Q3 従業員が健康診断の受診を拒否した場合、どのような法的問題があるでしょうか。

ご利用にあたって

  • 労働問題Q&Aは個別事案について法的なアドバイスをするものではありません。
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具体的なご相談は、厚生労働省「総合労働相談コーナー」新しいウィンドウなど行政機関等の相談窓口にお尋ねください。


質問

ポイント

「従業員が、労働安全衛生法に基づく社内の定期健康診断の受診を拒否しました。これに対して、懲戒処分などができるのでしょうか。人間ドックのような、労働安全衛生法とは関係のない健康診断の場合はどうでしょうか」

回答本文の内容は執筆時点のものです。その後の法改正などは反映しておりません。

ポイント

  1. 新しいウィンドウが開きます労働安全衛生法(以下「労安衛法」)に規定された健康診断については、労働者は受診義務を負っており、事業者は受診命令に従わない労働者に対して懲戒処分をもって対処することもできます。
  2. 法定外の健康診断についても、その合理的必要があれば、労働者に受診義務が課されるものと解されています。

解説

労安衛法は、事業者に対し、雇入れ時および年1回の定期(深夜業や坑内労働などの特定業務従事者は年2回)に労働者の健康診断を実施することを義務付けています。また、一定の有害業務に従事する労働者については、特殊健康診断も実施しなければなりません。さらに、都道府県労働局長は、労働者の健康を保持するために必要があると認めるときは、事業者に対して臨時の健康診断の実施を指示することができます(新しいウィンドウが開きます労安衛法66条新しいウィンドウが開きます労安衛法施行令22条新しいウィンドウが開きます労働安全衛生規則43条新しいウィンドウが開きます45条)。事業者は、これらの健康診断の結果を記録しておかなければならず(新しいウィンドウが開きます労安衛法66条の3)、また、診断の結果から必要があると認めるときは、労働者の就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少などの措置を講じるほか、作業環境測定の実施、施設または設備の設置・整備などの適切な措置を講じなければなりません(新しいウィンドウが開きます労安衛法66条の5)。

これらの健康診断を確実に実施し、労働者の健康管理をより万全に行うため、労安衛法は労働者に対して健康診断の受診義務を課しています(新しいウィンドウが開きます労安衛法66条5項)。ただし、労安衛法は、事業者が指定する医師以外の医師による健康診断を受ける「医師選択の自由」を認めています。労働者は、事業者が指定した医師による健康診断の受診を希望しない場合は、別の医師による健康診断を受けて、その結果を事業者に提出しなければなりません。労安衛法は、労働者の受診義務違反に対する罰則は設けていません。しかし、裁判例では、事業者は労働者に対して労安衛法上の健康診断の受診を職務上の命令として命じることができ、受診拒否に対しては懲戒処分を行うことが認められています。

さて、上述した労働者の受診義務や医師選択の自由に関する労安衛法の規定は、事業者が自主的に行う法定外健診(労安衛法上の健康診断には該当しない健康診断)には及びません。そこで、法定外健診について労働者の受診義務があるか、受診義務がある場合に医師選択の自由は認められるのかが問題となります。裁判例では、就業規則および労働協約に基づく事業者指定の病院における健康診断について、労働者の病気治癒という目的に照らして合理的で相当な内容であれば、労働者に受診義務が存在し、医師選択の自由を理由にこれを拒否することはできないと解されています。このような場合、事業者は、受診を拒否する労働者に対して懲戒処分を行うこともできます。

なお、法定・法定外を問わず、労働者による健康診断の受診拒否は、のちに労働者に健康障害が発見された場合に事業者に対する安全配慮義務違反に基づく損害賠償を請求する際に、過失相殺の対象となる可能性があります。

関係法令・資料

労働安全衛生法 (昭和47年06月08日 法律第57号)新しいウィンドウが開きます 66条66条の366条の5

労働安全衛生法施行令(昭和47年08月19日 政令第318号)22条

労働安全衛生規則(昭和47年09月30日 労働省令第32号)43条44条45条

(名古屋大学准教授 中野 妙子)

2010年3月掲載