富士保安警備事件

労働判例

【事件名】損害賠償請求事件

【いわゆる事件名】富士保安警備事件

【裁判所名】東京地方裁判所

【裁判年月日】平成 8年 3月28日

【事件番号】平成4年(ワ)第11852号

【判例要旨】

1.一 警備業務中に脳梗塞で死亡した被災者Aの遺族Xらが使用者Y1保安警備会社及びその代表取締役Y2に対して損害賠償請求をしたという事案につき、Y1会社はAとの雇用契約上の信義則に基づき使用者として労働者の生命、身体、健康を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負い、その具体的内容として、労働時間等について適正な労働条件を確保し、更に健康診断を実施した上労働者の健康に配慮し、年齢、健康状態等に応じて、労働者の従事する作業内容の軽減等適切な措置をとるべき義務を負うべきところ、Y1会社は、労働基準法及び就業規則に定める労働時間、休日の保障を全く行わず、恒常的な過重業務を行わせながらAを採用して以降健康診断を実施せず、健康状態の把握を怠った上、Aが就職当初から高血圧症の基礎疾患を有することを認識できたにもかかわらず、その後の勤務内容等について、年齢、健康状態等に応じた作業内容の軽減等適切な措置を全くとらなかった結果、Aの基礎疾患と相まって、Aの脳梗塞を発症させたものであるから右安全配慮義務に違反したものというべく、民法415条に基づきAに生じた損害につき賠償すべき責任がある。

二 Y1会社の代表取締役であるY2についてY1会社の業務執行中の過失責任が認められることから、Y1会社は、民法44条、709条に基づいても、右損害を賠償すべき責任がある。

三 Y1会社は警備員30名程度の規模であり、Y2はY1会社の代表取締役かつ唯一の常勤取締役として従業員の雇用、勤務地の指定等会社業務全般を統括管理していたことが認められるが、このようなY1会社の規模、取締役の勤務形態等に鑑みれば、Y2はその職責上Y1会社において労働基準法等に定める労働時間を守り、従業員の健康診断を実施し、従業員の健康に問題が生じれば作業内容の軽減等の措置をとることを確保すべき義務を負っていたものというべきところ、Y1会社はこれらの点をいずれも行わず安全配慮義務に違反したのであり、Y2は右確保義務を怠っていたことは明らかであって、Y2の右義務懈怠もあってAの脳梗塞が発症したものというべきであるから、Y2は民法709条に基づきAに生じた損害を賠償すべき責任がある。

2.警備会社は、雇用契約上の信義則に基づき安全配慮義務を負い、その内容は、労働時間、休憩時間、休日、休憩場所等について適正な労働条件を確保し、健康診断を実施したうえ、労働者の健康に配慮し、年齢、健康状態等に応じて、労働者の従事する作業内容の軽減、就業場所の変更等適切な措置をとることであり、会社がこれらの義務を怠った結果、被災労働者の基礎疾患と相まって、脳梗塞を発生させた場合には、安全配慮義務に違反し損害賠償責任を負う。

3.従業員30名程度の規模の警備会社の代表取締役、かつ、唯一の常勤取締役であった被告が、従業員の健康診断を実施し、問題があれば作業内容の軽減等の措置をとるべきであったのに、これに違反したとして、過労死した従業員に対して民法709条により不法行為責任を負うものとされた事例。

4.高血圧症等の基礎疾患を有していた労働者が、過労により脳梗塞になった場合に、労働者の基礎疾患等と過重な業務の遂行とが共働原因となって脳梗塞で死亡したものとして死亡と業務との間に相当因果関係が認められたが、公平の観点から民法722条2項を類推適用して60パーセントが減額された事例。

5.警備会社の従業員が、過重な労働により脳梗塞で死亡したが、使用者が健康診断を実施せず、被害者が当時から高血圧症であったのに勤務内容の軽減等適切な措置をとらなかった点が、安全配慮義務に違反し民法415条の債務不履行責任が成立し、また、民法709条、44条の不法行為責任も成立するとされた事例。

【裁判結果】一部認容、一部棄却

【出典名】判例時報1635号109頁/判例タイムズ973号174頁/労働判例694号34頁