Q1 労働協約の法的意義と機能について教えてください。

ご利用にあたって

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質問

会社の中に労働組合を結成しました。今後の労使関係の基本ルールや労働時間制度、賃金の評価システムなどについて使用者側と概括的な妥結に達しましたので労働協約を締結しようと思います。労働協約には特別な意義や機能があると聞きましたが、その概要を教えてください。

回答本文の内容は執筆時点のものです。その後の法改正などは反映しておりません。

ポイント

労働協約は、労働組合と使用者(団体)との間でのみ締結することができる書面協定であり、契約としての一般的な機能の他、規範的効力(新しいウィンドウが開きます労働組合法16条)や一般的拘束力(新しいウィンドウが開きます労働組合法17条新しいウィンドウが開きます18条)などといった特別な効力が付与されています。労働協約の機能は、このような特別な効力を基盤として公正で安定的な労使関係を築くことに主眼が置かれています。

解説

労働協約とは、労働組合と使用者とが取り交わすさまざまな協定、取り決めなどのうち、新しいウィンドウが開きます労働組合法14条の要件を満たしたものをいいます。これによれば、労働協約と認められるためには、書面に記すことと、締結両当事者の署名または記名押印が必要とされています。労働組合法14条がこのように、労働協約は書面に作成し、両当事者が署名し、又は記名押印することによってその効力を生じることとしているのは、労働協約に、後述する規範的効力や一般的拘束力といった特別な法的効力を付与することとしている以上、その存在および内容は明確なものでなければならないからです。したがって、書面に作成され、かつ、両当事者がこれに署名しまたは記名押印しない限り、仮に、労働組合と使用者との間に労働条件その他に関する合意が成立したとしても、これに労働協約としての規範的効力は付与することはできないと考えられています(新しいウィンドウが開きます都南自動車教習所事件最三小判平13・3・13)。

労働協約に期間の定めを付する場合は、上限は3年と規制されており、これをこえる期間の定めは、3年の期間を定めたものとみなされます(新しいウィンドウが開きます労組法15条)。また、期間を定めない場合には、継続的な契約関係の解約の場合の通例に従って、予告期間を設けた上で解約することになりますが、労働協約については、この予告の日数は90日とされています(同法同条)。したがって解約当事者は、解約すべき日の遅くとも90日前に解約の意思表示をしておく必要があります。

さて、労働協約の最も主要な機能は、労働条件の基準を定めることですが、これについては新しいウィンドウが開きます労組法16条が、いわゆる規範的効力と称される特別な効力を労働協約に対して付与しています。すなわち、「労働条件その他の労働者の待遇に関する基準」を定めた労働協約については、これに反する労働契約の定めはその部分については無効となり、無効となった部分は労働協約の基準がこれに代わることとされています。しかも「労働契約に定めがない場合」も同様とされていますので、結局、労働協約の「労働者の待遇」に関する定めはそのまま労働契約上の合意と同じ意義を有するということになります。これについての問題はいくつもありますが、一つは、労働協約が失効した場合、その後の労働契約はどうなるかで、一般には労働協約の「余後効」の存否という形で論点とされています。これはドイツの議論をそのまま日本に移し替えたものですが、新協約が締結されない間の労働条件をどうするか、といった実際上の問題にもなりえます。いまだ定説といえるものはありませんが、最高裁は、労働協約の内容を反映して規定された就業規則がある場合には、当該協約失効後はその就業規則によるべきであるという事例判断を提示しています(最一小判平成1・9・7 新しいウィンドウが開きます香港上海銀行事件)。また、具体的な労働協約の内容が、どれほど労働組合員にとって不利益であっても規範的効力が及ぶか、といった問題も、労働条件切り下げの手段として労働協約の規範的効力が利用されるような場合には重要な問題となりますが、これについては、最高裁は、当該規定の内容が、特定のまたは一部の組合員をことさらに不利益に扱うことをあらかじめ目的として締結されたなど、労働組合の目的を逸脱して締結されたような場合以外は規範的効力に支障はないとしています(最一小判平成9・3・27 新しいウィンドウが開きます朝日火災海上保険(石堂)事件)。

つぎに、労働組合法は、労働協約に対して一般的拘束力という、拡張適用の効力を付与していますが、これは、工場事業場単位のものと地域単位のものとがあります。前者は、一つの工場事業場において、同種の労働者の4分の3以上が一つの労働協約の適用を受けるに至った場合には、残りの同種の労働者も当該労働協約の適用を受けるという効力です。労働協約というのは、あくまでも労働組合に加入しているメンバーに適用されることを前提として締結されますし、通常の契約も、関係のない第三者にその意思に関わらず適用されるというような効力を持つことはあまり考えられませんから、これは大変注目すべき効力と言えます。これについてもさまざまな問題が生じますが、第一に、工場事業場はあくまでも事業所の単位ですから、企業全体を「4分の3」の計算の対象とすることはできません。第二に、「同種の労働者」とは、労働協約自体がその適用を想定している労働者の類型に該当するか否か、あるいは労働協約を締結した労働組合自身が、規約などを通じて想定している協約適用対象者に該当するか否かなどによって個別事案ごとに決定すべきということになっています。第三に、一般的拘束力は、4分の1以下の同種の労働者が、当該協約を締結した組合以外の労働組合を別個に結成していたような場合はその組合員等には及びません。そうしないと、数の多少によって労働組合の権利が奪われる場合が生じてしまうからです。さらに、一般的拘束力の場合には、当該労働協約の適用を受けることになる非組合員は、場合によっては自らの同意しない労働条件を、当該労働協約に「巻き込まれる」形で適用されることになりますので、協約の内容が非常に不利益であるような場合はかえって不公平感をともなう結果となることがありえます。そこで最高裁は、特定の労働者に協約の一般的拘束力を適用することが諸般の事情から見て「著しく不合理」であるとみなされる特段の事情があるような場合には、適用は認められないという判断をしています(最三小判平成8・3・26 新しいウィンドウが開きます朝日火災海上(高田)事件)。

なお、労働組合法は、新しいウィンドウが開きます18条において、この一般的拘束力を地域単位にも拡張し、特定の地域で大多数の同種の労働者が一つの労働協約の適用を受けるに至った場合には労働委員会の決議にもとづいて当該地域の他の同種の労働者及びその使用者にも当該労働協約が適用されることがあると定めていますが、企業別組合が圧倒的な主流である日本の場合には、本条によって拡張適用が実現された例はきわめて少数しかありません。

関係法令・資料

労働組合法(昭和24年06月01日 法律第174号)14条15条16条17条18条

※解説中の「都南自動車教習所事件」は裁判所ウェブサイトの裁判例情報へのリンクです。

(明治大学法学部准教授 小西康之)

2010年10月掲載