(16)【女性労働】セクハラになる行為

3.労働者の人権・雇用平等

1 ポイント

(1)セクシュアル・ハラスメントは、仕事や行為者の職務上の地位を利用してなされた場合、違法とされやすい。

(2)強制猥褻行為、性的行動を過度に要求する行為は違法である。しかし、性的行動を誘う行為は、その程度によっては違法ではない場合もある。

(3)性的発言や噂を流すことは、職場環境の悪化を招き、人間の尊厳を傷付ける行為として違法となりうる。特に、性的発言などが被害者の退職に結びつく場合は、違法とされることが多い。

(4)セクシュアル・ハラスメント行為については、職場外、就業時間外になされたものであっても、違法となりうる。

2 モデル裁判例

福岡セクシュアル・ハラスメント(丙企画)事件 福岡地判平4.4.16 労判607-6

(1)事件のあらまし

原告女性Xの上司(編集長・被告Y2)は、編集業務におけるXの役割が重要になり、かつ、A係長とXの間で業務方針が決定されることが多くなったために疎外感を持つようになった。その後約2年間、Y2はXの異性関係が派手であるなどの噂を社内外に流したため2人の関係は悪化した。

XはB専務らに関係悪化による問題の解決を求めたが、Bらは個人的な問題と捉え、話し合いによる解決をXとY2に指示した。Xの使用者であるY1は、話し合いによる解決が不可能な場合にはXを退社させるとの方針を決め、BはまずXに妥協の余地を打診したが、XがあくまでY2の謝罪を求めたため、話し合いがつかなければ退社してもらう旨告げたところ、Xは退職の意思を表明した。Y1は一方で、Y2に対して3日間の自宅謹慎と賞与を減給する措置を取った。

Xは、上記行為や対応は、違法な行為または契約違反に当たるとして、Yらに対し、損害賠償(300万円)等の支払いを求めた。

(2)判決の内容

労働者側勝訴

Y1とY2が連帯して慰謝料150万円などを支払う限度で、Xの請求を認めた。

Y2の責任:Y2の発言は、異性関係などXの個人的性生活をめぐるもので、働く女性としてのXの評価を低下させる行為である。しかも最終的にはXをY1から退職させる結果に及んでいる。これらはXの意に反してその名誉感情その他の人間の尊厳を傷付ける行為であり、またXの職場環境を悪化させる原因であった。Y2は一連の行為により、そのような結果を招くことを十分に考えることができたのであり、Y2の行為には違法性を認めざるを得ない。

Y1の責任:B及びY1代表者は、Xの上司として、その職場環境を良好に調整すべき義務を負う立場にあった。しかし、早期に事実関係を確認するなどして適切な職場環境の調整方法を探り、いずれか労働者の退職という最悪の事態の発生を極力回避する方向で努力することに十分でないところがあった。また、Bは、話し合いの経緯からXがやむなく退職を口にするやこれを引き止めるでもなく、直ちに話し合いを打ち切り、一方でY2については、解決策について特段の話し合いをせず3日間の自宅謹慎を命じたに止まった。このような状況からすると、Bらの行為についても、職場環境を調整するよう配慮する義務を怠り、また、雇用主としてXの譲歩や犠牲において職場関係を調整しようとした点において違法性がある。したがって、Y1は、上記の違法な行為について、使用者としての法的責任を負う。

3 解説

違法なセクシュアル・ハラスメント(以下S.H.)行為には様々な種類がある。以下、典型的な類型別に裁判例をみる。

(1)強制猥褻的行為のセクシュアル・ハラスメント

業務の遂行と関連して強制猥褻行為に該当するS.H.が行われた場合、たとえそれが勤務場所外・勤務時間外に行われたものであっても、S.H.行為者は法的責任を負う。行為者が被害者よりも高い地位にあれば、会社もその使用者として法的責任を負う(千葉セクハラ(不動産会社)事件 千葉地判平10.3.26 判時1658-143:慰謝料等330万円。岡山セクハラ(リサイクルショップA社)事件 岡山地判平14.11.6 労判845-73:賠償額約765万円。M社(セクハラ)事件 東京高判平24.8.29 労判1060‐22:慰謝料300万円、など)。

また、強制猥褻行為でなくとも、S.H.行為が反復継続される場合には、違法性の高い強く非難されるべきS.H.があったと判断される(2年間にわたるセクハラ行為について、熊本セクハラ(教会・幼稚園)事件 大阪高判平17.4.22 労判892-90:慰謝料等170万円)。

なお、偶発的かつ一瞬胸に触れる行為は、損害賠償責任を生じさせる違法な行為とはされていない(社団法人K事件 神戸地判平17.9.28 労判915-170)。また、男性職員が浴室にいる際に女性職員が浴室の扉を開けるなどの行為が、その職務の一つとしての防犯パトロールの一環として行われたものであることから、違法なS.H.には該当しないとした事例がある(日本郵政公社(近畿郵政局)事件 大阪高判平17.6.7 労判908-72)。

(2)性的行為を誘引するセクシュアル・ハラスメント

直接に性的関係を迫る行為は違法なS.H.とされる(岡山セクハラ(労働者派遣会社)事件 岡山地判平14.5.15 労判832-54:慰謝料250万円)。出張先のホテルで女性部下をベッドに誘う行為も、地位を利用した違法な行為とされる(大阪セクハラ(歯材販売会社)事件 大阪地判平10.10.30 労判754-29:慰謝料10万円)。

他方、泊まりがけの研修会で社長から混浴を強要されたという事例では、社長との混浴は女性従業員多数と原告でなされ、原告が混浴に応じたことは1、2回程度であったこと、混浴は強要ではなく勧誘程度であったことから、S.H.は認められていない(バイオテック事件 東京地判平11.4.2 労判772-84)。

(3)噂の流布・不当な発言

この問題についてはモデル裁判例が述べるとおりである。さらに、従業員同士が男女関係にあるかのような会社取締役の発言によって女性従業員が退職を余儀なくされたという事例もある。裁判所は、会社には労働者との契約上、労働者のプライバシーが侵害されないよう、また労働者が意に反して退職することのないよう職場環境を整備する義務があるとして、会社の損害賠償責任を認めている(京都セクハラ(呉服販売会社)事件 京都地判平9.4.17 労判716-49:賠償額約214万円)。同様に、上司の立場を利用して部下の女性に関して性的な風評を流布する行為が女性を退職に追い込む結果を招来した場合には、S.H.行為者と会社は法的責任を負う(前掲岡山セクハラ(労働者派遣会社)事件。女性労働者2名に対して、慰謝料、未払給与相当額、退職後1年分の逸失利益、弁護士費用、賠償総額約3,010万円)。

しかし、社長の女性部下に対する無神経な言動(顧客との会食中に「昨晩あなたはどうやって私の部屋に入ってきましたか」と発言)は違法ではない(前掲大阪セクハラ(歯材販売会社)事件)。また、軽率、不適切、不穏当な発言(いわゆる下ネタ)であるからといって、必ずしも違法性があり、損害を発生させるものではないと判断した裁判例もある(独立行政法人L事件 東京高判平18.3.20 労判916-53)。なお、(17)[セクハラへの対応]における解説(5)参照。

(4)就業時間外のセクシュアル・ハラスメント

この問題に関しては、就業後の宴席が典型的な例として挙げられる。就業時間外の宴席二次会において、女性をソファーに押し倒す、顔を近づける、手の甲にキスをする、スカートをたくし上げようとするなどの男性の一連の行為は、性的自由や人間の尊厳を傷付ける違法な行為である。そして、就業時間外であっても、男性の行為は、女性に対して職務上上位にあるという地位を利用して、業務に関連して行われた違法なものである。さらに、会社もその男性上司にかかる責任を負う(大阪セクハラ(S運送会社)事件 大阪地判平10.12.21 労判756-26:慰謝料等110万円)。

しかし、宴席での飲酒の強要と二次会出席の強要については、飲酒を伴う宴席では行われがちであるという程度を越えていなければ、違法な行為とまではいいえない(東京セクハラ(A協同組合)事件 東京地判平10.10.26 労判756-82、名古屋セクハラ(K設計・本訴)事件 名古屋地判平16.4.27 労判873-18)。