Q3 労使協定の法的意義や機能について教えてください。

ご利用にあたって

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質問

今般、労働組合が解散してしまったので、新しいウィンドウが開きます労基法36条による時間外と休日の協定を結ぶためにあらためて「労働者の過半数を代表する者」を選び、労使協定を締結することになりました。これを機会に、そもそも労使協定とはどのような意義や機能を託されているものなのかを知りたいので教えてください。

回答本文の内容は執筆時点のものです。その後の法改正などは反映しておりません。

ポイント

新しいウィンドウが開きます労働基準法(以下「労基法」)は、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者と使用者との書面による協定(以下「労使協定」)が締結された場合に、それぞれ特別の効果を付与しています。

解説

代表的な例として、新しいウィンドウが開きます労基法36条は、当該労使協定を締結し、これを労働基準監督署(以下「労基署」)に届け出ることによって、新しいウィンドウが開きます労基法32条に定められた法定労働時間を超えて労働させ、または新しいウィンドウが開きます労基法35条に定められた法定休日に労働をさせることができる旨を定めています。いうまでもなくこのような規制は、労基法の規定の多くが刑罰をともない、また強行的かつ直律的効力をも付与されていることから、過半数組合もしくは過半数代表の書面による明確な同意を条件として当該規定に係る制限をはずし、時間外・休日労働等をはじめとする、本来ならば労基法の規制に抵触する措置を、法の監視の下に明確な制度化を担保として運営させることを目的としています。以下、労基法上の労使協定の機能を総覧し、その他に制度上どのような労使協定が存在するか、概略を御紹介します。

第1は、貯蓄金管理協定(同法新しいウィンドウが開きます18条)で、これは本来禁止されている、労働者の貯蓄金の使用者による管理を、労使協定の締結と届け出を条件に容認しようとするものです。

第2に、賃金控除協定があります(同法新しいウィンドウが開きます24条)。これは、賃金は全額を支払わなければならないとする原則の例外として、労使協定の締結により、財形貯蓄の積立金などについて賃金からの控除を許すものです。

第3が最長1ヶ月単位の変形労働時間制を実施する要件としての労使協定です(同法新しいウィンドウが開きます32条の2)。

第4は、フレックスタイム制を導入するための労使協定です(同法新しいウィンドウが開きます32条の3)。フレックスタイム制の導入のためには、労基法と新しいウィンドウが開きます労基法施行規則12条の3に定められた項目について労使協定を締結しなければなりません。

第5は、最長1年単位の変形労働時間制を導入・実施するための労使協定です(同法新しいウィンドウが開きます32条の4)。

第6は、1週間単位の変形労働時間制を導入するための労使協定です(同法新しいウィンドウが開きます32条の5)。これは、利用できる事業所がはじめから限定されている(常用労働者30人未満の小売業、旅館、飲食店、料理店)ことや、使い勝手が必ずしもよくないことなどから、ほとんど利用されていないのが現状です。

第7に、休憩時間の一斉付与原則を免れるための労使協定があります(同法新しいウィンドウが開きます34条2項)。これは今般の改正で導入されたものです。ただ、一斉休憩の原則は、もともと多くの事業には適用除外されていますので、この協定の機能はそれほど大きいわけではありません。

第8に、時間外・休日労働協定があります(同法新しいウィンドウが開きます36条)。

第9に、割増賃金の割増率引き上げ分に相当する有給代替休暇を付与する場合の労使協定です(同法新しいウィンドウが開きます37条3項)これは2008年の労基法改正で導入されたもので、1か月に60時間を超える時間外労働に対する50%の割増賃金について、労使協定を締結することにより、60時間を超えかつ割増賃金が引き上げられた部分に対応した部分(25%部分)について、割増賃金に代えて有給の代替休暇を付与することが可能となりました。

第10が、事業場外労働についてみなし労働時間数を決定する労使協定です(同法新しいウィンドウが開きます38条の2)。これは、事業場外で業務につく労働者の労働時間をみなす場合に、原則としての所定労働時間でのみなしが実際の労働時間より短いと考えられるときの選択肢として認められています

第11は、いわゆる専門職型の裁量労働制を導入する場合の労使協定です(同法新しいウィンドウが開きます38条の3)。企画業務型の場合と異なり、専門職型の裁量労働制については、労使委員会の決議ではなく労使協定が導入の要件となっています。ただし、労使委員会が設立されればその決議をもってこれに代えることができます。

第12は、年次有給休暇の分割付与を行う場合の労使協定です(同法新しいウィンドウが開きます39条4項)。これは、2008年の労基法改正で新設されたものであり、労使協定により、1年に5日分を限度として、時間単位の年休の取得が可能になりました。

第13は、いわゆる計画年休制度を導入するための労使協定です(同法新しいウィンドウが開きます39条5項)。これにより、各労働者は、それぞれが持っている年休日数のうち5日間をこえる部分については、計画年休に供することができることとされました。

最後が、年休日の賃金を標準報酬月額で支払うことができるための労使協定です(同法新しいウィンドウが開きます39条7項)。これは、かなり技術的な性格を持った労使協定と言えます。

このほか、新しいウィンドウが開きます育児・介護休業法新しいウィンドウが開きます雇用保険法新しいウィンドウが開きます賃金支払確保法などにも労使協定によるさまざまな措置が規定されています。

この労使協定については、以前は多くの法的問題を内包していました。すなわち、過半数組合と同等の資格を有する「過半数代表」の選出につき法は全く定めをしていませんでしたし、当該労使協定による効力がどのようにして失われるのか(過半数代表が退職した場合や新たに過半数を制した組合による「解約」の場合等に問題となります)についても回答を与えていなかったのです。その後、過半数代表の選出については、新しいウィンドウが開きます労基法施行規則6条の2に、労使協定の締結のみならずおよそ労基法において過半数代表が選出されるべきときには、第一に新しいウィンドウが開きます労基法第41条2号に規定する監督又は管理の地位にある者でないこと、第二に法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の手続きによって選出された者であること、の2点が要件として課されることとなり、一定の改善が見られています。しかし、後者の問題、つまり、過半数代表が労使協定を締結した後に、たとえば過半数を組織する組合ができて右労使協定の「解約」を主張した場合、使用者としては締結当事者でない者に解約の権利はないとして従来通りの措置を継続できるとの反論が可能か、といった問題はいまだ未解決の状態にあります。

この労使協定は、多くの場合、労働基準法等の最低基準効を解除する効力や罰則を免れしめる効力(これを「免罰的効力」といいます)が認められます。しかし、労働協約とは異なって、労働契約それ自体を規律する効力(たとえば、労働者に時間外労働義務を発生される効力)は認められません。また、労働協約の効力は、原則として使用者と労働組合、所属する労働組合員に限られるのに対し、労使協定は、事業場の全従業員との関連で効力を持ちます。

関係法令・資料

労働基準法(昭和22年04月07日 法律第49号)18条24条32条の232条の332条の432条の534条36条37条3項38条の239条4項5項39条6項

賃金の支払の確保等に関する法律(昭和51年05月27日 法律第34号)5条

育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律 (平成03年05月15日 法律第76号)6条12条

雇用保険法 (昭和49年12月28日 法律第116号)

(明治大学法学部准教授 小西康之)

2010年10月掲載