Q4 会社は誰を採用するかまったく自由に決めることができるのですか?

ご利用にあたって

  • 労働問題Q&Aは個別事案について法的なアドバイスをするものではありません。
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具体的なご相談は、厚生労働省「総合労働相談コーナー」新しいウィンドウなど行政機関等の相談窓口にお尋ねください。


質問

従業員を採用するにあたり、企業には「採用の自由」が認められるのでしょうか? 具体的には、応募者の中から採用者を選ぶ際に、まったく企業の自由に選んでよいのでしょうか。また、採用の過程で様々な調査を行ってもよいのでしょうか。

回答本文の内容は執筆時点のものです。その後の法改正などは反映しておりません。

ポイント

企業には、原則として、採用基準等に関する「採用の自由」が広く認められています。ただし、いくつかの法律によって一定の制限がなされています。また、採用過程における調査も基本的に認められますが、応募者の個人情報等に関する配慮が求められることになります。

解説

労働者と使用者が締結する労働契約も「契約」ですから、契約を結ぶか結ばないかなどは当事者の自由にゆだねられています。つまり、契約の自由が認められています。このことを使用者(事業主)側からみれば、「採用の自由」があるということになります。具体的には、(1)どのような人を採用するかという選択の自由、(2)選択のために採用の過程で調査を行ってよいかという調査の自由、(3)採用拒否が法的に許されない場合に、採用すること(労働契約を締結すること)を強制されるのか、以上が問題となります。

1.選択の自由

企業は、どのような人を雇うかについて、原則として自由に選択することができます。ただし、最高裁は、いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件で雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由に決定することができると判断していますので(新しいウィンドウが開きます最大判昭48.12.12 三菱樹脂事件 民集27巻11号1536頁)、法律による特別の制限があれば、例外的に、企業の採用の自由も制限を受けることになります。

(1)性別:性別を理由とする募集・採用差別は新しいウィンドウが開きます男女雇用機会均等法で禁止されています(新しいウィンドウが開きます均等法5条)。また、均等法における「間接差別」の規制として、募集・採用にあたって身長、体重、体力に基準を設定することや、総合職の募集・採用に転居を伴う転勤を要件とすることは、合理的な理由がなければ間接差別として禁止されます(新しいウィンドウが開きます同7条)。

(2)年齢:募集・採用時に年齢制限をつけること(例えば40歳以下とすること)は、雇用対策法によって原則として禁止されています(新しいウィンドウが開きます雇用対策法10条)。この規制は2007年に雇用対策法が改正されて、それまで、年齢制限をつけないように努力する義務とされていたのが、義務として改められました(年齢制限をつけることが認められる細かい例外がいくつかありますので、詳細は新しいウィンドウが開きます本節のQ5を参照してください)。また、募集・採用の際、やむを得ない理由で(65歳以下の)一定の年齢を下回ることを条件とする場合は、求職者に対しその理由を示さなければならないとされています(新しいウィンドウが開きます高年齢者雇用安定法18条の2)。

(3)障害:障害者の採用に関しては、障害者雇用促進法が、事業主に一定比率以上の障害者の雇用を義務づけており(新しいウィンドウが開きます障害者雇用促進法37条新しいウィンドウが開きます43条以下)、障害者の雇用率がこの一定比率に満たない場合は、その企業から障害者雇用納付金を徴収することとしています(新しいウィンドウが開きます同法53条以下)。

(4)労働組合:労働者が労働組合から脱退すること、あるいは採用後に労働組合に加入しないことを雇用条件とすること(いわゆる「黄犬契約」)は、新しいウィンドウが開きます労働組合法によって不当労働行為として禁止されています(新しいウィンドウが開きます労組法7条1項)。なお、組合員であること(すでに労働組合に加入しており、採用後も組合員であり続けようとすること)を理由として採用しないことが法的に許されるかどうかについては議論がありますが、最高裁は、基本的に不当労働行為とはならない(法的に許される)との立場を取っています(最一小判平成15.12.22 JR北海道・JR貨物事件 民集57巻11号2335頁)

(5)思想・信条:思想や信条(考え方)を理由として採用しないことに関しては、明確にこれを禁止する法律の規定がありませんので、原則として認められることになります。新しいウィンドウが開きます労基法3条が定める思想・信条等による差別の禁止は、採用後の労働者に適用されるものの、採用時にはまだ適用されないと解釈されていますし、憲法による思想・良心の自由の保障(新しいウィンドウが開きます憲法19条)や、信条等によって差別されないとする法の下の平等(新しいウィンドウが開きます同14条)は、直接の規制対象は国や地方公共団体であって、私人である民間企業には直接適用されないと解されています。最高裁も、ある人が特定の思想・信条をもつことを理由として企業がその人を採用しないことを、当然に違法とすることはできないと判断しています(前掲 新しいウィンドウが開きます三菱樹脂事件)。ただし、思想・信条など、法律上、明文で禁止されていない理由による採用差別についても、そのような理由で採用しないことが公序良俗(新しいウィンドウが開きます民法90条)に反し違法である(新しいウィンドウが開きます民法709条の不法行為にあたる)とされる可能性もありますので、業務や能力と直接関係のないことを理由として採用しないという場合については注意が必要かと思われます。

2.調査の自由

企業が採用過程において労働者を選択する(採否を決定する)ため、応募者の思想・信条を調査し、関連する事項について申告を求めることは、原則として違法ではないとされています(前掲 新しいウィンドウが開きます三菱樹脂事件では、「これを法律上禁止された違法行為とすべき理由はない」と判断されています)。

しかし現在では、労働者の個人情報やプライバシーを保護するという観点から、行政(厚生労働省)が企業に対し、労働者側に対する様々な調査について配慮等を求めています。

まず、個人情報保護との関係で、企業は原則として人種、民族、社会的身分、本籍、出生地等の社会的差別の原因となるおそれのある事項や、思想・信条、信仰、労働組合への加入の有無、医療上の個人情報等を収集してはならないと指針を定めています(「新しいウィンドウが開きます労働者の個人情報保護に関する行動指針」平成12.12.20 )。

また、応募者の基本的人権を尊重した公正な採用選考が実施されるようにするため、「新しいウィンドウが開きます採用のためのチェックポイント」を公表し、採用選考時の身元調査や合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断は行わないようにすること、思想や宗教といった本来自由であるべき事項や、本籍、出身地、家族に関してなど本人に責任のない事項については、調査をしないようにすることが公正な採用選考のために重要であると示しています。

これらの行政の指針等は、法律上の直接の規制というわけではありませんが、紛争を予防し、より公正な採用を行うという観点からは、企業にとって尊重することが求められるといえるでしょう。

3.採用拒否が違法な場合

以上みてきたように、採用するかしないかについては原則として企業に自由がありますが、例外的に、採用しないことが違法と評価される場合、企業側にはいかなる責任が生じるのでしょうか。この点、違法な採用拒否は不法行為(新しいウィンドウが開きます民法709条)に該当するので、企業には損害賠償責任が生じます。しかし、法的に、採用つまり労働契約を締結すること自体が強制されることはありません(契約を締結しない自由は、契約自由の原則の中でも根幹をなす重要なものだと考えられているからです)。なお、行政による救済で司法による救済とは異なりますが、採用拒否が不当労働行為(労組法7条)に該当する場合は、労働委員会が使用者に対し採用命令を出すことが可能です(新しいウィンドウが開きます12.Q4<労働委員会の機能・不当労働行為の救済手続>を参照)。

関係法令・資料

労働者の個人情報保護に関する行動指針(厚生労働省Webサイト)

採用のためのチェックポイント(厚生労働省Webサイト)

労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(労働者派遣法)(昭和60年07月05日 法律第88号)第7条

雇用対策法(昭和41年07月21日 法律第132号)第10条

高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(昭和46年05月25日 法律第68号)第18条

障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和35年07月25日 法律第123号)第37条 43条 53条

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(男女雇用機会均等法) (昭和47年07月01日 法律第113) 第5条 7条

労働組合法(昭和24年06月01日 法律第174号)第7条

労働基準法(昭和22年04月07日 法律第49号)第3条

日本国憲法(昭和21年11月03日 憲法)第14条 19条

民法(明治29年04月27日 法律第89号)第90条 709条

(成蹊大学法学部准教授 原 昌登)

2011年4月掲載