Q4 就業規則による労働条件が不利益に変更される場合、それに反対する労働者も変更後の就業規則に拘束されるのでしょうか。

ご利用にあたって

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質問

会社は賃金の算定方法に関する就業規則の規定を変更しようとしていますが、それにより、一部の従業員の具体的な賃金額は低下することが予想されます。そのため、従業員の一部は、この就業規則の変更に反対を表明していますが、就業規則が変更された場合、彼らに対しても変更後の就業規則は拘束力を持つのでしょうか。

回答本文の内容は執筆時点のものです。その後の法改正などは反映しておりません。

ポイント

  1. 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合においては、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が合理的なものであるときには、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとされます。
  2. 就業規則の変更が合理的なものであるか否かは、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして判断されることになります。

解説

新しいウィンドウが開きます労働契約法9条本文は、「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない」と規定しています。新しいウィンドウが開きます秋北バス事件最高裁判決(最大判昭和43・12・25 民集22巻13号3459頁)においては、「新たな就業規則の作成又は変更によつて、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課すことは、原則として許されない」と述べられていますが、新しいウィンドウが開きます労働契約法9条は、以上のような最高裁判例で踏襲されてきたルールを明文で確認した規定であるといえます。

そしてこの新しいウィンドウが開きます労働契約法9条を反対解釈すると、使用者は、労働者との間で合意に達すれば、就業規則を変更して、労働者の不利益に労働条件を変更することが可能であるとの帰結が導かれます。この場合、労働者の不利益に労働条件を変更することが可能になる根拠は、使用者と労働者との間の合意に求められますので、就業規則の変更が合理的であるかどうかは、ここでは問題となりません。ただし、合理的であるとは評価されないような就業規則の変更について労働者の合意があったか否かについては慎重に判断する必要があることはいうまでもありません。

このように、新しいウィンドウが開きます労働契約法9条本文においては、使用者は、労働者と合意しない場合には、就業規則の変更により、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできないとしていますが、それでは、労働者との間で合意に達しない場合には、就業規則の変更により、労働者の不利益に労働条件を変更するはできないのでしょうか。

この点については、新しいウィンドウが開きます労働契約法9条は、本文に続いて「ただし、次条の場合は、この限りでない」としており、新しいウィンドウが開きます労働契約法10条では、9条で定立されている合意原則の例外を認めています。

その新しいウィンドウが開きます労働契約法10条は、「使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする」としています。わかりやすくまとめると、この新しいウィンドウが開きます労働契約法10条は、就業規則の変更により労働条件が不利益に変更される場合において、1.当該変更に合理性があり、2.周知がなされる場合には、就業規則の変更による労働条件変更が拘束力を持つことを定めています。

  1. 合理性の判断要素については、新しいウィンドウが開きます労働契約法10条は、(1)労働者の受ける不利益の程度、(2)労働条件の変更の必要性、(3)変更後の就業規則の内容の相当性、(4)労働組合等との交渉の状況、(5)その他の就業規則の変更に係る事情、を列挙しています。これらの判断要素は、従来の最高裁判例(新しいウィンドウが開きます第四銀行事件・最二小判平成9・2・28)で示された判断手法を基本的に踏襲したものとなっています。それぞれの考慮要素をみていくと、「労働者の受ける不利益の程度」については、就業規則の変更によって個々の労働者が被る不利益の程度をいいます。「労働条件変更の必要性」とは、会社が現在の労働条件を維持することが困難であるという事情を指します。「変更後の就業規則の内容の相当性」については、変更後の就業規則の内容自体の相当性、経過措置の有無や内容、代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、変更内容の社会的相当性がこれに妥当します。「労働組合等との交渉の状況」については、就業規則の変更に際して、労働者側との間でどのような手続を講じたかが考慮されることになります。
  2. 新しいウィンドウが開きます労働契約法10条で求められている「周知」については、新しいウィンドウが開きます労働契約法7条の「周知」の内容と同様、実質的な周知であれば足りると解されています。

そして、1.2.の要件を満たす場合には、就業規則による労働条件の変更に同意しない労働者も変更後の就業規則の定める不利益に変更された労働条件に拘束されることになります。

関係法令・資料

労働契約法(平成19年12月05日 法律第128号)第7条9条10条

※解説中の「秋北バス事件」は裁判所ウェブサイトの裁判例情報へのリンクです。

(明治大学法学部准教授 小西 康之)

2010年11月掲載