(12)【女性労働】賃金差別

3.労働者の人権・雇用平等

1 ポイント

(1)女性の職務の内容・責任・技能などが男性と比較して劣らないか、勤務の途中で劣らない状態になって以降の男女の賃金格差(男性よりも低い賃金を女性に支払うこと)は違法である。

(2)男女間で異なる基準を用いるなどして賃金に格差をつけることは違法である。

(3)平成11年の改正雇均法施行以降の男女別コース制による賃金格差は違法である。

2 モデル裁判例

日ソ図書事件 東京地判平4.8.27 労判611-10

(1)事件のあらまし

昭和40年12月、原告女性Xは、ロシア語書籍を輸入販売する被告会社Yにアルバイトとして入社し、約3ヵ月後には正社員として勤務していた。当初、Xの業務は補助的・定型的なものであったが、昭和42年、XはY社販売店の事実上の責任者となり、昭和47年1月頃からは、高度の判断能力を必要とする注文図書選定の業務も担当するようになった。Xは、昭和55年1月に販売店店長、昭和57年5月には次長待遇となり、昭和63年1月に定年退職した。退職前年、Xは部下の男性正社員(Xよりも3歳年下)よりも基本給額が低いことを知り、Y社代表取締役と話し合ったが是正されなかった。このためXは、昭和57年以降のその男性社員との差額賃金に3年分の年功賃金を加算し、基本給と退職金の差額1,228万円余の支払いをYに求めて提訴した。なお、Yには社員給与規則はあるが、賃金表など客観的な支給基準は存在しない。

(2)判決の内容

労働者側勝訴

466万円余を限度にXの請求を認めた。Xは、遅くとも昭和47年1月の時点では入社当初の時点で従事することが予定されていた補助的・定型的業務とは明らかに異なる業務を担当するに至り、その職務内容・責任・技能等のいずれにおいても勤続年数および年齢が比較的近い男性社員4名と比較して劣らないものであった。Yはその時点以降、Xの賃金を男性並みに是正する必要があり、10年以上経過して格差是正のために必要かつ十分な期間が経過した昭和57年5月頃の時点では、Xと男性社員との賃金格差は合理的な範囲内に是正されていなければならなかったが、Yは適切な是正措置を講じなかった。よってこの賃金格差は、Xが女性であることのみを理由としたものか、またはXが共稼ぎであって家計の主たる維持者でないことを理由としたもので、労基法4条に違反する違法な賃金差別である。しかも、適切な是正措置を講じなかったことに、不法行為法上(民法709条)、Yの過失があるから、XはYに対して損害賠償を請求できる。

3 解説

労基法4条は女性であることを理由とする賃金差別を禁じている。しかし何をもって性別を理由とするのか述べていない。モデル裁判例は、職務内容・責任・技能(労働の質と量)を挙げた上で、勤続年数及び年齢が比較的近い男性社員の職務と比較する方法を取っており、雇用管理及び紛争解決の指針として重要な意味を持つ。また、女性労働者が比較対象となる男性労働者と同等の労働に従事するようになって以降、会社には不合理な賃金格差を是正する必要が生じるとしている点で注意喚起の意義もある。

以降も同じ理由から損害賠償請求が認められているが(塩野義製薬事件 大阪地判平11.7.28 労判770-81など多数)、その後、男女間の賃金格差の程度、仕事の内容、専門性の程度とその成果、男女間賃金格差を規制する法律の状況、一般企業・国民間における男女差別・男女の均等な機会及び待遇の確保を図ることについての意識の変化など諸要素を総合勘案して判断するとの一般論を述べる事例(兼松(男女差別)事件 東京高判平20.1.31 労判959-85)がある。

(1)男女別賃金表・男女別賃金決定

男女間で異なる賃金表を作成・適用し、女性に男性よりも低い賃金を支払うことは、労働の質・量の点で合理的理由のない限り違法である。賃金格差が労使合意に基づくものでも違法となる。同一の賃金表であっても男女間格差が維持され続けている場合は違法となる(内山工業事件 広島高岡山支判平16.10.28 労判884-13など)。同一の賃金表が作成・適用されていても、個別の賃金決定過程において労働の質・量に照らして女性を男性よりも不利に扱っていれば違法となる(名糖健康保険組合(男女差別)事件 東京地判平16.12.27 労判887-22)。なお、異職種間での男女間処遇格差に基づく賃金格差(基本給、職務給、賞与)は合理性のない不当な差別とは言えないが、女性は男性より8年も支給開始時期が遅い役職手当ならびに職種の相違とは無関係な諸手当にかかる格差は、性別による不合理な取扱いで違法とされる(フジスター事件 東京地判平26.7.18 労経速2227-9)。

(2)女性労働者の属性による賃金差別

中途採用の場合に初任給で男女間格差を付けそれを累積させること(石﨑本店事件 広島地判平8.8.7 労判701-22など)、既婚女性は労務の質量が低下するとして一律に低く査定し昇給させないこと(住友生命保険(既婚女性差別)事件 大阪地判平13.6.27 労判809-5)、扶養家族の有無により基本給に男女間格差を付けること(秋田相互銀行事件 秋田地判昭50.4.10 労民集26-2-388)、世帯主・非世帯主を基準に本人給に差を設ける給与制度を適用し男女間で格差を付けること(三陽物産事件 東京地判平6.6.16 労判651-15)は、いずれも違法である。また、男性と同一学歴・同一年齢の女性について、職能資格等級、定期昇給額、本給額に著しい格差がある場合、男女間で異なる基準により昇格管理を行ったとされ、職能等級における男女間格差を担当職務や業務遂行状況により合理的に説明できなければ、女性であることを理由とする賃金差別となる(昭和シェル石油(賃金差別)事件 東京高判平19.6.28 労判946-76など)。

家族手当についても同様で、男女で異なる支給基準設定し適用すること(岩手銀行事件 仙台高判平4.1.10 労民集43-1-1。前掲フジスター事件では住宅手当についても違法とされた。)や、世帯手当を男女差別のある基本給を基に算定すること(前掲内山工業事件)も違法となる。ただし、家族状況や住宅事情に応じて支給額が異なる手当は生活補助費的性格が強いので、便宜上住民票上の世帯主(女性も含む)に支給することは違法ではないとする事例がある(住友化学工業事件 大阪地判平13.3.28 労判807-10)。

(3)男女別コース制と賃金差別

日本鉄鋼連盟事件(東京地判昭61.12.4 労民集37-6-512)以来、男女別コース制の下での賃金差別の救済は認められていない(住友電気工業事件 大阪地判平12.7.31 労判792-48など)。

しかし、平成11年改正雇均法により男女別コース制が違法とされて以降も男女別コース制が維持され続け、これにより処遇していれば違法となる(野村證券(男女差別)事件 東京地判平14.2.20 労判822-13。なお、岡谷鋼機(男女差別)事件 名古屋地判平16.12.22 労判888-28、前掲フジスター事件は男女差別を人格権侵害と捉える。)。さらに、男女別コース制の下でも、労働の質・量の観点から給与体系が男女別であることに合理性がなければ、それにより女性を処遇することは違法となる(前掲兼松(男女差別)事件)。

違法な処遇に対する救済としては、慰謝料の支払いによる例(前掲野村證券事件、前掲岡谷鋼機(男女差別)事件)、比較可能な男性と原告女性に想定されていた年収の差額の平均値を損害賠償額の算定根拠とする例(住友金属工業(男女差別)事件 大阪地判平17.3.28 労判898-40)がある。