞与請求権は認められない(大阪府板金工業組合事件 大阪地判平22.5.21 労判1015-48)。

賞与額算定に際して、成績査定が考慮されることが多いが、算定に必要な成績査定がなされてはじめて賞与請求権が発生する。したがって、賞与額の確定に必要な査定がなされなかった場合、賞与請求権は発生しない(京王電鉄事件 東京地判平15.4.28 労判851-35)。ただし、使用者が正当な理由なく(例えば、査定期間中に違法な解雇を行ったなど)実際の査定を行わなかったために、支給額を決定して支給することをしなかった場合に、賞与を受ける期待権を侵害する不法行為に当たるとして、賞与相当額の損害賠償を認めるものがある(直源会相模原病院(解雇)事件 東京高判平10.12.10 労判761-118、藤沢医科工業事件 横浜地判平11.2.16 労判759-21)。

(2)協定の未成立と賞与請求権

具体的な算定基準や算定方法は、労働協約によって定められることも多いため、賞与支給の妥結にあたり、他の労働条件・処遇の変更を前提条件とする場合があり、前提条件を受諾しない労働者には、賞与の不支給や支給遅延などの不利益が及ぶ。そこで、賞与協定が妥結しない場合の具体的な請求権の存否が問題となる。

たとえば、ノース・ウエスト航空(賞与請求)事件(千葉地決平14.11.19 労判841-15)では、前提条件の受諾を拒否したため賞与協定が成立していないものの、会社が前提条件を主張すること自体が信義則違反にあたるとして、条件なしの賞与請求権の発生を認めた。また、秋保温泉タクシー事件(仙台地判平15.6.19 労判854-19)でも、前年どおり支給するとの合意が10年以上継続していた場合に、労働協約の成立を否定しつつも、個々の組合員の労働契約の内容として賞与請求権の成立を認めている。また、使用者の不当労働行為(労組法7条1号・3号)が不法行為に当たるとして、賞与相当額の損害賠償を認めるものもある(明石運輸事件 神戸地判平14.10.25 労判843-39)。

(3)支給日に在籍していない者への賞与の不支給

賞与の支給要件は、労使間の合意ないし使用者の決定により自由に定めることができるが、「支給日に在籍する者」といった「支給日在籍要件」の合理性が問題となる。モデル裁判例のように、一般に、支給日在籍要件は不合理といえず、賞与の不支給も有効であると解されている。また、京都新聞社事件(最一小判昭60.11.28 労判469-6)によれば、こうした取扱いをすることは、明文の規定がない場合でも、社内の労働慣行として成立していると認められるときは許される。

そして、自己都合退職の者(モデル裁判例)、期間満了により退職した嘱託社員(前掲京都新聞社事件)、定年退職者(カツデン事件 東京地判平8.10.29 判タ938-130)、早期退職優遇制度により希望退職した者(コープこうべ事件 神戸地判平15.2.12 労判853-80)については、退職時期を予測したり、自ら選択したりできることから、また、普通解雇者(日本テレコム事件 東京地判平8.9.27 労判707-74)については、労働者自身に帰責事由があることから、支給日在籍要件の合理性が肯定されている。他方で、例年の支給予定日には在籍していたが、団交の遅れや資金繰りから支給日が遅れたため、実際の支給日前に退職した者(須賀工業事件 東京地判平12.2.14 労判780-9)や、帰責事由もなく、退職時期を選択できない整理解雇対象者に適用するのは不合理であるとされる(リーマン・ブラザーズ証券事件 東京地判平24.4.10 労判1055-8)。

(4)年俸に組み込まれた賞与の取扱い

年俸制((29)【賃金】参照)の場合、例えば、年俸額を16分割し、その1を毎月支給し、年2回の賞与支給時期に、その2をそれぞれ支給するように、固定額を支給する旨、年俸額の合意に含めている場合がある。このような場合、年俸制適用者が、年俸期間途中で解雇ないし退職を余儀なくされた場合、賞与支給日に在籍しないことをもって、不支給とできるかは問題である。この点について、勤務割合に応じた賞与請求権を認めたものがある(山本香料事件 大阪地判平10.7.29 労判749-29、シーエーアイ事件 東京地判平12.2.8 労判787-58)。

年俸制のように、成果・業績を評価する賃金支払いの方法をとる場合、支給日に在籍しない労働者に対しても、その成果・業績に応じた賞与の支給が求められる。