Q1 法律上、賃金とは何ですか。

ご利用にあたって

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質問

当社では、営業社員の交通費として、タクシー券を現物支給しています。もしこれが賃金に当たるとすると、賃金は原則として通貨で支払わなければならないとする新しいウィンドウが開きます労働基準法24条1項に違反してしまいそうですが、新しいウィンドウが開きます労基法上の賃金とはどのようなものをいうのでしょうか。

回答本文の内容は執筆時点のものです。その後の法改正などは反映しておりません。

ポイント

  1. 新しいウィンドウが開きます労働基準法上、賃金とは、(1)使用者が、(2)労働者に対して、(3)労働の対償として支払うすべてのものをいいます。
  2. 交通費のように業務の遂行のために要した費用は、一般には賃金に当たりません。

解説

<賃金の定義>

賃金とは、一般に、労働の対価として使用者が労働者に支払うものをいいます。新しいウィンドウが開きます労働契約法は、「労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する」と規定しています(新しいウィンドウが開きます労働契約法6条)。労働契約法上は、労働契約における「賃金」が何であるかは、労働に対する対価についての当事者の合意に委ねられています。

他方、ある経済的利益が「賃金」に当たり、使用者が労働者に支払う義務を負っていることになりますと、労働者は裁判でその支払いを求める訴えを起こせることになります。また、新しいウィンドウが開きます労基法24条は、賃金について、使用者は、通貨でその全額を、毎月一回以上、一定の期日に労働者に直接支払わなければならないことなどと定めており、こうした規定に違反した場合には、使用者は、労働基準監督官による指導等を受けたり、刑事罰を課されたりすることがあります(新しいウィンドウが開きます本節のQ7参照)。

そこで、こうした保護が与えられる「賃金」の意味を明確にするために、新しいウィンドウが開きます労基法は賃金に関する定義規定を設けています。すなわち、新しいウィンドウが開きます労基法11条によれば、同法における賃金とは、「賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの」をいいます。この規定からは、「賃金」に当てはまるためには、a.使用者が支払うものであること、b.労働者に支払われるものであること、c.労働の対償であること、という3つの条件を満たす必要があることが分かります。逆に、これらの要件を満たせば、どのような名称がついているかは、関わりありません。また、通貨で支払われなくとも、賃金に該当することはありえます(ただし、通貨以外のもので支払うには、新しいウィンドウが開きます労基法24条1項但書の要件を満たすことが必要です)。

<賃金の要件>

そこで、以上の3つの要件をみていきますと、まず、a.「使用者が」支払うことという要件に関しては、いわゆるチップは、顧客が労働者に直接渡すものであるかぎり、賃金には当たらないといえます(使用者が受けとったものを労働者に分配する場合には賃金になりえます)。また、勤労者退職金共済機構と使用者との退職金共済契約により使用者が掛け金を支払い、同機構が労働者に支払う退職金も、使用者が支払うものではないので、賃金には当たりません。

次に、b.「労働者に」支払われるものという要件に関しては、労働者が死亡した場合に遺族に支払われる死亡退職金が問題となりますが、これは一般に、労働者にいったん帰属した退職金が遺族に支払われるものではなく、遺族が会社の規定などに基づき直接に請求権を取得するものですので、やはり賃金には当たらないのが通常です。

賃金の要件として実際上最も重要なのは、c.「労働の対償」という要件です。この点については、わが国においては現実の労務の提供と直接に結びついていない支払項目(家族手当や住宅手当)も多いのですが、「労働の対償」という表現は広く解釈され、労働契約上、いわば労働者としての地位の設定の対価として使用者に支払いが義務づけられているものも含むと理解されています。

この点に関して問題となるのが退職金や賞与です(わが国では、これらの支払いそのものを使用者に義務づけた法令はありません)。賞与や退職金は、使用者の査定などにより額が上下することがありますが、判例では、就業規則その他において支給基準が明らかにされており、使用者に支給義務がある場合には退職金は賃金に当たると解されています(新しいウィンドウが開きます伊予相互銀行事件・最三小判昭和43年5月28日)。これに対して、まったく使用者の裁量に委ねられた恩恵的給付のような退職金は賃金には当たらないことになります。しかし、上記のような判断基準によれば、多くの企業の退職金は賃金に当たるといえるでしょう。賞与についても同様に、支給基準が明らかで使用者に支払い義務があるものは賃金に当たります(新しいウィンドウが開きます本節のQ3参照)。

以上に対して、従業員に対する住宅資金の貸し付けや社宅の貸与などは、企業が従業員の福利厚生のために負担するもので、労働者への報酬とは理解されていませんので、賃金には当たらないといえます。また、制服や交通費、交際費などの業務費も、企業が業務の遂行に当たり負担すべき費用であって、労働の対価ではありませんので、やはり賃金には当たりません。そうすると、質問の事例のようなタクシー券の給付も、業務に要した費用(あるいはその見込額)を支給するものである限り、賃金の支払いには当たらないといえそうです。

関係法令・資料

労働基準法(昭和22年04月07日 法律第49号)第11条 24条

労働契約法(平成19年12月05日 法律第128号)第6条

(名古屋大学准教授 中野 妙子)

2011年4月掲載