Q8 労働契約を締結する時の法規制を教えてください。

ご利用にあたって

  • 労働問題Q&Aは個別事案について法的なアドバイスをするものではありません。
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質問

労働契約を締結する時に、法律にはどのような規制があるのでしょうか。教えて下さい。

回答本文の内容は執筆時点のものです。その後の法改正などは反映しておりません。

ポイント

  1. 労働契約を締結する際、使用者には労働条件の明示が義務付けられています(新しいウィンドウが開きます労働基準法15条1項)。また、できるだけ書面に記載することも求められています(新しいウィンドウが開きます労働契約法4条
  2. 有期契約(期間の定めのある労働契約)を締結する場合には、期間の上限が定められています(新しいウィンドウが開きます労基法14条)。
  3. 労働契約においては、強制労働、損害賠償額の予約、前借金相殺、強制貯金が禁止されているほか(新しいウィンドウが開きます労基法5条新しいウィンドウが開きます16条~18条)、労働組合へ加入しないことや労働組合からの脱退を雇用条件とすることも禁止されています(新しいウィンドウが開きます労働組合法7条)。

解説

1.労働条件の明示義務

使用者は、労働契約を締結する際、労働者に対し、賃金・労働時間その他の労働条件を明示しなければならないとされています(新しいウィンドウが開きます労働基準法15条1項)。明示すべき具体的な労働条件は労働基準法施行規則(労基則)で細かく定められています(新しいウィンドウが開きます労基則5条1項)。明示は口頭でも構いませんが、 (1)労働契約の期間、 (2)就業の場所及び従事すべき業務、 (3)労働時間に関する事項、 (4)賃金に関する事項、 (5)退職(解雇)に関する事項については、書面の交付によって明示することが義務づけられています(新しいウィンドウが開きます労基則5条2項新しいウィンドウが開きます3項)。

実際には、明示の必要がある事項の多くが就業規則の必要記載事項(新しいウィンドウが開きます労基法89条)に含まれますので、必要記載事項を満たした就業規則を従業員に交付すれば、あとは就業規則に記載がない事項について別に書面で明示すれば義務を果たしたことになります(上記 (1)、 (2)、及び (3)における所定労働時間を超える労働の有無の3点は就業規則の必要記載事項に含まれないと解されるので、就業規則とは別に明示することになるでしょう)。なお、明示の時期は労働契約の成立時です。この点、採用内定は判例によって労働契約の成立であると解されているので(詳細は新しいウィンドウが開きます本節のQ6を参照)、労働条件の明示も採用内定段階でなされる必要があることになります。

もし、実際の労働条件が明示された労働条件と異なる場合は、労働者は労働契約を即時に解除することができます(新しいウィンドウが開きます労基法15条2項)。

〈パートタイム労働者の場合〉

パートタイム労働者を採用する場合には、新しいウィンドウが開きます労基法15条に基づく労働条件の明示に加えて、パートタイム労働法によって、昇給、賞与、退職金の有無については「書面」で明示することが義務づけられています(紛争の予防等の観点から、書面による明示が求められている点に特徴があります)。フルタイムの労働者に比べ、パートタイム労働者に対する労働条件明示義務の方が広いというわけですね(新しいウィンドウが開きますパートタイム労働法(短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律)6条新しいウィンドウが開きますパートタイム労働法施行規則2条)。

また、新しいウィンドウが開きます労契法4条2項は、期間の定めの有無を含め、労働契約の内容についてはできるだけ書面に記載するよう求めていますので、これを踏まえた対応も必要です。

2.労働契約の期間

労働契約に期間を定める場合、上限は原則として3年とされています(新しいウィンドウが開きます労基法14条)。例外として、一定の事業の完了に必要な期間を定める場合はその期間が認められるほか、特例として、高度な専門的知識等を有する労働者がその知識等を必要とする業務に就く場合および労働者が満60歳以上の場合は5年とされています(この他、細かい例外として、職業訓練を受ける労働者について必要がある場合については、新しいウィンドウが開きます同70条を参照して下さい)。もし、これらの上限を超える期間を定めた場合、労基法の強行的直律的効力(新しいウィンドウが開きます同13条)によって、労働契約の期間は3年(特例にあたる場合は5年)に修正されることになります(新しいウィンドウが開きます平成15.10.22基発1022001号)。なお、期間の定めのある労働契約は、「やむを得ない事由」がなければ、期間途中で解約することは使用者側からも労働者側からもできないのが原則ですが(新しいウィンドウが開きます民法628条。使用者側については新しいウィンドウが開きます労働契約法17条1項も参照)、労働者側からの解約(辞職)については、1年を超える契約期間を定めた場合、原則として契約期間の初日から1年を経過した日以後はいつでも辞職できると定められています(新しいウィンドウが開きます労基法附則137条)。

3.不当な人身拘束の禁止

労働基準法は、使用者が労働者を不当に拘束することを防ぐため、以下のことを定めています。

(1)違約金・損害賠償の禁止

使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、または損害賠償を予定する契約をしてはならないと定めています(新しいウィンドウが開きます労基法16条)。違約金や損害賠償金を通して労働者の足止めを図ることが禁止されているわけですね。労働者の落ち度が原因で使用者に損害が発生した場合(労働者の債務不履行又は不法行為によって損害が発生した場合)、予約ではなく、現実に発生した損害について請求することは禁止されてはいませんが、信義則の観点から賠償額が制限されることが多いでしょう(新しいウィンドウが開きます名古屋地判昭62・7・27 大隈鉄工所事件 労民集38巻3=4号395頁)。また、近年、海外留学や研修の費用の返還を労働者に求めることができるかという問題がみられます(詳細は新しいウィンドウが開きます本節のQ22を参照してください)。

(2)前借金相殺の禁止

使用者は、前借金その他労働することを条件とする前借の債権と賃金とを相殺してはならないとされています(新しいウィンドウが開きます労基法17条)。戦前、親が多額の金銭を使用者側から借り受け、子どもが働き報酬とその前借金を相殺する(子どもは実質無報酬で働く)といった形態がみられましたが、そのようなまさに人身売買、不当な拘束が禁止されています。

(3)強制貯金の禁止

使用者は、労働契約に付随して貯蓄の契約をさせ、または貯蓄金を管理する契約をしてはならないとされています(新しいウィンドウが開きます労基法18条1項)。辞職の際に強制貯金の払い戻しを行わないことが労働者の足止めになりますし、また使用者が貯金を不当に利用する可能性もあるので、禁止されているわけです。なお、福利厚生の一環などとして、労働者が任意に貯金できるように制度を設けることはもちろん可能です。その場合、適正に任意貯金制度が運用されるように細かな規制がおかれています(新しいウィンドウが開きます労基法18条2項以下)

(4)強制労働の禁止

使用者は、暴行・脅迫・監禁その他精神または身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制させてはなりません(新しいウィンドウが開きます労基法5条)。封建的な強制労働(いわゆる「タコ部屋」など)を禁止するもので、違反には労基法の中で最も重い刑罰が科されます(新しいウィンドウが開きます労基法117条)。

関係法令・資料

労働組合法(昭和24年06月01日 法律第174号)第7条

労働基準法(昭和22年04月07日 法律第49号)第5条 13条 14条 15条 16条 17条 18条 70条 89条 117条 附則137条

労働基準法施行規則(昭和22年08月30日 厚生省令第23号)第2条 5条

労働基準法の一部を改正する法律の施行について(平成15年10月22日 基発第1022001号)

短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パート労働法)(平成05年06月18日 法律第76号)

短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律施行規則(パート労働法施行規則) (平成05年11月19日 労働省令第34号)第2条

労働契約法(平成19年12月05日 法律第128号)第4条 17条

民法(明治29年04月27日 法律第89号) 第628条

(成蹊大学法学部准教授 原 昌登)

2011年4月掲載