思い込み

統括研究員  藤井 伸章

労働関係の個別紛争については、その解決のため、都道府県労働局や都道府県労働委員会、また一部の地方自治体(労政主管事務所)ではあっせんを行っている、また、裁判所でも労働審判制度が始まり、民間団体でも様々な取組みが行われている。

昨年度、こうした紛争解決・予防システムについて、都道府県の各機関、団体の多くの担当者の方々からヒアリングする機会を得た。

ところで、ヒアリングの過程で、いわば思い込みが基で、話がかみ合わなかったことがあった。いくつか紹介したい。

1つ目は、あっせんや調停の進め方である。いずれも合意解決を目指すものであるが、例えば、労働局のあっせんの場合、あっせん案の作成に関して法律に規定もあり、合意解決の方法を単純に分けると、 (1) あっせん委員の作成したあっせん案の受諾によるものと  (2) それ以外のいわば話合いによるものの2つがある。他の機関も同じという思い込みで、他機関のあっせんや労働審判制度の調停について、話合いによる解決かあっせん案(又は調停案)の受諾による解決か尋ねてみても、話がかみ合わなかった。これらの機関では、あっせん案(又は調停案)の作成に関する規定もなく、何をもってあっせん案、調停案と言うか定義があるわけでもなく、いずれも最終目的は合意解決なのであえて区別する意味が乏しいからである。例えば、労働審判では調停案の提示?は必ずしも書面で行われていないところもあり、また書面で調停案を提示したとしても調停の過程で修正することもあり、単純に受諾か否かという形になっていない。

もう1つは、あっせんや調停を行う際、紛争当事者は顔を合わせない場面はあるものの両者は基本的にその場にいるものと思っていた。しかしながら、労政主管事務所のあっせんの場合、それはむしろ稀で、双方いることを前提に当事者は顔を合わせるのか否か尋ねても話がかみ合わない。双方が居合わせることがないので顔を合わせようがないからである。

また、これは話がかみ合わなかったという逸話ではないが、紛争解決は迅速性も大きなポイントなので各機関の処理期間の比較を試みた。比較は当然同じ物差しであるべきである。その際、起算日はどの機関も利用者の申請(又は申立)時と思い込んでいた。しかしながら、必ずしもそうではない。例えば、労働局のあっせんは、後々裁判所に訴えるに当たり時効の中断と関係することもあり、いつ申請したかは重要で起算日は申請した日となるが、労働委員会や労政主管事務所のあっせんは、時効の中断と関係しないこともあり起算日をどこにするかはさしたる意味を持たない。実際、起算日はあっせん員の指名日という労働委員会もある。また、労政主管事務所ではそもそも申請書の提出という手続きを必要としていないところが多い。

いずれにしても、ヒアリングを受けていただいた担当者の方々には、お忙しい中、ご丁寧な説明をいただき、また、様々な形でご協力いただいたことに、この欄を借りて、まずもって感謝申し上げたい。また、こうした思い込みのため、お話を伺う中で、しばしばフラストレーションを感じることがあったと思われるが、こうした事情があったことに御理解賜るとともにお詫び申し上げたい。

(2008年 6月6日掲載)