最近のヒアリングで感じること

調査員 渡辺 木綿子

来年4月1日から、改正パートタイム労働法が施行される[1]

振り返れば、パートタイム労働研究会の最終報告を契機とした改正論議は、指針改正を挟みつつ約5年に及んだことになる。

この間、パート労働者をはじめとする非正社員の、待遇改善に係る企業・労組ヒアリングを多数手がけたが[2]、調査当初は、企業側のアレルギー反応だけでなく、正社員vs非正社員の利害対立もあり、協力を請うのも一苦労であったことを思い出す。

しかし最近になって、正社員と非正社員の均衡待遇や、非正社員から正社員への登用・転換に、自主的に取り組む動きが急速に拡がってきた[3]。改正論議が始まった頃を思い起こせば、隔世の感がある。

変化の背景には、企業側の事情として、労働力不足に対する危機感から、優秀な人材を囲い込んでおきたいという思いや、長期にわたる景気拡大の中で、高付加価値・サービスを生み出せる正社員のウェートを、高めてゆきたいという考えがある。また、一般職・現業職等の新卒採用の復活とともに、非正社員という条件では、求人が充足しにくくなっていること等も関係しているだろう。もちろん、この間、労組側が非正社員の組織化や待遇改善に、前向きに取り組む雰囲気を醸成させてきたことも、寄与していると思われる[4]

変化は、ヒアリング調査の中でも如実に感じられた。ある企業の人事担当執行役員が、インタビューで次のように語ったことは忘れられない。

「率直に言って、正社員を減らしすぎたという反省がある」――。その弁は、ここ数年進めてきた効率化に、行き過ぎがあったのではないかという思いをストレートに表現したものだった。

今年1月、同社は、事務・サービス部門に勤務する派遣社員約 3,200人を、契約社員(非正社員)として直雇用した上で、その中から通算3年以上働いている希望者を、一般職の新卒採用再開に併せ、正社員に登用すると発表した。

また、フリーターを活用したローコスト経営で有名な、あるメーカーに話を聞いた時にも、変化を感じた。

「フリーターのままでは結婚すらできないという、悩みを聞き続けてきた。弊社の急成長を支えてくれたそんなフリーターに、いま報いたいという思いだ」――。

同社は今年3月、店舗の拡大と販売サービスの強化という戦略転換に伴い、店頭で販売業務にあたる準社員(非正社員)約2万人のうち、今後2年間で 5,000人を地域限定の正社員に登用する方針を打ち出した。

一方、労組の側の意識にも、この数年で着実に変化の兆しがみえる。職場の8割を占める非正社員を徐々に組織化し、正社員と合わせ7万人を超える大所帯に成長した、ある労組にインタビューした時のことだ。

「利益成長を求めつつも、ある程度は一定の原資の中で、それぞれ(正社員、非正社員)がいかに仕事や働き方に比べ、納得して共生できるかを考える必要がある」――。

同労組は、正社員と非正社員の資格・役職、処遇体系等を一本化してからの毎春闘、獲得原資を社員間でいかに配分するかの検討に、取り組むようになった。

パートタイム労働研究会が、その最終報告で均衡待遇問題を日本社会に投げかけて、5年あまり。この間、企業・労組はともに、その重要性を認識するだけでなく、行動に移し始めている。そして、ヒアリングを続ける中で、従来の正社員と非正社員の関係を見直そうとする「言葉」に、多数出遭うこととなった。

いま、正社員と非正社員の関係性をめぐり、重要なターニングポイントに差し掛かっているように感じる。

改正パートタイム労働法を追い風にして。

( 2007年 10 月 26日掲載)