地域を訪ねて

本コラムは、当機構の研究員等が普段の調査研究業務の中で考えていることを自由に書いたものです。
コラムの内容は執筆者個人の意見を表すものであり、当機構の見解を示すものではありません。

研究員 高見具広

筆者は今年度、地域雇用をテーマとした調査研究を行っており、地方圏へのヒアリング調査にうかがっている。地域研究の分野には、日本全国を訪ね歩き地域の方々への指南も行っている「その道のプロ」がいるが、筆者はまだまだ調査研究歴の浅い身である。日々勉強であるが、新鮮な発見の連続でもある。以下は、浅学を恥じつつも、試行錯誤の日々をつづってみたい。

まず、当たり前のことであるが、日本中をくまなく回ることはそうそうできることではない。そこで当面の調査はいくつかの地域に焦点を絞ったものになるが、ではどの地域に光を当てるか、その地域選択がことのほか難しい。もちろん地域づくりや産業振興で有名な地域はいくつかあり、新聞などのマスメディアや書籍で紹介されている。最近は、国全体で「地方創生」が重要な政策課題となる中、「~町では~という取り組みをしている」といった話が報道されることも珍しくない。こうして有名になった地域には取材が殺到していると聞く。しかし、熱心な取り組みを行っている地域は一部の「有名事例」だけではないはずだ。地域振興や地域づくりの取り組みはもっと大きな広がりがあり、有名事例の後追いだけでなく、それほど知られてはいないが注目すべき事例を掘り起こして(紹介して)こその研究と言えるのではないか。

そう大きく掲げてみたものの、実際はなかなか難しい。まず市町村など自治体の方にお電話をし、問題関心をぶつけてお話を聞いてみる。下調べをして基本情報は押さえておくが、訪問したことのない地域が大半である。まっさらな気持ちでお話を聞く。突然のお電話にもかかわらず、本当に丁寧に教えてくださる。その中でも「この人にお世話になりたい(もっとお話を聞きたい)」と思わせる方がいらっしゃる。お忙しい中ご協力いただくことに申し訳ない気持ちがありつつも、お願いをして訪問させていただく。ヒアリング調査は、本当に人の縁であると感じる。

現地に赴いてお話を聞く。研究として行う以上、類型を立てて事例を整理することもあるが、どの地域の取り組みも全く同じものはなく、いわばオリジナルである。そして「わがまち」に誇りをもっている。お話をうかがう側も、その思いをじゅうぶんに汲み取り、正確に各所に発信する責任が生じる。

最近は東京にいても移住促進フェアなどが頻繁に開催され、しかも大変盛況である。若い人の参加も多く、地方に目が向いてきている流れを感じる。筆者もフェア会場を歩いていると「話を聞いてみませんか」と声をかけられる場合がある。こちらの身分を話し、移住希望者(としての参加)でないことを知るとがっかりされることもあるが、お邪魔でない間、ブースでお話を聞かせていただいたりする。誇りをもって「わがまち」をPRしておられる関係者の方の姿に大変引きこまれる。

「地域の魅力」と一口に言っても、たとえ現地の空気を吸ったとしても、短い期間の滞在者には「わかった気」になるのがせいぜいだと思う。そこに住んでいる方を通じて語られた言葉、もっと言うならばお会いした方にこそ、その地域の魅力が詰まっているのではないかと思うこの頃である。

(2015年1月30日掲載)