Q12 懲戒とは何ですか。

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質問

懲戒とは、会社から従業員に対する「罰」というイメージがあるのですが、会社と従業員は法的には労働契約という契約を結んだ対等な関係であると聞いています。対等な関係なのに、どちらかがどちらかを罰するというのは何か変に感じます。懲戒に関する基本的な考え方について教えて下さい。

回答本文の内容は執筆時点のものです。その後の法改正などは反映しておりません。

ポイント

懲戒処分とは、使用者が従業員の企業秩序違反行為に対して課す制裁罰であり、戒告、けん責、減給、出勤停止、懲戒解雇などの処分があります。なお、使用者は、企業秩序を定立し維持する企業秩序定立権を有すると解されています。

解説

懲戒処分は使用者が従業員の企業秩序違反行為に対する制裁罰のことを指すと定義できます。ですから、前提となる企業秩序についてまず説明します。

〈企業秩序とは〉

最高裁によれば、企業秩序とは企業の存立と事業の円滑な運営の維持のために必要不可欠なものであり、企業は企業秩序を定立し維持する「企業秩序定立権」を当然に有するとされています。そして、労働者は企業に雇用されることによって、企業(使用者)に対し働く義務(労務提供義務)とともにこの企業秩序を遵守する義務(企業秩序遵守義務)を負うとされています(以上につき、新しいウィンドウが開きます最三小判昭52.12.13 富士重工業事件 民集31巻7号1037頁新しいウィンドウが開きます最一小判昭58.9.8 関西電力事件 判時1094号121頁参照)。

この企業秩序定立権は、企業を構成する人的要素(従業員)だけでなく、企業の施設など物的要素にも及ぶと解されています。つまり、企業が施設を管理する権限すなわち施設管理権は、企業秩序定立権に含まれることになります。よって、例えば企業の施設が許可なく従業員によって私的に用いられた場合(施設管理権が侵害された場合)、企業は所有権が侵害されたことを理由に所有権に基づく妨害排除請求権を行使できるだけでなく、企業秩序の侵害に当たるとして、懲戒処分の対象とすることができるわけです(もし、施設管理権が単なる所有権(物権)であるとすると、それが侵害されたことを理由として(妨害排除請求を超えて)懲戒処分を行うことを法的に根拠づけるのは難しくなるといえます)。

もちろん、企業秩序定立権の行使にも限界があります。企業秩序が企業の円滑な運営に必要であることからすれば、企業秩序定立権の行使は企業秩序の維持に必要かつ合理的と認められる範囲でのみ認められることになります。また、権利濫用法理(新しいウィンドウが開きます労働契約法3条5項)による制約も受けることになります。

〈懲戒処分とは〉

法的には対等な契約関係である使用者と労働者の関係において、なぜ使用者が(企業秩序を乱したとはいえ)労働者に制裁としての罰を課すことができるのか、理論的には問題となります。判例は、使用者は企業秩序定立権の一環として当然に懲戒権を有すると考える立場のようですが(前掲 新しいウィンドウが開きます関西電力事件)、現在の学説の立場は、懲戒処分が通常の人事権の行使等とは異なる特別の制裁罰である以上、契約上の特別の根拠が必要であり、労働契約上の根拠に基づいてその限りで懲戒権を有すると考える立場が支配的であるといってよいでしょう(懲戒処分が適法か否かに関する具体的な判断枠組みについては、新しいウィンドウが開きます本節のQ13を参照してください)。

〈懲戒処分の典型例〉

(1)戒告・けん責

企業により異なりますが、戒告は口頭のみの注意、けん責は従業員に始末書の提出を求めることを通して、従業員の将来を戒める処分であるといえます。最も軽い懲戒処分の類型であるといえるでしょう。

(2)減給

賃金を減額する処分で、労基法上、減給額の制限が定められています(新しいウィンドウが開きます労働基準法91条)。1つの事案における減給額は平均賃金の1日分の半額以下、減給の総額は一賃金支払期の賃金総額の10分の1以下でなければならないと定められているので、一般的にいえばあまり多くの額を減額することはできないことになります。なお、労基法で規制される減給は、賃金債権として有効に発生した分(すでに就労し、それに対応する賃金として労働契約上支払いがなされる必要がある分)を減額する(支払わない)というものであり、就労が停止した結果、労働契約上、それに対応する賃金債権が発生しないと解される出勤停止の場合とは異なります。要するに、従業員から見て、すでに働いて、もらえるはずであった賃金が払われなくなるというのが「減給」です。

(3)出勤停止

労働者に出勤させないこと、法的には、労働義務の履行を停止させる処分です。出勤停止によって労働が不能(法的には、債務(労働する債務)の「履行不能」)となったことによる賃金の取扱いについて、通常、労働契約においては、就労がなされなければ賃金が支払われないという考え方が一般的です(ノーワーク・ノーペイと呼ぶことがあります)。つまり、特段の合意、定めがなければ、就労しなかった以上はそれに対応する賃金は発生しないと解釈するのが、労働契約に関する一般的な解釈といえるでしょう。この解釈にしたがって考えると(就労の有無に関係なく絶対に賃金は払う、といった特段の合意等があれば別ですが)、出勤停止期間中については賃金が支払われないことになります。ただし、例えば出勤停止事由がないのに出勤停止を命じた場合など、従業員の就労不能(債務の履行不能)について使用者に帰責事由があれば、従業員は賃金を受ける権利を失いません(新しいウィンドウが開きます民法536条2項)。また、例えば出勤停止10年といったあまりに長期な処分は、公序良俗(新しいウィンドウが開きます同90条)に反し許されないと考えられます。

(4)降格

懲戒処分として降格がなされることがあり、その場合は懲戒処分の判断枠組みを用いて適法性を判断します。人事上の処分なのか、懲戒処分としてなされたのかについては、新しいウィンドウが開きます労契法15条など強行法規の適用に関係する問題ですから、諸事情を考慮して、客観的に判断する必要があると考えられます。

(5)諭旨解雇

企業側が従業員に退職を勧告し、従業員本人の願い出によるという形で退職させる処分で、諭旨退職と呼ばれることもあります。多くの企業で、退職金が全部または一部支払われる点で懲戒解雇より一段軽い処分であると位置付けられているようです(なお、退職金の支払いについては後記 (6)懲戒解雇の項も参照してください)。

(6)懲戒解雇

懲戒処分の中で最も重い処分であり、懲戒処分として解雇を行うことです。一般に、即時に(解雇予告無しで)、退職金を支給せずになされることが多いようです。ただし、解雇予告義務(新しいウィンドウが開きます労基法20条)の適用の有無(言い換えれば即時解雇が有効か否かということ)、退職金の不支給が適法か否かという問題は、理論的には懲戒解雇と区別して検討されることになります。例えば、懲戒解雇は有効であっても、退職金の全額不支給は認められないという結論(判決)もありうるということです(東京高判平成15.12.11 小田急電鉄事件 労判867号5頁)。

企業実務上は、懲戒解雇の場合は退職金不支給という扱いが一般的かもしれませんが、法的には、懲戒解雇は懲戒処分として法規制を受け、退職金の不支給は退職金の問題(退職金規定の解釈の問題)として法規制を受けるということですね。

なお、懲戒解雇の有効性に関しては、新しいウィンドウが開きます労契法15条のみを適用して判断するという考え方と、一般の解雇権濫用法理である新しいウィンドウが開きます同16条新しいウィンドウが開きます同15条を両方適用する(重畳的に適用する)という考え方とが見られます。理論的にはいずれの考え方もありえますが、実際には、新しいウィンドウが開きます同15条の合理性・相当性が認められれば、新しいウィンドウが開きます同16条の合理性・相当性も認められるのが一般的といえそうですから、結論に大きな違いは出ないものと思われます。

関係法令・資料

労働契約法(平成19年12月05日 法律第128号)第3条 15条 16条

労働基準法(昭和22年04月07日 法律第49号)第20条 91条

民法(明治29年04月27日 法律第89号) 第90条 536条

(成蹊大学法学部准教授 原 昌登)

2011年4月掲載