資格と職業教育訓練の品質保証システムを考える
(イギリスの事例から)

JILPT主任研究員 稲川 文夫

資格の品質保証

工場や事業所の品質管理システムそのものを検査し、品質保証システムが適切に機能していることを制度的に保証する規格としてISO 9000シリーズがある。当該規格は、生産活動のプロセスの評価を重視し、結果としてアウトプットである製品の信頼性を確保するという考え方に基づいている。イギリスの全国職業資格(National Vocational Qualification:NVQ)を取得するまでの一連の活動を評価・監査するシステムには、ISO 9000の考え方が色濃く反映されている。

NVQの取得者数は約428万人(2003年時点で)で、労働力人口の14%強に相当し、若年者の職業訓練及び労働者の能力開発の目標としてよく機能している。資格が社会的に通用性があって、広く普及していくためには、実際の職務を遂行する能力を証明する機能を備えていることはもちろんのことであるが、資格に高い信頼性があることが求められる。

NVQの取得訓練では、有資格者である評価者、内部監査員及び外部監査員がNVQの認定作業に係わる。まず、評価者が応募者(訓練生)の達成度を評価し、評価結果を内部監査員が監査する。そして、その結果を外部監査員が監査をするという、三重の品質保証システムを構築している。それぞれの有資格者の資格要件の中では、職務遂行能力に加えてNVQの認定作業に関する品質保証システムへの係わりも規定されており、結果として、NVQの認定に係る評価の妥当性、客観性、均一性、首尾一貫性といったことが確保され、NVQの品質を保証している。

職業教育訓練の品質保証

これまでイギリスでは、提供する資格の品質を保証し、資格への信頼性を高めるために、評価及び監査業務を重要視して、資格取得までの過程である訓練の実施面とそれを担う指導者の資格要件については、あまり目が向けられていなかった。そして、そのことが多くの無資格の指導スタッフで職業教育訓練が進められるという状況を作ってきた。

政府もこのような状況を改善して、提供される訓練についてもその品質を保証しようという動きを強めている。訓練の質を確保するために、訓練を担当する指導スタッフの専門知識・技能と教育能力を認定する資格の取得を義務づける動きである。

継続教育カレッジの講師スタッフに対しては、2001年9月以降、継続教育教師資格の取得を義務づけて、現在、その取り組みが進められている。また、NVQの取得訓練を担当するトレーナー等の指導者に対しても、2002年6月に関連資格を大幅に改訂、整備したことを期して、2010年までに関連資格を取得するように、という指針が示されている。

「質の高い訓練は質の高い指導スタッフで」

この背景には、有資格の専門家によってNVQの品質保証システムを運営してNVQの品質を確保し、結果として、多くの人々にNVQ資格制度が支持され、普及に成功しているということがある。職業教育訓練を担当する指導スタッフに対して、訓練システムの中での彼等の役割と機能を明確に規定した資格を取得させるという今回の施策は、「質の高い訓練は、質の高い指導スタッフ(一定の基準で認証された資格の保持者)による訓練システムの実施・運営によって提供される」という考え方に基づくものといえる。

有資格者による訓練の実施を義務づけて訓練の質を確保するという制度は、多くの国で実施されているが、ISO 9000の考えを反映させて訓練活動全体に品質保証システムを取り入れるという試みは、欧米諸国でも他に例を見ない新しい職業訓練の実践といえる。今後、この新しい取り組みが、NVQ取得訓練において、訓練修了率やNVQ取得率の改善にどんな効果をもたらすのか期待と注目が集まっている。