Q13 懲戒に対する法規制について教えてください。

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質問

当社では従業員の兼業は許可制となっていますが、ある従業員が会社に無断で終業後に飲食店でアルバイトを行っていたことが発覚したため、2週間の出勤停止の懲戒処分としました。ところが、その従業員は、処分は重すぎるもので無効であると主張してきています。懲戒処分にはどのような法規制がなされるのでしょうか、教えて下さい。

回答本文の内容は執筆時点のものです。その後の法改正などは反映しておりません。

ポイント

懲戒処分が法的に有効とされるためには、 (1)就業規則の根拠規定があること、 (2)懲戒事由に該当すること(合理性)、 (3)社会通念上の相当性を有すること(相当性)、以上がすべて満たされる必要があります。 (1)がなければそもそも懲戒処分を行う権利を行使することができないので懲戒処分は無効ですし、 (2)合理性または (3)相当性を欠く場合は、懲戒権の濫用(労契法15条)で無効ということになります。

解説

〈懲戒処分の効力の判断枠組み〉

懲戒処分については、新しいウィンドウが開きます労働契約法15条で、「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする」と定めています。この規定は、懲戒に関する従来の判例法理(懲戒権濫用法理と呼ばれることもあります)を立法化したものです。以下、この条文に沿いつつ、懲戒処分に対する法規制についてみていきましょう。

(1)就業規則の根拠規定

まず、使用者が労働者を懲戒することができる場合とは、就業規則で懲戒の対象となる事由(懲戒事由)と懲戒処分の種別(種類)が定められている場合のことです(新しいウィンドウが開きます最二小判平成15.10.10 フジ興産事件 労判861号5頁)。理論的には、懲戒処分は制裁としての「罰」ですから、刑事法における「罪刑法定主義」同様の考え方をとり、いかなる場合にいかなる罰(処分)がなされるかについて、事前に就業規則においてルール化することが法的に求められていると考えられます。また、刑事法の考え方も参考にすると、懲戒に関する規定(懲戒規定)は、制定される前の事案に遡及的に適用されること、同じ事案(1つの企業秩序違反行為)に対して、2度も3度も適用されることは許されません(前者を不遡及の原則、後者を一事不再理の原則と呼ぶことがあります。いずれも、新しいウィンドウが開きます刑法新しいウィンドウが開きます刑事訴訟法といった刑事法における基本原則です)。

(2)懲戒事由該当性(懲戒処分の客観的合理性)

次に(仮に (1)が認められたとしても)、懲戒処分に客観的に合理的な理由(合理性)があること、具体的には、懲戒処分の対象とされた従業員の行為(非違行為)が就業規則所定の懲戒事由に該当する必要があります。このとき、裁判所は、就業規則の「限定解釈」を行うのが一般的です(新しいウィンドウが開きます最3小判昭52.12.13 目黒電報電話局事件 民集31巻7号974頁)。ここで「限定解釈」とは、形式的に就業規則に反する(懲戒事由に該当する)行為があったとしても、実質的に企業秩序を乱すおそれのないような行為であれば、そもそも懲戒事由に該当しない、と解釈することをいいます。要するに、企業側に厳しめに就業規則を読み、ごく軽微な就業規則違反であれば、そもそも懲戒処分の理由が存在しない(懲戒処分に合理性がない)、と考えるわけですね。なお、懲戒処分後に別の非違行為が発覚した場合、その新たに発覚した非違行為は、当該懲戒処分の理由として追加することは認められません(最一小判平成8.9.26 山口観光事件 労判708号31頁)。

(3)懲戒処分の社会的相当性

最後に(仮に (1) (2)が認められたとしても)、懲戒処分が社会通念上相当であると認められること、すなわち相当性を有することが求められます。相当性とは大きく2つに分けて考えることができます。1つは、懲戒処分が重すぎるといえないかどうかです。つまり、懲戒処分は、たとえ合理的な理由(上記 (2))があったとしても、重すぎれば相当性を欠き懲戒権の濫用で無効ということになるわけです(最二小判平成18.10.6 ネスレ日本事件 労判925号11頁)。重すぎるかどうかを判断する主な視点は3つあり、a.当該非違行為との比較、b.その企業における前例との比較、c.他の同種の従業員の例との比較があります。これらの視点から処分が「重すぎる」といえれば、当該懲戒処分は相当性を欠くと判断されます。もう1つは、手続的な観点です。刑事法の考え方に基づき、本人に弁明の機会を設けるなど適正な手続を取ることが求められます(東京高判平成16.6.16 千代田学園事件 労判886号93頁)。つまり、従業員がどんなに悪質な行為を行ったとしても、「問答無用」で処分をすることは法的に認められないということですね。適正な手続きを欠く場合は、懲戒権の濫用(新しいウィンドウが開きます労契法15条)あるいは公序良俗違反(新しいウィンドウが開きます民法90条)として懲戒処分が無効になると解されます。

〈懲戒事由ごとの特徴〉

(1)経歴詐称

経歴詐称は一般に懲戒の対象となりえますが、軽微な経歴詐称は懲戒事由に該当しない(仮に該当したとしても、相当性を欠く)と解されるので、懲戒処分が適法になされるのは、重要な経歴を詐称した場合に限られると考えられます。例として、最終学歴、職歴、犯罪歴などが挙げられます(新しいウィンドウが開きます最1小判平3.9.19 炭研精工事件 労経速1443号27頁)。

(2)業務命令違反

企業が発した有効な業務命令に反した場合、業務命令違反として懲戒の対象となりえます(新しいウィンドウが開きます最二小判昭和61.7.14 東亜ペイント事件 労判477号6頁)。この場合、もともとの業務命令が有効かどうか(例えば法的に権利濫用でないか)をまず法的に検討することになるでしょう(業務命令が無効であれば、それに従わなかったことを理由とする懲戒処分も当然に無効であると解されます)。なお、前記の通り、懲戒事由に該当するからといって直ちに懲戒処分が有効とされるわけでなく、相当性(重すぎないか)の判断も必要になる点、つまり企業は業務命令に違反したからといって従業員を当然に懲戒処分とすることはできない点には注意が必要でしょう。

(3)職場規律違反(服務規律違反)

就業規則に記載された職場規律(服務規律)に違反する行為は、懲戒処分の対象となりえます。この点、職場内でのビラ配布などの政治活動を禁ずる規定に違反することにつき、ビラ配布などを許可制とすることは企業秩序維持の見地から合理的であるとの判断を前提に、(無許可のビラ配布が)実質的にみて企業秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められる場合には規定違反にならない(つまり、そもそも懲戒事由に該当しない)とした判決があります(新しいウィンドウが開きます前掲 目黒電報電話局事件)。なお、従業員による内部告発に対し、企業の機密漏洩にあたる(職場規律違反にあたる)などとして懲戒処分がなされることがあります。内部告発に対する法的保護については、新しいウィンドウが開きます15節のQ1を参照して下さい。

(4)私生活上の非行

従業員の私生活上の非行も、企業の名誉や信用を損なうことがあるので、懲戒処分の対象となりえます(私生活のことだからといって当然に懲戒処分の対象とならないわけではありません)。ただし、従業員の私生活上の自由を尊重する必要がありますので、就業規則の限定解釈や厳格な相当性判断を通して、懲戒処分が適法か否か、より厳格に判断されることになります(新しいウィンドウが開きます最三小判昭和45.7.28 横浜ゴム事件 民集24巻7号1220頁)。

(5)企業の施設・物品の私的利用

就業規則で企業の施設や物品の私的利用が禁じられている場合、これに反することは懲戒処分の対象となり得ます。最近では、企業のコンピュータ・ネットワークの私用の例が見られます。例えばネットワーク利用規程に反して私用メールなどを行ったことを理由とする懲戒処分は、私用メールの頻度、他の従業員の利用の実態(他の従業員の私用の有無)、使用者側の予防措置(規程の整備や私用を控える旨の指導・注意など)なども考慮して、懲戒権濫用の有無が判断されることになるでしょう(コンピュータ・ネットワークの私的利用に関しては、新しいウィンドウが開きます15節のQ8も参照して下さい)。

(6)二重就職・兼業

従業員が他社で働いたり自ら事業を営んだりすることは、企業の利益を害するおそれがあるので、許可制とすることは合理性があり法的に認められると解されます(新しいウィンドウが開きます東京地決昭和57.11.19 小川建設事件 労判397号30頁)。理論的には、許可制を定める就業規則の規定には合理性があり、労働契約の内容になるということです(新しいウィンドウが開きます労契法7条も参照)。

許可制に反して(許可を得ずに)従業員が二重就職あるいは兼業をしたことを理由とする懲戒処分については、裁判所は就業規則の限定解釈を行っています。具体的には、深夜に及ぶ兼業等で労務提供に具体的に支障が生じるといえる場合、同業他社への二重就職(あるいは競合する事業を自ら営む)など企業への背信性が認められるといえる場合にのみ、懲戒事由に該当することになると解されます(新しいウィンドウが開きます前掲 小川建設事件、東京地判平成2.3.23 ナショナルシューズ事件 労判559号15頁)。

関係法令・資料

労働契約法(平成19年12月05日 法律第128号)第7条 15条

民法(明治29年04月27日 法律第89号) 第90条

刑法 (明治40年04月24日 法律第45号)

民事訴訟法(平成08年06月26日 法律第109号)

(成蹊大学法学部准教授 原 昌登)

2011年4月掲載