Q3 個別の解雇規制に当たる場合を除けば、解雇は原則として自由にできますか。

ご利用にあたって

  • 労働問題Q&Aは個別事案について法的なアドバイスをするものではありません。
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具体的なご相談は、厚生労働省「総合労働相談コーナー」新しいウィンドウなど行政機関等の相談窓口にお尋ねください。


質問

大事な仕事のときになるとなぜか遅刻をする社員がおり、職場の規律に影響するので解雇しようと思います。このような社員は当然に解雇できるのではないかと考えるのですが、いかがでしょうか。

回答本文の内容は執筆時点のものです。その後の法改正などは反映しておりません。

ポイント

  1. 2003年の労働基準法改正以前は、解雇は個別的な法律上の規制さえ守れば自由であったのですが、実際には、「解雇権濫用法理」という判例法理が確立しており、必ずしも使用者の自由な解雇権が認められるわけではありませんでした。
  2. 今日では、新しいウィンドウが開きます労働契約法16条により、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないような解雇は、解雇権の濫用として無効になるという一般的な解雇制限が、法律上もはっきりと設けられています。

解説

<判例による解雇権濫用法理の確立>

継続的債権契約である労働契約は、期間の定めを設ける場合には当該期間の満了によって終了し、期間の定めを設けない場合には、将来に向けてのみ効力を有する「解約」という手段によってこれを終了させることができるというのが原則です。新しいウィンドウが開きます民法は、雇用契約に関する新しいウィンドウが開きます同627条においてこの旨を明記しており、契約両当事者は「何時でも」解約をすることができることを定め、ただ告知期間として最短2週間を必要とするという要件を課しています。また期間の定めある労働契約の場合でも、「やむをえない事由」がある場合にはなお解約することができます(新しいウィンドウが開きます民法628条)。解雇とは、労働契約を、使用者の側から解約することですから、継続的契約の原則からすれば、所定の手続きによって自由になしうるものといわなければなりません。

ところが、戦後の労働法制が整い、具体的な労使関係の枠組みも形成された後、解雇をめぐる裁判所の対応は、必ずしも解雇の自由という原則を貫徹するのではなく、むしろ社会的に相当でない解雇はこれを無効とするという判断を主流とするようになりました。当時の解雇は、激烈な労使紛争により生じたものが多く、その過程での解雇は、混乱する経済情勢の中で深刻な生活危機をもたらすのが常でした。そこで裁判所としても、正当な理由のない解雇を無効とするなどの対応によって、社会的に見て相当性を欠くような解雇を制約する必要性が大きかったといえます。しかしその後も判例は、いわゆる終身雇用慣行の定着や、転職市場の未確立という事態を踏まえ、解雇権は濫用してはならないという当然の法理を、むしろ解雇にはそれ相応の理由がなければ濫用になるという趣旨として使用しているかのような判断基準を形成して行きました。

こうして最高裁でも、「使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になる」との一般原則が提示されます(新しいウィンドウが開きます日本食塩事件・最二小判昭和50年4月25日)。さらに、最高裁は、「普通解雇事由がある場合においても、使用者は常に解雇しうるものではなく、当該具体的な事情のもとにおいて、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないときには、当該解雇の意思表示は、解雇権の濫用として無効になる」(新しいウィンドウが開きます高知放送事件・最二小判昭和52年1月31日)として、解雇一般についてだけではなく、就業規則上の解雇事由に該当する場合にも、客観的な合理性や社会的な相当性という観点から見て解雇が妥当でないとみなせる場合は解雇権が濫用されたとするという基本的立場をとることを宣明したのです。

裁判例の積み重ねによって形成された解雇権濫用法理は、日本型の「終身雇用、年功性賃金、企業別組合」という雇用慣行の形成をサポートする役割を果たしてきました。現在までに、労働者の労務提供の不能や労働能力・適格性の欠如・喪失(病気、勤務成績の著しい不良、重要な経歴の詐称など)、労働者の規律違反の行為、経営上の必要性(合理化による職種の消滅、経営不振による人員整理、会社解散など)、ユニオンショップ協定に基づく組合の解雇要求など、解雇の類型ごとに一定の判断基準が積み重ねられてきています(詳しくは、新しいウィンドウが開きます個別労働関係紛争判例集10 新しいウィンドウが開きます(84)新しいウィンドウが開きます(85)新しいウィンドウが開きます(86)をご参照ください)。

<解雇権濫用法理の明文化の意義>

上記の解雇権濫用法理は、2003年の労基法改正によって労基法18条の2として明文化され、さらにその後、2007年に制定された新しいウィンドウが開きます労働契約法の中にそのまま移し替えられました(新しいウィンドウが開きます労契法16条。労基法18条の2は削除)。これによって、解雇には客観的に合理的な理由が必要であるとの基本ルールおよび判断基準が、法律の中に明文をもって規定されたのです。したがって、質問の事例の場合、労働者の度重なる遅刻が解雇の客観的に合理的な理由に当たり、かつ当該労働者を解雇に処することが社会通念上相当であると認められなければ、当該解雇は新しいウィンドウが開きます労契法16条に該当し無効になります。裁判所は、一般的に、解雇の事由が重大な程度に達しており、他に解雇回避の手段がなく、かつ労働者の側に宥恕すべき事情がほとんどない場合にのみ解雇の相当性を認めており、かなり厳格な判断がなされてきているといえます。

また、新しいウィンドウが開きます労契法16条の解釈が、今後も、かつての解雇権濫用法理のような日本型雇用慣行を支える役目を果たし続けるかどうかは即断できません。日本型の雇用慣行を支えてきた上述の3要素がいずれも機能低下をきたしていますし、パートタイマーや派遣労働者など、長期雇用型ではない就労形態の労働者も増加の一途をたどっています。したがって解雇に対する法規制のありかたも、新しい時代への対応が必要なことだけは明らかでしょう。解雇権が濫用とみなされないための「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の内容は、労働契約関係の実態の変化を見据えながら再構築されていく必要があります。具体的には、一つの企業における雇用の継続だけではなく、社会全体での就労の維持や職業能力の維持・向上を主たる目的とするような方向へのアレンジが必要となるように思われます。

関係法令・資料

民法(明治29年04月27日 法律第89号)第627条 628条

労働契約法(平成19年12月05日 法律第128号)第16条

(名古屋大学准教授 中野 妙子)

2011年4月掲載