(14)【女性労働】定年・退職年齢の男女間格差

3.労働者の人権・雇用平等

1 ポイント

(1)女性の定年・退職年齢を男性よりも低く設定し、格差を設けることは、性別のみによる不合理な差別に当たり、公序良俗(現在の社会秩序)に反して違法・無効となる。

(2)退職勧奨や人員削減に際して、女性には男性よりも低い年齢を設定したり、男性と異なる基準を設けて適用したりする場合も、違法・無効となる。

2 モデル裁判例

日産自動車事件 最三小判昭56.3.24 民集35-2-300

(1)事件のあらまし

自動車の製造・販売業を営む第一審被告であるY社の就業規則は、「男子は満55歳、女子は満50歳を定年とし、同年齢に達した月の末日に退職させる」と定めていた。昭和44年1月15日に満50歳に達した第一審原告である女性労働者Xは、同月31日限りでの退職をYから命じられた。これに対しXは、男女で異なる定年年齢を設けることは公序良俗(民法90条)に反し無効であると主張して、Yの従業員としての地位確認などを求めた。一審二審ともに、本件男女で異なる定年年齢の定めは合理性がなく公序良俗に反し無効と判断したため、Yが上告したのが本件である。

(2)判決の内容

労働者側勝訴

Yにおいては、女性従業員の担当職務は相当広範囲にわたっていて、従業員の努力とYの活用策によっては貢献度を上げうる職種が数多く含まれている。そして、女性従業員各個人の能力等の評価を離れて、女性を全体としてYに対する貢献度の上がらない従業員と断定する根拠はない。しかも、女性従業員について労働の質量が向上しないのに実質賃金が上昇するという不均衡が生じていると認められる根拠はない。また、少なくとも60歳前後までは、男女とも通常の職務であれば、企業経営上要求される職務遂行能力に欠けるところはなく、各個人の労働能力の差異に応じた取扱いがなされるならともかく、一律に従業員として不適格とみて企業外へ排除するまでの理由はない。以上のことを考えると、Yの企業経営上の観点から定年年齢において女性を差別しなければならない合理的理由は認められない。すると、Yの就業規則中、女性の定年年齢を男性より低く定めた部分は、もっぱら女性であることのみを理由として差別したということになり、性別のみによる不合理な差別を定めたものとして公序良俗(現在の社会秩序)に反して無効である。

3 解説

(1)定年年齢の男女格差

均等法による規制以前でも、男女間で定年年齢に格差を設けることが公序良俗(現在の社会秩序)に反して無効とされていたのは、モデル裁判例にみるとおりである。さらに、男女間の定年年齢格差を解消する期間に格差を設けることも、公序良俗に反し無効とされている(放射線影響研究所事件 広島高判昭62.6.15 労判498-6)。

また、職種の名前の変更に伴って、職種別に男女一律の定年年齢を設け(65歳と60歳)、従来は比較的高い定年年齢(65歳)が適用される職種に従事していた女性を、定年年齢が低い職種(60歳)へと名称を変更されたという事件があるが、裁判所は、職種の名称変更は、就業規則を変えることにより女性の定年年齢が満65歳になることを避け、男女間で格差のある従前の定年年齢を維持・存続する目的で行われたもので、性別を理由とする合理性のない差別待遇であると述べ、このような取扱いは民法90条及び均等法11条1項(平成9年改正法施行[同11年]前のもの)により無効と判断した(大阪市交通局協力会事件 大阪高判平10.7.7 労判742-17)。

なお、女性の結婚退職の定め(住友セメント事件 東京地判昭41.12.20 労民集17-6-1407)や、女性の若年定年の定め(東急機関工事件 東京地判昭44.7.1 労民集20-4-715)は、ともに公序良俗に反して無効である。

(2)退職勧奨年齢の男女格差

女性が男性よりも若い年齢で退職することを勧めることも違法とされる。例えば、退職勧奨において3~7歳の男女差を設け、勧奨に応じない女性職員には、退職に際し優遇措置を講じないことは違法であると判断された事例で、裁判所は、男女間で退職勧奨に年齢差を設けるとしても男女構成比に著しい不均衡をもたらさない、退職勧奨の基準を設けた当時や退職勧奨を行った当時は夫婦役割観が相当強かったとしても、これを理由に直ちに男女一律の年齢差を設ける合理的理由があると判断するのは早計であると述べている(鳥取県教員事件 鳥取地判昭61.12.4 労判486-53)。

また、男性より10歳も若い女性の退職勧奨基準は違法であり、女性職員が退職勧奨を拒否して以降、昇給させないのは、違法な不利益取扱いであるとした事例がある(鳥屋町職員事件 金沢地判平13.1.15 労判805-82)。

しかし他方、事業の合理化・簡素化計画の一環として、原則として一定年齢以上の全職員を対象に退職の意向等を確認する方法で退職勧奨を行うことは違法ではない(40歳以上という基準につき、全国商工会連合会事件 東京地判平10.6.2 労判746-22)。

(3)人員削減基準等の男女異なる取扱い

この問題に関しては、例えば、「有夫の女子、30歳以上の女子」という希望退職の基準と、これによる退職の合意は、憲法14条、労基法3条・4条の精神に反し、民法90条により違法・無効とされる(小野田セメント事件 盛岡地一関支判昭43.4.10 判時523-79)。また、同じ理由から、「有夫の女子、27歳以上の女子」という基準による指名(名指しの)解雇(日特金属工業事件 東京地八王子支決昭47.10.18 労旬821-91)、「既婚女子社員で子供が二人以上いる者を解雇する」(コパル事件 東京地決昭50.9.12 判時789-17)という人員削減基準が無効とされている。

ただし、会社再建や経営立直しに当たって、女性労働者の職種が本当の意味で余剰化した場合に、当該職種に就く女性労働者に対して退職勧奨((82)【退職】参照)や整理解雇((90)【退職】参照)を行うことは違法ではないとされている(小野田セメント事件 仙台高判昭46.11.22 労民集22-6-113、古河鉱業事件 最一小判昭52.12.15 労経速968-9、日本鋼管京浜製鉄所事件 横浜地川崎支判昭57.7.9 労判391-5)。

(4)現行均等法の規制

以上の問題については、現行の平成18年改正均等法6条4号が、退職勧奨、定年、解雇、労働契約の更新について、労働者の性別を理由として差別的取扱いをしてはならないと明文で禁じている。さらに、「労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針」(平18.10.11厚労告614号[平27.11.30厚労告458号改正])において、「第2 直接差別」として、「(10)退職の勧奨」・「(11)定年」・「(12)解雇」・「(13)労働契約の更新」を列挙し、それぞれおおむね、具体例を述べながら、男女間で異なる条件を付して異なる取扱いを行っている場合は、均等法6条4号により禁止されるとしている。現行法制が従来からの裁判例の傾向に追いついてきたといえるだろう。