キャリア教育とは

JILPT主任研究員 石井 徹

「キャリア教育と進路指導はどこが違うのですか」という質問を学校の教師からしばしばたずねられる。私は「ほとんど同じではないですか」と答えている。

学校では、進路について学ぶことを進路学習と呼んでいる。これをしっかりやらせることがキャリア教育であり進路指導である。これではなにも変わらないのではないかといわれそうである。そこでここ数年急に浮上してきた「キャリア教育」という言葉について、その背景や含意を考えてみたい。

キャリアカウンセリングの重視

背景としては近年、我が国で若年者のフリーターや不登校、学校中退の問題、さらにはニートへの対策としてキャリア教育が問われるようになってきたことがある。これは、学校に責任があるかのように思われがちであるが、仕事やキャリアの支援は学校だけでなく、家庭や地域、企業、社会が分担しなければならない問題である。

こうした若者の問題に対応するため学校や様々な領域でキャリアカウンセリングが重視されるようになってきた。これまで学校では集合的な指導としてガイダンスを実施していたが、個別に相談するカウンセリングは、専門的な技術や知識が必要とされることもあり、あまり行われていなかった。この空白を埋めるため諸団体でキャリアカウンセラーやコンサルタントの養成や資格認定が進められていることにも、こうしたキャリアカウンセリングの重視の傾向がある。ガイダンスとカウンセリングを含んだ用語としてキャリア教育が提唱されているといえる。

「キャリア発達」と「セルフヘルプ」

キャリアに関して重要な概念が「キャリア発達」と「セルフヘルプ」である。キャリアガイダンスやカウンセリングは教師やカウンセラーなどの専門家が生徒やクライアントに対して支援やサービスを提供するが、「キャリア発達」は、教育や支援を受けて、経験を活かしてキャリアを発達させることである。そして「セルフヘルプ」は自己の力でキャリアを選択し、形成していくことであり、キャリア支援や形成の目標や到達点も実はここにある。この前提としては、基礎的な知識やスキルを身に付けさせて自己理解や職業理解を深めることを特に学校段階でしっかりと身につけさせることである。これまでの事後的な対応ではなく、未来を展望した、より若い早い時期からのキャリア教育が重要である。このことが生涯におけるキャリア形成の基盤となる。

「様々なセクターのサービス連携を」

キャリア教育は学校だけでなく、家庭や地域、企業などの役割もあると述べた。そして官や公的機関の役割はキャリアサービスの提供だけでなく、むしろ様々なセクター間の連携と調整、そしてセクターに対する資源の援助や情報・技術の提供にある。

キャリア教育と進路指導の違いは、内容よりはむしろ視点や手法の違いにあるといえる。これからの方向としては多様なニーズや年齢層の利用者に最適なキャリア支援や情報提供ができるよう学校や企業、ハローワークなど様々なセクターの担うサービスを連携させ、統合化する手法が求められる。

ちなみに現在、当機構では、職業情報の提供や自己理解などを総合的に支援できる職業情報システムを開発中である(ウエッブ提供予定)。このシステムは、キャリア教育やキャリアカウンセリングを実践する教師やカウンセラーなどの専門家の利用だけでなく、若年から中高年までの利用者が自らセルフヘルプでシステムを利用でき、キャリアについて自己学習し自己選択できることを目指している。