Q19 失踪して行方不明となった従業員に関する対応で法的に問題となる点を教えて下さい。

ご利用にあたって

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質問

ある従業員が突然失踪してしまい、無断欠勤を続けたまま1カ月が経ちます。携帯電話にも出ませんし、自宅のアパートや実家に連絡してもまったく所在がわかりません。会社としてはやむを得ずこの従業員を退職扱いにしようと考えているのですが、法的に注意すべき点などを教えて下さい。

回答本文の内容は執筆時点のものです。その後の法改正などは反映しておりません。

ポイント

行方不明の労働者に対して解雇の意思表示をするためには、裁判所で公示による意思表示という手続きを取る必要があります。また、就業規則で、無断欠勤が長期間続いた場合は退職扱いとする旨、定めておくことも有益と考えられます。

解説

〈行方不明者に対する解雇の意思表示〉

突然失踪し無断欠勤を続けたまま、携帯電話でも連絡が取れず、自宅(実家)に連絡しても本人の居場所がわからないといった状態が続いた場合、通常は就業規則所定の普通解雇事由に該当するものと思われます。事情を考えれば、この場合の解雇が解雇権濫用(新しいウィンドウが開きます労働契約法16条)でないと認められる可能性は高いでしょう。しかし、ここで問題となるのは、会社が何をすればこの労働者を解雇したことになるか、という点です。というのも、解雇は、解雇するという会社の意思を表示する「意思表示」ですから、相手方である労働者に到達しなければ意思表示として効力を生じません(新しいウィンドウが開きます民法97条)。ですから、本人がいない以上、会社として解雇の意思表示を有効に行う(意思表示の効力を発生させる)ため、いかなる手続が取る必要があるのかがポイントになります。

この点、民法には「公示による意思表示」という方法があります(新しいウィンドウが開きます民法98条)。その労働者の最後の住所地である簡易裁判所に申立てを行い、その裁判所が裁判所の掲示場に掲示し、かつ、掲示があったことを官報に少なくとも一回掲載(裁判所が相当と認めるときは官報への掲載に代えて市役所、区役所、町村役場又はこれらに準ずる施設の掲示場へ掲示)することで、最後に官報に掲載した日付(または官報への掲載に代わる掲示)から2週間を経過した日に、相手方に意思表示が到達したものとみなされます(つまり、意思表示の効力が発生します)。この手続には費用がかかりますし、その労働者が行方不明であることを裁判所に対し疎明する(一応の証明をする)必要があるなど、会社側には負担も生じますが、1つの選択肢であるといえるでしょう。なお、法的には、解雇の意思表示はあくまで本人に対しなされる必要がありますから、失踪した労働者の家族等に対して解雇の意思表示を行ったとしても、法的には効力は生じないと考えられます。

〈退職事由〉

就業規則の退職事由として、従業員が行方不明になって無断欠勤を続けたまま一定期間を経過したとき、と規定する例もみられます(例えば、従業員が無断で欠勤し、60日を経過したときには自動的に退職扱いとするものと規定)。無断欠勤が続くということは、労働契約に基づき労務を提供する意思がないものと解釈してもやむを得ない場合だと考えられますし、特別の事情に対応するための規定であって、会社側に解雇規制の潜脱を図る意図があるとも考えにくいですから、このような就業規則の規定は合理的な労働条件であり、基本的に労働契約の内容になると解されます(新しいウィンドウが開きます労契法7条も参照)。ですから、公示による解雇の意思表示を行うことが会社にとって負担も小さくないことからすると、実務上、上記のように就業規則の退職事由を整備しておくことも有益といえるでしょう。なお、退職扱いとするまでの期間について、直接的な法律上の規制はありませんが、解雇の場合の解雇予告期間が30日であることからすると(新しいウィンドウが開きます労基法20条)、30日を下回らないようにするのが望ましいといえそうです。

関係法令・資料

労働契約法(平成19年12月05日 法律第128号) 第7条

民法(明治29年04月27日 法律第89号)第97条 98条

労働基準法(昭和22年04月07日 法律第49号)第20条

(成蹊大学法学部准教授 原 昌登)

2011年4月掲載