Q5 最低賃金法の概要を教えてください。

ご利用にあたって

  • 労働問題Q&Aは個別事案について法的なアドバイスをするものではありません。
  • 本文の内容は各執筆者個人の責任によるもので、機構としての見解を示すものではありません。

具体的なご相談は、厚生労働省「総合労働相談コーナー」新しいウィンドウなど行政機関等の相談窓口にお尋ねください。


質問

私はパートタイマーとして近所のスーパーマーケットで働いていますが、パートの賃金には、地域の最低賃金が影響を与えているという話を聞きました。最低賃金とはどのようなものなのでしょうか。

回答本文の内容は執筆時点のものです。その後の法改正などは反映しておりません。

ポイント

  1. 最低賃金には、最低賃金審議会の調査審議に基づき地域ごとに必ず定められる地域別最低賃金と、これに上乗せする形で設定される特定最低賃金とがあります。最低賃金は時間額で金額が定められます。
  2. 新しいウィンドウが開きます最低賃金法(最賃法)の平成19年改正により、労働協約に基づく最低賃金の廃止、新産業別最低賃金の特定最低賃金制度への発展的解消といった改正が行われました。

解説

<最低賃金規制の意義>

賃金額については、原則として国家は民間部門の決定には介入せず、労働組合による団体交渉を含め、当事者間の交渉によって決めるのが原則です。しかし、すべてを当事者に委ねてしまうと、労働者は立場が弱いので、非常に低い賃金により生活が不安定になったり、不当な低賃金の企業が市場で優位を占めるなどの不公正競争が行われたりすることがあります。そこで、賃金の最低額を法律により保障する制度が必要となります。

制定当初の新しいウィンドウが開きます労働基準法には、行政官庁が最低賃金審議会の意見を聞いて最低賃金を定めることができるという規定がありましたが、実際には、この方式により最低賃金が定められることはありませんでした。その後、昭和34年に新しいウィンドウが開きます最低賃金法が制定されたため、労基法上の最低賃金の規定は削除されています。

平成19年改正前の新しいウィンドウが開きます最賃法では、労働協約に基づく地域的最低賃金制度と、最低賃金審議会の調査審議に基づく地域別最低賃金および新産業別最低賃金の2つの方式を定めていました。しかし、協約に基づく最低賃金方式は、企業別組合を中心とする日本では実際上利用可能性がほとんどなかったため、平成19年改正によって廃止されました。また、新産業別最低賃金については、経済のグローバル化の中で使用者側から廃止の主張もなされましたが、罰則のない上積みの特定最低賃金に解消されることになりました。さらに、最低賃金額は、時間、日、週または月によって定めることとされていました(実際には時間額での表示が中心となっていました)が、平成19年改正により時間のみによって定めることとなりました(新しいウィンドウが開きます最賃法3条)。

使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者(労基法の適用を受ける労働者と同一です。新しいウィンドウが開きます最賃法2条1号)に対して、最低賃金額以上の賃金を支払わなければなりません(新しいウィンドウが開きます最賃法4条1項)。最低賃金額に達しない賃金を定める労働契約はその部分につき無効となり、無効となった部分は最低賃金と同様の定めをしたものとみなされます(新しいウィンドウが開きます同条2項)。また、使用者は、最低賃金の概要を周知するための措置をとらなければなりません(新しいウィンドウが開きます同8条)。労基法と同様に、使用者のこれらの義務への違反には罰則の制裁がありますし(新しいウィンドウが開きます同40条新しいウィンドウが開きます41条。ただし、地域別最低賃金および船員に適用される特定最低賃金に係るものに限ります)、労働基準監督官による監督がなされます(新しいウィンドウが開きます同32条)。

<最低賃金の決定方式>

さて、現行法上の最低賃金には、一定の地域ごとに必ず決定されなければならない地域別最低賃金(新しいウィンドウが開きます最賃法9条)と、これに上乗せされる特定最低賃金(同15条)とがあります。

新しいウィンドウが開きます最賃法の平成19年改正により、地域別最低賃金は、必置の最低賃金制度として明文化されました。地域別最低賃金は、地域における労働者の生計費および賃金ならびに通常の事業の賃金支払能力を考慮して定められなければなりません(新しいウィンドウが開きます最賃法9条2項)。ここで、地域における労働者の生計費を考慮するに当たっては、労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護に係る施策との整合性に配慮するものとされています(同条3項)。この規定は、日本の最低賃金額が他の先進諸国と比べて低く、場合によっては生活保護の支給水準よりも低くなるという批判を受けて、平成19年改正によって導入されました。

地域別最低賃金は、最低賃金審議会の調査審議に基づき、厚生労働大臣または都道府県労働局長が決定します(新しいウィンドウが開きます最賃法10条1項)。実務では、中央最低賃金審議会が全国の都道府県を4つのランクに分けて毎年の改正の目安を示し、各都道府県の最低賃金審議会がこの目安額を参考にした審議を行い、その答申によって当該都道府県の具体的な最低賃金額を決めるという運用が採られています。

特定最低賃金は、労働者または使用者の全部または一部を代表する者が、当該労働者または使用者に適用される一定の事業または職業に係る最低賃金の決定を申し出た場合に、最低賃金審議会の調査審議に基づいて、厚生労働大臣または都道府県労働局長が決定することができます(新しいウィンドウが開きます最賃法15条1項、2項)。特定最低賃金の額は、当該特定最低賃金の適用を受ける使用者の事業場の所在地を含む地域について決定された地域別最低賃金の額を上回るものでなければなりません(新しいウィンドウが開きます同16条)。特定最低賃金については、違反に対して罰則の適用はありません。

なお、心身の障害により著しく労働能力の低い者や試用期間中の者などについては、使用者が都道府県労働局長の許可を受けたときは、最低賃金額から労働能力その他の事情を考慮して減額を行った額により最低賃金を支払うことができるという、減額の特例が認められています(新しいウィンドウが開きます最賃法7条)。

関係法令・資料

最低賃金法(昭和34年04月15日 法律第137号) 第2条 3条 4条 7条 8条 新しいウィンドウが開きます9条 10条 15条 16条 32条 40条 41条

労働基準法(昭和22年04月07日 法律第49号)第91条

(名古屋大学准教授 中野 妙子)

2011年4月掲載