(8)試用期間

2.雇用関係の開始

1 ポイント

(1)当事案の諸事情を考慮したうえで、試用期間付労働契約が、試用期間固有の解約権を留保した「解約権留保付労働契約」と認められる時には、試用期間満了時における解約権の行使(本採用拒否)は、解雇と理解されてその適否が判断されることになる。

(2)試用者解約権行使は、試用期間付契約の趣旨に鑑みて、雇入れ後の解雇の時よりは解雇の自由が広く認められる。

(3)試用期間中の者は他社への就職の機会を放棄していることから、本採用拒否には一定の制約が課される。本採用拒否が許されるのは、採用決定後における調査の結果や試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知った場合で、そのような事実に基づき本採用を拒否することが、解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に相当であると認められる場合に限られる。

2 モデル裁判例

三菱樹脂事件 最大判昭48.12.12 民集27-11-1536

(1)事件のあらまし

新卒者であったXは、Yに管理職要員として卒業と同時に入社したが、3か月の試用期間が終わる直前に本採用を拒否された。本採用の拒否理由は、Xが入社試験の際に、大学在学中に過激な学生運動に関与していた事実を隠したことが、管理職候補として相応しくないと判断されたからというものであった。Xは、本採用拒否の効力を争い、雇用契約上の権利の確認を求めて提訴した。原判決(東京高判昭43.6.12)は、本件の雇用契約は、試用期間中にXが管理職要員として不適格と判断された場合は、それだけを理由として雇用を解約することができるという解約権が留保された契約であり、それゆえ、本件の留保解約権の行使は解雇にあたるとし、Yが入社試験の際に申告を求めた事柄(政治的思想や信条に関連する事項)は、そもそも入社試験において申告を求めるべきものではなく、これ自体が公序良俗に反するものであるから、Xが虚偽の回答をしたからといって、これを理由に雇用契約を解約することはできないとした。

(2)判決の内容

労働者側敗訴

試用契約の性質をどう判断するかについては、就業規則の規定だけではなく、当企業において試用契約を付けて雇われた者に対する処遇の実情、とくに本採用に関する取扱の慣行の様子をも重視しなければならないが、Yでは、これまで大学卒業の新卒者の本採用を拒否した例はなく、本採用の手続も、改めて契約書を交わすことなく簡易な辞令を交付するのみであった。このような過去の実態に照らすと、「本件本採用の拒否は、留保解約権の行使、すなわち雇入れ後における解雇にあたり、これを通常の雇入れの拒否の場合と同視することはできない。」

本件の解約権留保は、新卒者の採否判断の当初は、適格性を判断する適切な資料が十分に収集できないために、最終決定を試用期間中の調査や観察後まで保留するというものであり、このような留保をつけることは、今日の状況に鑑みると合理性がある。それゆえ、試用期間満了後の解雇(留保解約権行使)は、通常の解雇と全く同一とは解し得ず、通常の解雇よりも解雇の自由は広く認められる。しかし、契約締結時には、一般に企業が労働者よりも社会的に優位にあり、かつ、企業に試用期間が設定されて入社した者は、当該企業に本採用されるとの期待の下に、他企業への就職の機会と可能性を放棄していることから、前記留保解約権の行使は、上述した解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許されるものと解する。つまり、「企業者が、採用決定後における調査の結果により、または試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至つた場合において、そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇傭しておくのが適当でないと判断することが、上記解約権留保の趣旨、目的に徴して、客観的に相当であると認められる場合には、さきに留保した解約権を行使することができるが、その程度に至らない場合には、これを行使することはできないと解すべきである。」

3 解説

(1)本採用拒否の違法性

モデル裁判例は、①新卒で採用した労働者に試用期間を設けることの合理性、②試用期間満了後に行われた本採用拒否の違法性が問題となったものである。最高裁は、①について、労働契約の初期の段階に試用期間を設けて、採用の可否の最終決定を引き延ばすこと(留保すること)は合理性があるとし、②については、試用期間中の解約権行使(本採用拒否)は雇入れ後の解雇であるが、試用期間が労働者の能力や適格性を見極めるために設けられたことを考えると、このような試用期間満了後の解約権行使は、通常の解雇よりは広い裁量が認められるとした。しかし、本件の労働者(新卒者)の置かれた状況を考えると、本件において解約権行使が許されるのは、試用期間前には知ることができなかった事実等が判明した場合であって、その事由に基づき解約権を行使することが、試用期間中の解約権行使の趣旨等に照らして客観的に相当であると認められる場合に限られると判断した。

他の新卒者の例では、技術者として採用された労働者の勤務態度の悪さを理由に行われた本採用拒否が有効とされた日本基礎技術事件(大阪高判平24.2.10 労判1045-5)がある。裁判所は、労働者が自身の勤務態度の改善が必要であったことを十分認識しており、改善に向けた努力をする機会も与えられており、指導・教育も受けていたことを指摘して、解雇をする前に告知・聴聞の機会を与えずとも、当該解雇は有効であると判断した。また、三井倉庫事件(東京地判平13.7.2 労経速1784-3)では、3か月の見習期間を設けて採用された労働者が、平易な作業であってもミスがめだって多かったため、2か月見習期間が延長されたが、能力が採用の水準に至らず解雇された。裁判所は、労働者の能力不足と適格性欠如は明らかであり、これは、就業規則上の普通解雇事由に当たり、本件では試用期間か否かを考慮するまでもなく、解雇は有効であると判断した。

他方、中途採用者の本採用拒否については、新卒者の場合よりも、能力や適格性の有無が厳しく審査され、通常の解雇よりも緩やかな基準で解雇の有効性が判断される傾向にある。ブレーンベース事件(東京地判平13.12.25 労経速1789-22)では、パソコンのスキルがあると申告して採用された労働者が、FAX送信にも苦慮し、即戦力としての雇用継続が期待されないとして解雇された。裁判所は、職場が零細企業であったことを考慮して解雇を有効としている。アクサ生命保険ほか事件(東京地判平21.8.31 労判995-80)では、金融機関での職歴の有無について履歴書に虚偽の記載をして採用された労働者の本採用拒否が問題となったが、裁判所は、労働者は採否決定の重要な要素に関して虚偽の申告をしたものであり、労使の信頼関係は破綻したとして解雇を有効と判断した。他方本採用拒否が違法とされたものには、新光美術事件(大阪地決平11.2.5 労経速1708-9)がある。「未経験者可」の求人に応募し採用された労働者が、組合集会に参加した後に、些細な職務怠慢行為を理由に解雇された。裁判所は、労働者は概ね誠実に職務を遂行しており、組合加入の有無等を聞かれた経緯に照らすと、本採用拒否に合理的理由は認められないとし、解雇を無効とした。

(2)試用期間途中の解雇

試用期間は、労働者の資質、性格、能力等を十分に把握し、従業員としての適性を吟味するための期間であるから、試用期間の途中で労働者を解雇する場合には、試用期間満了後の解雇の場合よりも高度な合理性・相当性が求められる。試用期間途中の解雇については、中途採用者の解雇が問題となった裁判例が多い。たとえば、試用期間途中での解雇を認める程の理由は存しないとして解雇無効と判断されたものとして、ケイズ事件(大阪地判平16.3.11 労経速1870-24)、ニュース証券事件(東京高判平21.9.15 労判991-153)、医療法人財団健和会事件(東京地判平21.10.15 労判999-54)等がある。

(3)試用の性質を有する有期労働契約と雇止め

労働者の能力や適性を判断するために、ひとまずは有期労働契約を締結し、問題がなければ継続して雇用するという合意がなされる場合がある。有期労働契約が適性評価の目的で締結された場合には、当事者間で契約が当然に終了する等の明確な合意がない限り、当該期間は契約存続期間ではなく試用期間と解される。そして、このような試用目的の有期労働契約の雇止めについては、無期労働契約の試用期間満了後の本採用拒否と同視され、解雇権濫用法理の下でその適否が判断される(試用目的の有期労働契約の雇止めが違法と判断されたものとして、神戸弘陵学園事件・最三小判平2.6.5 民集44-4-668)。