Q6 採用内定の法的な効果はどのようなものですか。

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質問

大学4年生です。就職活動を経て1社から採用内定をもらうことができ、内定式にも出席しました。ただ、他社の内定取消しがニュースとして報道されたのを見たことがあり、不安もあります。採用内定が取り消されるおそれはないのでしょうか。

回答

ポイント

  1. 新卒一括採用を基本とする新規学卒者の採用においては、採用内定によって、企業と内定者の間に始期付・解約権留保付労働契約が成立するものと解されています。
  2. 採用内定の取り消しは、法的には労働契約の解約、すなわち解雇にあたるので、客観的合理性と社会的相当性が双方ともなければ、解約権の濫用として無効となります。
  3. 採用内々定は、内々定という文言だけでなくその実態に注目し、採用内定と同視できるか否かを判断することになります。

解説

〈採用内定とは〉

「採用内定」と一口に言っても実態は多様で、中途採用と新卒採用の場合でも異なることがあります。しかし、新卒一括採用における新規学卒者の採用、大学生でいえば3年次から4年次にかけて採用選考を受け(いわゆる就職活動)、4年次の春以降に採用決定の通知を内々定あるいは内定として口頭等で受け、10月に文書による正式な採用内定通知がなされ、入社に関する誓約書などを提出するといった一連のプロセスをたどる採用の場合、採用内定の法的性格は「始期付・解約権留保付労働契約」であるとする考え方が判例上確立しているといってよいでしょう(新しいウィンドウが開きます最2小判昭54.7.20 大日本印刷事件 民集33巻5号582頁)。正式な採用内定は、労働契約の締結予約などではなく、その時点で内定者と企業の間に労働契約が成立するということですね。

労働契約が成立しているといっても、実際に就労するのは(新卒者の場合)卒業後の4月からということで、「始期」が付いています。また、学校を卒業できなかった場合、やむを得ない場合などには内定を取り消すことがある旨、内定通知で示されることが多いですが、このように内定を取り消す権利(労働契約の「解約権」)を留保しているので、「解約権留保」付というわけです。

また、内定期間中に研修等が実施されることがありますが、内定者に研修参加義務があるか否かは、内定によって成立した労働契約の解釈の問題です。例えば企業からの事前説明があって、内定者側が特に異議を述べていない場合などは、研修参加につき黙示的に合意が成立していたと解釈できる場合が多いでしょう。なお、入社前研修への参加に合意があったとしても、学業への支障など合理的な理由で研修参加をとりやめたいと内定者が申し出た場合は、企業は信義則上(新しいウィンドウが開きます労働契約法3条4項)、研修を免除する義務を負うとした裁判例があります(東京地判平17.1.28 宣伝会議事件 労判890号5頁)。

以上は基本的に新卒者の採用内定に関する議論です。中途採用の場合はさらに多様な実態がありますので、実態に即して検討する必要がありますが、中途採用における採用内定について、解約権留保付労働契約の成立を認め、以上の法理を適用した裁判例も見られます(東京地判平成16.6.23 オプトエレクトロニクス事件 労判877号13頁)。

〈内定取消し〉

内定取消しは、上記のように労働契約の解約にあたりますので、解雇権濫用法理(新しいウィンドウが開きます労働契約法16条)によって、客観的合理性と社会的相当性の2つがなければ法的に無効となります(たとえ解約権(内定取消権)を留保した労働契約であっても、その解約権を濫用することは新しいウィンドウが開きます労契法16条によって否定されるということです)。

では、具体的にどのような事情(事由)があれば内定取消しが認められるのでしょうか。判例は、「採用内定の取り消し事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的で社会通念上相当として是認できるものに限られる」(前掲 新しいウィンドウが開きます大日本印刷事件)と述べています。判例には、内定取消しを無効とした例として、内定者がグルーミー(陰気)な印象であることを理由としたもの(前掲 大日本印刷事件)、内定取消しを有効とした例として、公安条例違反で逮捕され起訴猶予処分を受けたことを理由としたもの(最二小判昭和55.5.30 新しいウィンドウが開きます電電公社近畿電通局事件 民集34巻3号464頁)などがあります。一般論としては、新卒者の場合の成績不良による卒業延期、健康状態の(業務に堪えられないほどの)著しい悪化、(重要な経歴の詐称など)重大な虚偽申告の判明、(飲酒運転による死亡事故など)社会的に重大な事件による逮捕処分といったケースであれば、内定取消しに合理性・相当性が認められることが多いといえるでしょう(もちろん、これらの事情があったからといって必ず内定取消しが認められるとは限らず、あくまで個別のケースの具体的な事実に即して解約権濫用の有無が判断されることになります)。

以上見てきたように、内定取消しを受けた内定者は、内定取消しが解約権濫用で無効であると主張して企業に対し労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めうるといえます。また、これに加えて、内定取消しによって精神的に損害を受けたといった事情があれば、それを理由として不法行為に基づく損害賠償請求を求めることもありえます(なお、法的には上記の請求が可能ですが、内定取消しの事案は一般の解雇の事案と異なりまだ入社前であることもあって、企業に対し地位確認請求を行うのではなく、(他社への就職活動と並行して)以上をふまえた話合いを行い、和解で金銭的に解決がなされる例も見られるようです)。

なお、内定取消しが解雇にあたることから、内定取消しの予告(新しいウィンドウが開きます労働基準法20条)が必要となるか否かも問題となります。見解は分かれており、直接この点に判断を下した判例は見当たらず、学説も分かれていますが、解雇予告規定の適用はないとする見解が有力といえるでしょう。

また、内定取消しに対する行政の施策として、新しいウィンドウが開きます職業安定法54条新しいウィンドウが開きます職業安定法施行規則35条、新規学校卒業者の採用に関する指針で、以下のことが定められています。

(1)企業(事業者)が新規学卒者に対して内定取消しを行う場合、所轄のハローワーク(公共職業安定所)の所長または学校長等へ通知すること。

(2)ハローワークは、(特別)相談窓口を設けて内定取消しを受けた学生からの相談に対応すること。

(3)ハローワークは、 (1)の通知を受けて、当該企業に内定取消しを防止するため指導を行うほか、学校とも連携を図りつつ、求人情報の提供等の支援を実施すること

(4)内定取消しを行った企業名を公表すること(2009年(平成21年)1月から導入)

特に (4)は、平成20年以降に経済状況の悪化等を受けて内定取消しの事案が増加したことを受けて、行政の施策が強化された例といえます。

〈内々定と内定〉

採用内定に先立ち、採用「内々定」の通知がなされる例も見られます。この採用内々定の実態は多様なので、その法的性質は、たとえば採用を確信させるような言動の有無、内々定者に対する(他社の採用試験を受けさせないような)拘束の有無などの事情をもとにケースバイケースで判断することが必要です。そのようにして、 (1)採用内定と同視できるケースか、 (2)採用内定とは同視できず、労働契約の締結予約あるいは締結過程にすぎないケースかを実質的に判断します。 (1)であれば、たとえ「内々定」の文言が用いられていても、採用内定として扱い、始期付・解約権留保付労働契約が成立していることになります。他方、(2)であれば、労働契約はいまだ成立しているとはいえません。ただし、企業の側が、内々定者の信頼を損なうような形で内々定を取り消した場合は、信義則に反する(契約締結上の過失がある)などとの理由で不法行為にあたり(新しいウィンドウが開きます民法1条2項新しいウィンドウが開きます民法709条)、内々定者の側から損害賠償請求が可能であると解されます(正式内定の数日前に内々定を取り消したことが、労働契約締結過程における信義則に反し、内々定者の期待利益を侵害する不法行為にあたるとして企業に慰謝料の支払いを認めた判決として、福岡地判平22.6.2 コーセーアールイー事件 労判1008号5頁 があります)。

関係法令・資料

労働契約法(平成19年12月05日 法律第128号)第3条 16条

労働基準法(昭和22年04月07日 法律第49号)第20条

職業安定法(昭和22年11月30日 法律第141号)第54条

職業安定法施行規則(昭和22年12月29日 労働省令第12号)第35条

民法(明治29年04月27日 法律第89号) 第1条 709条

新規学校卒業者の採用内定取消しへの対応について(厚労省Webサイト)

採用内定取消し問題への対応について (企業名公表制度の施行等)(厚労省Webサイト)

 

(成蹊大学法学部准教授 原 昌登)

2011年4月掲載