Q15 昇進・昇格・降格の法的問題を教えてください。

ご利用にあたって

  • 労働問題Q&Aは個別事案について法的なアドバイスをするものではありません。
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具体的なご相談は、厚生労働省「総合労働相談コーナー」新しいウィンドウなど行政機関等の相談窓口にお尋ねください。


質問

昇進・昇格は従業員の利益になることなので、自由に行っていいように思われます。また、降格も、企業の経営に関わることですから、企業の側で自由にできるような気もします。

昇進・昇格・降格について、法規制はどのようになっていますか?特に、降格はどのような場合に可能ですか?

回答本文の内容は執筆時点のものです。その後の法改正などは反映しておりません。

ポイント

  1. 昇進、昇格に関しては、基本的に企業に広い裁量が認められています。例外的に、法律上禁止される差別に該当する場合などは、昇進、昇格に関する差別が違法と評価されることがあります。
  2. 降格については、人事上の降格か懲戒処分としての降格かをまず区別する必要があります。人事上の降格は、役職(職位)の引下げに関しては企業に裁量が認められ、権利濫用等にあたらない限り行うことができますが、資格(職能資格)の引下げは、労働契約上の根拠、降格に値する能力低下の有無、企業の権利濫用の有無などがより厳しく問われることになります。

解説

〈職能資格制度の概要〉

昇進と昇格、一見どちらも似たような印象ですが、労働法では明確に区別されています。特に、多くの大企業で採用されている「職能資格制度」において、この区別が重要な意味をもちます。この制度では職位(役職)と資格を区別し、この両者をゆるやかに結びつけるのが特徴です。職位とは、部長、課長、主任といった企業組織における地位を指します。職能資格とは、職務遂行能力に基づく格付けを指します(たとえば参与、参事、主事、社員などで、各資格の中に、級や号といった細かい格付けがなされることもあります。資格に基づき基本給が決定されることが多いのが特徴です)。緩やかな結びつきとは、ある職位(例えば課長)に就くためには、一定以上の資格(例えば参事)に達していなければならないとする一方、一定の資格(参事)の資格に達したからといって全員が課長になれるとは限らないので、結びつきはあるけれども緩やかなものだ、と説明できます。

〈昇進・昇格〉

以上を前提として定義すると、昇進とは職位の上昇を指し、昇格とは資格の上昇を指します。昇進に関連するポストの数や配置、昇格に関連する職務遂行能力の評価、いずれも企業の経営と大きく関わることもあって、昇進、昇格については基本的に使用者の裁量が尊重されます。ただし、例外的に昇進、昇格(具体的には昇進差別、昇格差別)が違法と評価される場合として、法律上禁止される差別に該当する場合や(国籍、社会的身分または信条による差別(新しいウィンドウが開きます労働基準法3条)、性別による差別(新しいウィンドウが開きます男女雇用機会均等法6条新しいウィンドウが開きます7条)、労働組合の組合員に対する不当労働行為(新しいウィンドウが開きます労働組合法第7条)など)、権利濫用(新しいウィンドウが開きます労働契約法3条5項)にあたる場合があります。

ただし、たとえ昇進差別、昇格差別が違法とされたとしても、昇進した地位にあること、昇格した地位にあることの確認を法的に請求することはできないと解されています(大阪地判平成13・6・27 住友生命保険事件 労判809号5頁)。昇進差別、昇格差別の救済としては不十分との印象があるかもしれませんが、使用者が昇進や昇格を決定していない以上、法的に請求できるのは損害賠償のみということになります(違法な差別が不法行為(新しいウィンドウが開きます民法709条)にあたるというわけです)。

なお、ごく例外的に昇進や昇格した地位にあることを確認できる場合として、労働契約(具体的には就業規則の定めなど)の内容として、客観的な条件を満たせば昇進、昇格ができるという労働契約上の根拠がある(そのような就業規則の定めがある)といえる場合があります。例えば、一定の勤続年数を経れば必ず昇格や昇進をさせることが就業規則に明記されている場合です。ただ、一般には人事考課を行ってその結果と客観的な条件(勤続年数など)を勘案して昇進ないし昇格を決めることが多いでしょうから、あくまでもごく例外的な場合といってよいでしょう(参考として、新しいウィンドウが開きます東京地判平8.11.27 芝信用金庫事件 労判704号21頁)。

〈降格〉

降格には (1)職位(役職)を低下させる降格(昇進の反対)と (2)資格(職能資格)を低下させる降格(昇格の反対)があります。同じ「降格」の表現を用いるので、中身がどちらを指しているのか事案ごとに注意する必要があるでしょう。また、以下では人事権の行使の一環としての降格について解説しますが、懲戒処分として降格がなされる場合もあります。その場合は、懲戒処分として法規制を受けることになります(新しいウィンドウが開きます本節のQ12新しいウィンドウが開きます13を参照)。

人事権の行使としての降格について、まず (1)職位(役職)の低下(昇進の反対)の場合、使用者の裁量の幅が広いのが特徴です。成績不良、適格性の欠如など業務上の必要性があれば、権利濫用(新しいウィンドウが開きます労契法3条5項)にあたらない限り裁量によって行うことができると解されています(東京地判平成2・4・27 エクイタブル生命保険事件 労判565号79頁など。理論的には、職位の引下げに関しては使用者の裁量で行うことができるということが、一般に労働契約の内容として含まれていると解されます)。

次に (2)職能資格の低下(昇格の反対)の場合、(1)に比べて使用者の裁量の幅が狭いとされるのが特徴です。理由として、職能資格の低下は多くの場合基本給の変更をもたらす労働契約上の地位の変更といえるからです((1)の場合は、役職手当等が減ることで収入額は減少したとしても、資格に基づく基本給は変わらないと考えるわけですね)。よって、(2)の降格を適法に行うためには、前提として労働契約上の根拠が必要です。降格に対する労働者の同意や、就業規則上の(合理的な)根拠規定が必要ということになります(広島高判平13.5.23 マナック事件 労判811号21頁)。そして、たとえ労働契約上の根拠があったとしても、実際に降格に値する能力の低下があったか否か、使用者側に権利濫用があったか否かが法的に問題となります(新しいウィンドウが開きます東京地判平成16・3・31 エーシーニールセン・コーポレーション事件 労判873号33頁など)。例えば、降格に際し基本給が著しく大きく引き下げられるといった事情があれば、権利濫用の判断の際に考慮されることになるでしょう。

関係法令・資料

労働基準法(昭和22年04月07日 法律第49号)第3条

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(男女雇用機会均等法) (昭和47年07月01日 法律第113) 第6条 7条

労働組合法(昭和24年06月01日 法律第174号)第7条

労働契約法(平成19年12月05日 法律第128号)第3条

民法(明治29年04月27日 法律第89号)第709条

(成蹊大学法学部准教授 原 昌登)

2011年4月掲載