Q4 退職金は法律上、必ず支払わなければなりませんか。

ご利用にあたって

  • 労働問題Q&Aは個別事案について法的なアドバイスをするものではありません。
  • 本文の内容は各執筆者個人の責任によるもので、機構としての見解を示すものではありません。

具体的なご相談は、厚生労働省「総合労働相談コーナー」新しいウィンドウなど行政機関等の相談窓口にお尋ねください。


質問

わが社は従業員20人の零細企業なので、通常の退職金を払う余力がありません。退職金というのは、必ず払わなければならないのでしょうか。

回答本文の内容は執筆時点のものです。その後の法改正などは反映しておりません。

ポイント

  1. 民間の企業については、法律上必ずしも退職金の支給義務はありません。
  2. しかし、退職金は職業生活引退後の重要な資金となりますので、できるだけ安定的に支給される必要があります。そこで、制度上も判例上も、退職金が確実に支給されるよう様々な工夫がされています。

解説

公務員の場合と異なり、日本では民間企業の従業員に対する法律上の退職金支給義務は使用者に課されていません(新しいウィンドウが開きます労働基準法の制定前の法案起草段階では、退職金の支給を義務付けることも検討されていたようです)。したがって民間企業では、必ずしも退職金を支給する必要はなく、現実に雫細企業などでは退職金制度を有していない場合も少なくありません。しかし、日本の雇用慣行の中では、退職金は引退後の生活設計の基盤となる重要な原資として重視されてきましたし、その額が、月額給与はもちろんのこと、賞与等と比べても大変大きいのが通常であるという事情も手伝って、できるだけ退職金制度が普及し、かつ確実に支給されるような工夫が、法制度の上でも試みられています。

まず、新しいウィンドウが開きます労働基準法89条は、就業規則の記載事項として「退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項」をあげています(新しいウィンドウが開きます同89条3の2号)。ここでいう退職手当とは、労使間において、労働契約等によってあらかじめ支給条件が明確になっており、その受給権が退職により在職中の労働全体に対する対償として具体化する債権であればよいとされており、支給形態が退職一時金であるか退職年金であるかは問いません。また、使用者が、中小企業退職金共済制度や厚生年金基金制度等の社外積み立て型の退職金制度を利用している場合も、ここにいう退職手当の制度に該当しますので、就業規則規定を設けなければなりません。退職手当の決定、計算および支払の方法とは、例えば、勤続年数や退職事由などの手当額を決定するための基準、あるいは手当額の算定方法や一時金と年金のどちらで支払うのかなどをいいます。さらに、退職手当について不支給事由または減額事由を設ける場合には、退職手当の決定及び計算の方法に関する事項に該当するので、就業規則に記載する必要があるとされています(新しいウィンドウが開きます昭63.1.1基発第1号)。

また、退職金が制度化されている場合には、確実に支給されることが課題となります。先に挙げた中小企業退職金共済制度や厚生年金基金制度等はその一例ですが、社内で積み立てる通常の退職金についても、確実な支給という要請がさまざまな局面で表れています。

たとえば、労働協約には組合員の労働契約の内容を規律する効力があり(いわゆる「規範的効力」)、賃金の切下げなどについても機能します。しかし退職金については、将来の支給基準率について一定の見直しをするという内容であればよいのですが、すでに確定した個人の退職金請求権を奪うような協約規定には規範的効力は認められないというのが通常の理解です。また、退職金の減額や没収を規定して、懲戒解雇や同業他社への就職の場合に発動するというケースが見られますが、これも常にそのまま認められるわけではありません(→新しいウィンドウが開きます3-Q5参照)。

さらに、リストラや合併などの場合に、退職金の支給基準を切り下げるような就業規則(退職金規程)の改訂が行われることがあります。これは、一般的には労働条件の就業規則改訂による不利益変更の問題です(→新しいウィンドウが開きます5-Q4参照)が、実は、退職金の場合には、他の労働条件の場合よりも不利益変更について厳しい判断がなされています。これについては、最高裁が、就業規則の不利益変更が認められるための合理性の内容について、「賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである」ことを要求しています(新しいウィンドウが開きます大曲市農協事件 判決・最三小判昭和63年2月16日)。要するに退職金のような重要な労働条件を切り下げる措置は、その必要性がきわめて差し迫ったもので、かつ公正中立な第三者から見ても十分に納得がいくだけの緊急性を要しており、しかもその減額幅が妥当な範囲に収まっていて、労働者に対する打撃の程度がそれほど大きくないという場合でないと、就業規則の改訂のような一方的措置によって実現することはかなり難しいと言えるでしょう(上記の新しいウィンドウが開きます大曲市農協事件では、農協の合併にともなう給与調整などで賃金自体がかなり増額されているので実際に支給される退職金は額としてはそれほどの減額にはならないことや、合併における退職金の格差是正が実現しないと、その後の人事管理の面で著しい支障が生じること、さらには定年の延長などの新しい優遇措置も設定されていることなどから、退職金支給倍率を引き下げる就業規則変更の合理性が認められています)。

関係法令・資料

労働基準法(昭和22年04月07日 法律第49号)第89条

改正労働基準法の施行について(昭和63年01月01日 基発第1号,婦発第1号)

(名古屋大学准教授 中野 妙子)

2011年4月掲載