Q1 労働安全衛生法の基本的な仕組みを教えてください。

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  • 本文の内容は各執筆者個人の責任によるもので、機構としての見解を示すものではありません。
  • 本文の内容は執筆時点のものです。その後の法改正などは反映しておりません。

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回答

ポイント

新しいウィンドウが開きます労働安全衛生法(以下「労安衛法」という)は、職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的とする法律です。労安衛法は、安全衛生管理体制、労働者を危険や健康障害から守るための措置、機械や危険物・有害物に関する規制、労働者に対する安全衛生教育、労働者の健康を保持増進するための措置などについて定め、職場の安全衛生に関する網羅的な法規制を行っています。

解説

労安衛法は、職場における労働者の安全と健康を守り、労働災害を防止することを目的とする法律です。労安衛法は、13章および附則からなり、総則、労働災害防止計画、安全衛生管理体制、労働者の危険又は健康障害を防止するための措置、機械等並びに危険物及び有害物に関する規制、労働者の就業に当っての措置、健康の保持増進のための措置、快適な職場環境の形成のための措置、安全衛生改善計画等について定めています。以下では、これらの規定のうち主なものについて、その基本的な内容を紹介します。

(1) 安全衛生管理体制新しいウィンドウが開きます労安衛法第3章

 労働災害は、各事業場において、それぞれの事業者の責任により防止されなければなりません。新しいウィンドウが開きます労安衛法第1条は、「職場における労働者の安全と健康を確保」するという目的を果たすための手段の一つとして、「責任体制の明確化及び自主的活動の促進への措置を講ずる」ことを掲げています。これを受けて、新しいウィンドウが開きます労安衛法第3章は、安全衛生管理体制について定めています。

まず、一定規模以上の事業場では、当該事業場における安全衛生業務全般を統括管理する責任を負う者として、その事業場の責任者を「総括安全衛生管理者」として選任しなければなりません(新しいウィンドウが開きます労安衛法10条)。また、統括安全衛生管理者の下には、「安全管理者」(新しいウィンドウが開きます労安衛法11条)や「衛生管理者」(新しいウィンドウが開きます労安衛法12条)(安全管理者・衛生管理者の選任を義務付けられていない小規模事業場では「安全衛生推進者」(新しいウィンドウが開きます労安衛法12条の2))を配置することとされています。さらに、事業場の安全衛生管理に労働者の意見を反映させるために、一定の業種で常時100人以上(特定業種にあっては50人以上)の労働者を使用する事業場では「安全委員会」を、全ての業種で常時50人以上の労働者を使用する事業場では「衛生委員会」を設置することが義務付けられています(新しいウィンドウが開きます労安衛法17条、18条)。

安全衛生管理体制の中でも、特にその役割の重要性が近年注目されているものとして、産業医(新しいウィンドウが開きます労安衛法13条)の制度があります。産業医とは、事業者に雇用され、または事業者の嘱託として事業場の労働者の健康管理等を行う医師です。常時50人以上の労働者を使用する事業場では、産業医の選任が義務付けられています(新しいウィンドウが開きます労安衛法施行令5条)(常時3000人を超える労働者を使用する事業場では2名以上の産業医の選任が必要)。産業医の職務は、労働者の健康管理、作業環境の維持管理、衛生教育など多岐に渡りますが、とりわけ、健康診断の実施や保健指導は重要な職務といえるでしょう。しかし、実際には、多くの労働者が産業医の選任義務のない小零細事業場で働いており、また、労働者数が50人以上100人未満の中小事業場では産業医の選任率が低いことが、問題として指摘されています。平成8年の法改正により、常時50人未満の労働者を使用する事業場についても、医師等に労働者の健康管理等を行わせる努力義務が課され、国が必要な援助を行うことが定められています(新しいウィンドウが開きます労安衛法13条の2新しいウィンドウが開きます19条の3)。

(2) 労働者の危険又は健康障害を防止するための措置新しいウィンドウが開きます労安衛法第4章

 新しいウィンドウが開きます労安衛法第4章は、事業者に対して、様々な労働災害防止措置を講ずるよう義務付けています。ただし、事業者が講じるべき措置の具体的内容は、技術的細部にわたることも多いため、大部分が厚生労働省令に委ねられています。この委任に基づく省令の条文数が膨大であることが、質問にあるように労安衛法の内容を理解しにくくさせていることの一因でしょう。

(3) 機械等並びに危険物及び有害物に関する規制新しいウィンドウが開きます労安衛法第5章

 機械等の規制に関しては、特に危険な作業を必要とする機械(特定機械)等については、その製造に都道府県労働基準局長の許可が必要であり、製造時・輸入時には検査を受けることが義務付けられています(新しいウィンドウが開きます労安衛法37条、38条)。特定機械等以外の機械でも、労働者に危険を生ずるおそれのある機械などについては、その譲渡や貸与に制限が付されています(新しいウィンドウが開きます労安衛法42条、43条)。また、事業者には、一定の機械について定期的に自主検査を行うことが義務付けられています(新しいウィンドウが開きます労安衛法45条)。

 有害物の規制に関しては、製造または取扱いの過程において労働者に重大な健康障害を生ずる物質のうち、通常の手段によってはそのような健康障害の発生を完全には防止できないものについては、製造、輸入、譲渡、提供、使用が禁止されています(新しいウィンドウが開きます労安衛法55条)。これに至らない場合でも、労働者に危険または健康障害を生ずるおそれのある物質は、その製造に厚生労働大臣の許可が必要であったり、その容器に有害性を表示することが義務付けられていたりします(新しいウィンドウが開きます労安衛法56条、57条)。

(4) 労働者の就業に当っての措置新しいウィンドウが開きます労安衛法第6章

 労働災害を防止するためには、事業者が設備や作業環境等について安全を図ると同時に、労働者自身がその業務に含まれる危険性・有害性を了知し、適切な対応方法を熟知した上で作業に臨むことが重要です。そこで、事業者には、労働者を雇い入れたときには遅滞なく、機械等・原材料等の危険性・有害性およびこれらの取扱い方法、安全装置・有害物抑制装置・保護具の性能およびこれらの取扱い方法、作業手順、作業開始時の点検、当該業務に関して発生するおそれのある疾病の原因および予防、整理・整頓および清潔の保持、事故時等における応急措置および退避などの点について、労働者が従事する業務に関して必要な安全衛生教育を行うことが義務付けられています(新しいウィンドウが開きます労安衛法59条新しいウィンドウが開きます労働安全衛生規則35条)。労働者の作業内容を変更した場合も同様です。

(5) 健康の保持増進のための措置新しいウィンドウが開きます労安衛法第7章

 労安衛法は、事業者に、労働者に対して医師による健康診断を実施する義務を課しています(新しいウィンドウが開きます労安衛法66条)。事業者は、健康診断の結果に基づき労働者の健康を保持するために必要な措置について医師の意見を聴取し、必要があるときは、労働者の就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講じなければなりません(新しいウィンドウが開きます労安衛法66条の5)(→新しいウィンドウが開きます8-Q3参照)。

また、平成17年の法改正によって、長時間労働者への医師による面接指導の実施も義務付けられました。具体的には、週40時間を越える労働が1月あたり100時間を超え、かつ疲労の蓄積が見られる労働者が申し出たときは、事業者は、医師による面接指導を行わなければなりません(新しいウィンドウが開きます労安衛法66条の8新しいウィンドウが開きます労働安全衛生規則52条の2)。それ以外の労働者についても、長時間の労働により疲労の蓄積が見られる者や、健康上の不安を有している労働者などについて、事業者は医師による面接指導またはこれに準ずる措置を取らなければなりません(新しいウィンドウが開きます労安衛法66条の9)。

(6) 事業者および労働者の義務

 以上に述べた安全衛生の様々な措置について、最も中心的な責任を負うのは事業者です。事業者が労安衛法の規定に違反すると、多くの場合、懲役や罰金などの罰が科されます(新しいウィンドウが開きます労安衛法第12章)。また、監督行政庁が事業者に対して、労働災害の発生防止のために、作業の停止や建物の使用の停止などを命じることもあります(新しいウィンドウが開きます労安衛法98条)。

 職場の安全衛生を確保するためには、実際に作業に従事する労働者自身の自覚と協力も不可欠です。そのため、労安衛法は、労働者に対しても、労働災害防止のために必要な事項の遵守や関係者の実施する労災防止措置への協力を義務付けています(新しいウィンドウが開きます労安衛法4条)。また、労働者は、事業場に労安衛法およびこれに基づく命令に違反する事実があるときは、これを監督行政庁に申告し、是正のための措置を取るよう求めることができます(新しいウィンドウが開きます労安衛法97条)。事業者は、労働者がこの申告をしたことを理由として、当該労働者を不利益に取り扱ってはなりません。

関係法令・資料

労働安全衛生法(昭和47年06月08日 法律第57号)新しいウィンドウが開きます 第3章第4章第5章第6章第7章

労働安全衛生法施行令(昭和47年08月19日 政令第318号)

労働安全衛生規則(昭和47年09月30日 労働省令第32号)

(名古屋大学准教授 中野 妙子)

2010年3月掲載