Q11.使用者が従業員の年休の請求を拒否できるのはどのような場合ですか。

※労働問題Q&Aは個別事案について法的なアドバイスをするものではありません。
具体的なご相談は、厚生労働省「総合労働相談コーナー」新しいウィンドウなど行政機関等の相談窓口にお尋ねください。

質問

部下が1週間後に年休を取りたいと申し出てきましたが、当日は出張者が何人も重なってしまい、断わらざるをえない状況にあります。年休はどのような場合に断わることができるのでしょうか。

回答

ポイント

  1. 労働者が年休の時季指定をした場合、その年休取得により事業の正常な運営が妨げられるときには、使用者は年休取得を拒否する権利(時季変更権)があります。
  2. 時季変更権の行使の適否は、事業の内容、規模、労働者の担当業務、事業活動の繁閑、予定された年休日数、他の労働者の休暇との調整等様々な要因を考慮して判断しますが、使用者は労働者の希望が実現できるように配慮を行うことが求められます。

解説

<年休の「拒否」とは>

労働者は、労働基準法の定める継続勤務と8割出勤という要件をみたせば、当然に年次有給休暇権を取得します。したがって、年休の取得について使用者の承認という観念を容れる余地はないとされています(林野庁白石営林署事件・最二小判昭和48年3月2日)。ただし、労働者が具体的に年休を取得する時季を指定した場合(これを時季指定権の行使といいます)に、そのとおりに年休を取得すると事業の正常な運営が妨げられる場合には、使用者は、時季を変更する権利(時季変更権)を有しています(労働基準法39条5項但書)。

時季変更権といっても、使用者は代わりの年休時季を示す必要はなく、単に指定された時季の年休を拒否すれば足ります。以上のとおり、使用者による年休の「拒否」とは、法的には時季変更権の行使のことを指すのが通常です。

<時季変更権行使の要件>

時季変更権を行使するための要件は、労働者の指定した時季の年休取得が「事業の正常な運営を妨げる」ことです。この点の判断にあたっては、事業の内容、規模、労働者の担当業務の内容、業務の繁閑、予定された年休の日数、他の労働者の休暇との調整など諸般の事情を総合判断する必要がありますが、日常的に業務が忙しいことや慢性的に人手が足りないことだけでは、この要件は充たされないと考えられます。そう考えないと、人手不足の事業場ではおよそ年休がとれなくなるからです。なお、指定した年休日数が多い場合、労働者側は事前の調整を要求され、それをしない場合には、使用者の裁量の余地が大きくなると解されています(時事通信社事件・最三小判平4年6月23日)。

さらに、使用者は、労働者が指定した時季に年休がとれるように状況に応じた配慮をすることを求められます(弘前電報電話局事件・最二小判昭和62年7月10日)。すなわち、使用者は年休実現のために、いわゆる「配慮義務」を負い、この配慮を尽くさずに行った時季変更権の行使は無効となります。

使用者がなすべき配慮の内容はさまざまですが、代替要員の確保が特に重要となります。その際には、a.年休の指定をした労働者の職務にどの程度代替性があるか、b.客観的に代替要員の確保が可能な状況にあるか、c.代替要員を確保する時間的余裕があったかなどが考慮されます。その他、代替要員は他の部署からも確保する必要があるか(業務の関連性や代行の容易さなどが考慮されるでしょう)、管理職も代替要員として考慮すべきか(管理職の職務内容や職場の慣行などが考慮されると思われます)などの問題も生じえます。

以上のように、時季変更権の行使にあたっては様々な要素を考慮しなければならないため、質問の事例について一義的な解答を示すのは困難です。しかし、通常の範囲を超えて出張者が多いために業務に支障が生じ、代替要員も見つけにくいというのであれば、時季変更権の行使が認められる可能性はかなりあると思われます。

なお、労働者は年休を自由に利用できるのが原則ですので、事業の正常な運営が妨げられるような場合を除き、年休の利用目的を理由に年休取得を拒否することはできません。他方、休暇予定日の一定日数前に時季指定を行うことを要求することは、合理的理由があれば適法であるとされています(電電公社此花局事件・最一小判昭57年3月18日)。

関係法令・資料

労働基準法(昭和22年04月07日 法律第49号)第39条

(名古屋大学准教授 中野 妙子)

2011年3月掲載