CSR(企業の社会的責任)―定着か停滞か

調査解析部主任調査員 野村かすみ

2000年以降、「企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility、CSR)」という言葉がマスコミでも頻繁に取り上げられるようになり、当初は、「CSR」って何?という説明を求められることが多かったが、今では説明がなくても、広く一般に知られるようになってきた。しかし、実際に「CSR」は、日本社会にどの程度浸透しているのであろうか。

先日、「組織とガバナンス」をテーマとするある学会を傍聴させていただいた。そこで日本企業の「CSR」への取り組みへの問題提起として興味深いお話を聞くことが出来た ―― CSRの議論はブームのように時代とともに盛り上がったり、しぼんだりしてきた経緯があるといわれる。たとえば、70年代のCSR議論は、公害問題が引き金となって盛り上がったが、石油危機以降は一気に衰退した。これに対して、2003年からのCSR議論は様相を少し違えているという。

確かに、今、日本企業は、市場獲得競争、コスト削減競争の中でグローバル展開を余儀なくされている。どのような業種、規模の企業でも、国際的動向を視野に入れ、市場での評価に目配りしながら業績を上げていくことを考えなくてはいけない現状がある。日本企業の競争相手は国内市場にとどまらず、全世界規模のグローバルマーケットなのである。そうした中、競争力確保とCSRの関係は、トレードオフと捉える見方もある。

しかし、企業、株主、消費者、従業員等マルチステークホルダーの概念をいち早く打ち出したEU(欧州連合)では、「競争力とCSRはどのようにつながるのか」について社会全般と個別企業の各レベルでの検討がなされ、従業員に関することをはじめ、リスク管理、評判管理、イノベーションなどにCSRが強く影響を及ぼすことが報告されている。 CSRは、従業員にとって働く意欲を高めるものであり、企業の多様な人材の活用は事業活動を効率的に進め、イノベーションを促進するドライバーになるという指摘である。

日本の現状を振り返ってみると、専門機関の調査結果では、現在までCSRに何らかの形で取り組んでいる企業は上場企業では約9割をこえ、特にCSR部署の設置、役員の配置、報告書の作成などへの取り組みは半数以上がすでに着手している。昨年秋以来の世界的な金融危機に直面して、事業内容等の優先順位の見直しはしているものの、CSRの理念や取り組み姿勢は変えていないとする企業も大半を占めている。

確実にCSRの制度化は進んでいる。しかし、実際にCSRが浸透していくためには、社会の成熟が必要であるともいわれる。「責任」をどう理解するかという意識の問題が残されているように感じられる。CSRで報告されている事項は、形式的なものとなっていないだろうか。EUのような発想が根底にあるのかどうか・・・等々。こうしたことを含めて、現状がどのようになっているのか、事例調査を通じて、これから明らかにしていきたい。

(2009年11月27日掲載)