Q1 公益通報者保護法について教えてください。

ご利用にあたって

  • 労働問題Q&Aは個別事案について法的なアドバイスをするものではありません。
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具体的なご相談は、厚生労働省「総合労働相談コーナー」新しいウィンドウなど行政機関等の相談窓口にお尋ねください。


質問

公益通報者保護法は、企業の法令違反などを内部告発した労働者をどのように保護しているのですか?告発先としてはマスコミや所轄の行政官庁などが考えられますが、告発先によって保護に違いはありますか?

回答本文の内容は執筆時点のものです。その後の法改正などは反映しておりません。

ポイント

公益通報者保護法では、労働者が不正の目的でなく、企業の犯罪行為など違法行為を警察や所轄行政官庁等に通報した場合には、その労働者を解雇したり不利益な取扱いをしたりしないことが義務づけられています。

解説

新しいウィンドウが開きます公益通報者保護法(2004年(平成16年)制定)は、一言でいえば、企業における内部告発を保護する法律です。従業員による内部告発は、不祥事を明らかにすることで企業のコンプライアンス(法令遵守)を高め、ひいては消費者や社会全体の利益につながるという側面をもっています。しかし、同時に、企業の名誉・信用を損なう行為として、懲戒処分等の対象となりうるという側面ももっています。実際、裁判例には、企業が内部告発をした従業員に対し懲戒処分を行い、従業員がこれを争うという事案が数多く見られます(宮崎信用金庫事件・福岡高宮崎支判平成14・7・2労判833号48頁、大阪いずみ市民生活協同組合事件・大阪地堺支判平成15・6・18労判855号22頁など)。そこで、内部告発をした労働者を保護する立法として、新しいウィンドウが開きます公益通報者保護法が制定されたわけです。

新しいウィンドウが開きます公益通報者保護法は、およそ内部告発といえればすべて保護するというのではなく、「公益」という概念を前面に打ち出していることからもわかるように、公益に資する告発すなわち「公益通報」行為に限って保護するという枠組みです。つまり、いわゆる内部告発のうち、同法所定の要件を満たすものを保護するわけです。なお、同法で保護がなされない内部告発については、もしそれを理由とする懲戒処分や解雇がなされた場合、懲戒に関する法理(新しいウィンドウが開きます労働契約法15条)や解雇権濫用法理(新しいウィンドウが開きます同16条)といった(内部告発に限られない)一般的なルールに沿って保護されるか否かが判断されることになります。

公益通報者保護法の基本的な枠組みは、 (1)通報対象事実が発生し、または発生しようとしていることを、 (2)従業員が、不正の目的でなく通報した(公益通報を行った)場合、その公益通報を行ったことを理由に解雇その他の不利益取扱い(懲戒処分、降格、減給など)をすることを禁止するものです(新しいウィンドウが開きます同3条新しいウィンドウが開きます5条)。

まず、 (1)公益通報の対象となる「通報対象事実」ですが、限定されている点に特徴があります。通報対象事実は、個人の生命や身体の保護、消費者の利益の擁護、環境の保全、公正な競争の確保などに加え、国民の生命・身体・財産その他の利益の保護にかかわる法律に規定する犯罪行為などです(新しいウィンドウが開きます同2条3項)。ただし、刑法やその関連法規には膨大な犯罪類型が規定されているため、公益通報者保護法はどのような法律の違反行為が通報対象事実になるかを具体的に列挙しています(新しいウィンドウが開きます同法別表)。そこには、刑法をはじめ、食品衛生法、証券取引法、JAS(日本農林規格)法、大気汚染防止法、廃棄物処理法、個人情報保護法が挙げられ、最後にその他政令で定める法律が挙げられています。

次に、 (2)「公益通報」とは、通報対象事実が発生したこと、または、まさに発生しようとしていることを、従業員が、不正の目的でなく、通報することを意味しています。このとき、通報先によって保護されるための要件が異なることが公益通報者保護法の大きな特徴です(新しいウィンドウが開きます同3条)。簡単に言えば、通報先が外部になればなるほど、保護されるための要件が厳しくなります。

まず、a.企業内部(当該労務提供先等)に対する通報は、通報対象事実が生じ、またはまさに生じようとしていると思料する場合であれば保護されます。思料すれば(そう思えば)保護されるということは、通報が不正の目的でないことをもって足りると説明することもできるでしょう。

次に、b.所轄の行政機関(当該通報対象事実について処分または勧告等をする権限を有する行政機関)に対する通報は、通報対象事実が生じ、またはまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があることが求められます。「信ずるに足りる相当の理由」が求められる点で、a.の場合より保護の用件が厳しいと言えます。

最後に、c.マスコミなどの報道機関を念頭に置いた「その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生またはこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者」に対する通報は、bに挙げた「信ずるに足りる相当の理由」に加え、以下のいずれか、すなわち、a.やb.の通報では解雇その他の不利益取扱いを受けるおそれがあること、a.の通報では企業による証拠隠滅のおそれがあること、企業からa.やb.の公益通報をしないことを正当な理由なく要求されたこと、a.の通報を行ってから20日以内に調査を行う旨の通知が企業からなされないこと、個人の生命または身体に危害が発生あるいは発生する急迫した危険があると信じるに足りる相当な理由があることのいずれかの要件を満たす必要があります。

このように、公益通報者の保護が法的に明確な義務として課されていること、そして公益通報が企業内で生じうる違法行為を未然に防止する機能ももつことをあわせ考えれば、公益通報を的確に受け止める窓口や手続を整備しておくことが企業にとって重要であるといえるでしょう。

関係法令・資料

公益通報者保護法(平成16年06月18日 法律第122号)第2条 3条 5条 別表

労働契約法(平成19年12月05日 法律第128号)第15条 16条

(成蹊大学法学部准教授 原 昌登)

2011年3月掲載