Q6 社会保険の加入手続きを会社がしてくれない場合、どうしたらよいですか。

質問

今の職場に臨時職員として採用されたときに、社会保険には正社員でなければ加入できないとの説明を受け、健康保険や厚生年金保険に加入させてもらえませんでした。

しかし、自分で調べたところ、臨時職員であっても要件を満たせば社会保険に加入できることが分かりました。このままでは将来受け取る年金の額に影響が出るのではないかと心配なのですが、事業主に相談しても取り合ってくれません。どうしたらよいのでしょうか。

回答

ポイント

  1. 健康保険や厚生年金保険の被保険者資格は、保険者等による確認を受けなければ有効に主張することができません。資格取得の確認は、通常は事業主からの届出に基づき行われますが、被保険者から請求することもできます。
  2. 事業主が被保険者資格の届出を怠り、保険料を納付しなかったために将来受け取る年金額が減少した場合、事業主に対して損害賠償を請求することができます。ただし、損害額の証明が難しい場合も多くあります。

解説

健康保険および厚生年金保険は強制保険ですので、法律が定める適用事業所(新しいウィンドウが開きます健康保険法3条3項新しいウィンドウが開きます厚生年金保険法6条)に使用されることによって当然に被保険者資格が発生します。しかし、被保険者資格の取得は健康保険組合または厚生労働大臣による確認によってその効力を生じることとされており(新しいウィンドウが開きます健康保険法39条1項新しいウィンドウが開きます厚生年金保険法18条1項)、被保険者は確認がなされるまでは被保険者資格を有効に主張することができません(山本工務店事件・最高裁昭和40年6月18日第二小法廷判決)。

健康保険組合や厚生労働大臣による確認は、通常は、事業主による届出を受けてなされます。事業主には、その従業員について被保険者資格の取得を届け出ることが義務付けられています(新しいウィンドウが開きます健康保険法48条新しいウィンドウが開きます厚生年金保険法27条)、しかし、事業主と従業員との間で被保険者資格の有無を巡って見解が分かれる場合や、事業主が報告を怠る場合もあるでしょう。そのような場合には、被保険者自身が直接、保険者等に対して資格取得の確認を請求することができます(新しいウィンドウが開きます健康保険法51条1項新しいウィンドウが開きます厚生年金保険法31条1項)。また、行政庁が監督等によって未届けの被保険者を発見したときには、職権で資格の確認を行うこともあります。

さて、事業主が被保険者資格の届出もせず、保険料の納付をも怠っていた場合、被保険者にとってどのような不利益があるでしょうか。健康保険および厚生年金保険の保険料の徴収権は、2年間で時効消滅します(新しいウィンドウが開きます健康保険法193条新しいウィンドウが開きます厚生年金保険法92条)。したがって、過去2年間以上を遡って保険料を追納することはできません。健康保険については、受けられるはずだった傷病手当金や、健康保険と国民健康保険の保険料の差額などが問題となるでしょう。厚生年金保険については、保険料徴収権が時効消滅した期間は年金額の算定に反映されません(新しいウィンドウが開きます厚生年金保険法75条)ので、被保険者が将来受け取る年金の額が減少してしまうという問題が生じます。

それでは、事業主が被保険者資格の届出を怠ったために将来受け取る年金の額が減ってしまった被保険者は、どのようにしてその損害の填補を求めることができるでしょうか。上述したように、健康保険法および厚生年金保険法は事業主に対して被保険者の資格取得を届け出る義務を課しており、事業主がこれに違反した場合には罰則の適用があります(新しいウィンドウが開きます健康保険法208条新しいウィンドウが開きます厚生年金保険法102条)。そして、この事業主の届出義務が公法上の義務に留まらず、私法上の義務をも構成することは、裁判例および学説によっておおむね肯定されているところです。使用者が負う義務を不法行為法上の注意義務に留めるのか、より積極的に労働契約に付随する義務と解するのかは、裁判例・学説によって見解が分かれるところです。いずれにせよ、事業主の届出義務違反によって損害を被った被保険者は、事業主に対して損害賠償を請求することができます。

ただし、被保険者の年齢がまだ若い場合には、年金の受給可能性や受給額がいまだ不明確であって損害額が証明できないとして、損害賠償請求が棄却される傾向にあります。また、被保険者が確認の請求や関係行政機関への相談などの行動を取っていなかった場合、過失相殺が行われることがあります。したがって、質問の事例の場合には、まず何よりも健康保険組合や年金事務所に相談し、資格取得の確認の請求を行うべきでしょう。

なお、平成19年に制定・施行された「新しいウィンドウが開きます厚生年金保険の保険給付及び保険料の納付の特例等に関する法律」(厚生年金特例法)によって、一定の場合には保険料徴収権が時効消滅した期間についても年金が支払われるようになりました。事業主が保険料を給与から天引きしていたにもかかわらず、保険料の納付が行われておらず、かつ被保険者がその事実を知らなかった場合には、年金記録第三者委員会による認定を経て年金記録の訂正を受けることができます。この場合、事業主に対しては、特例納付保険料として未納分の保険料を納付することが奨励されます。しかし、質問の事例では、事業主が保険料の給与からの天引きを行っていないと思われますので、同法の適用対象とはなりません。

最後に、雇用保険について言及しておきます。新しいウィンドウが開きます雇用保険法においても、被保険者資格の取得は厚生労働大臣が確認します(新しいウィンドウが開きます雇用保険法9条1項)。確認は、通常は、事業主による届出(新しいウィンドウが開きます同法7条)を受けて行われますが、被保険者が確認を請求することもできます(新しいウィンドウが開きます同法8条)。雇用保険による基本手当の受給には一定の被保険者期間があることが必要ですし、基本手当の支給日数にも被保険者として雇用されていた期間(算定基礎期間)の長さが反映されます(→新しいウィンドウが開きます10-Q4参照)。しかし、原則として、資格取得の確認がなされるよりも2年以上前の期間は、被保険者期間や算定基礎期間に算入されません(新しいウィンドウが開きます同法14条2項2号新しいウィンドウが開きます22条4項)。そのため、事業主が被保険者資格取得の届出をせず、確認が行われないまま2年を経過すると、被保険者は基本手当を受けられない、あるいは基本手当の支給日数が短くなるといった不利益を被ることになります。

そこで、平成22年改正により、同年10月から、事業主が被保険者の資格取得の届出を行わなかったために雇用保険に未加入となっていた者が、給与から雇用保険料を控除されていた場合には、2年以上前に遡って被保険者期間および算定基礎期間を算定することとなりました(新しいウィンドウが開きます同法14条2項2号括弧書新しいウィンドウが開きます22条5項)。この場合、当該事業主が雇用保険の保険関係の成立の届出(新しいウィンドウが開きます労働保険の保険料の徴収等に関する法律4条の2)をしていなかったときは、保険料の徴収権が時効消滅した後も特例納付保険料の納付を勧奨されます(新しいウィンドウが開きます同法26条)。

関係法令・資料

健康保険法(大正11年04月22日 法律第70号) 39条48条51条193条

新しいウィンドウが開きます厚生年金保険法(昭和29年05月19日 法律第115号) 18条27条31条75条92条102条

厚生年金保険の保険給付及び保険料の納付の特例等に関する法律(平成19年12月19日 法律第131号)

雇用保険法(昭和49年12月28日 法律第116号) 7条8条9条14条22条

労働保険の保険料の徴収等に関する法律 26条(昭和44年12月09日 法律第84号)

(名古屋大学准教授 中野 妙子)

2010年11月掲載