Q9.時間外労働に対する割増賃金について概要を教えて下さい。

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質問

当社では、所定労働時間は午前9時から午後5時30分(正午から午後1時までは休憩)までですが、午後5時30分から午後6時までの残業に対して割増賃金の支払は必要でしょうか。

回答

ポイント

  1. 労働基準法上、(1)1カ月の合計が60時間までの時間外労働および深夜労働については通常の労働時間の賃金の2割5分以上、(2)1カ月の合計が60時間を超えた時間外労働が行われた場合には60時間を超える労働について通常の労働時間の賃金5割以上、(3)休日労働に対しては通常の労働日の賃金の3割5分以上の割増賃金の支払が必要です。
  2. 労基法の範囲内でなされた所定外労働に対しては、労基法上は割増賃金を払う必要はありませんが、特別の定めがない限り、就業規則などにより所定外割増賃金を支払うべき場合が多くなります。

解説

<割増賃金の支払義務>

使用者が労働者に対し、時間外労働や休日労働をさせた場合には、通常の労働時間または労働日の賃金の2割5分以上5割以下の範囲内で命令の定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません(労基法37条1項)。割増率は、時間外労働については2割5分、休日労働については3割5分と定められています(平6.1.4政令第5号、割増賃金令)。ただし、1カ月の時間外労働が60時間を超えた場合は、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の5割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません(労基法37条1項但書)。以上の他、使用者が労働者に対し、午後10時から午前5時までの間に労働をさせた場合には、通常の労働時間の賃金の2割5分以上の率で計算した割増賃金を支払う必要があります(同37条4項)。

月60時間を超える時間外労働についての5割以上の特別の割増率は、近年の長期経済低迷の中で長時間労働者の割合が高止まりしていることを受けて、労働以外の生活のための時間を確保して働くことができるようにするため、特に長い時間外労働を抑制することを目的として平成20年の労基法改正によって設けられました(平成22年度より施行)。ただし、この特別の割増率は、当分の間は中小企業には適用されません(労基法138条)。

労基法33条36条に従って適法な時間外・休日労働がなされた場合の他、違法な時間外・休日労働についても、使用者が割増賃金支払義務を免れないことはいうまでもありません(昭63.3.14基発150号)。また、労基法上の割増賃金については、労使で支払わないものとする合意をしても、そのような合意は労基法13条により無効となります(昭24.1.10基収68号)。

時間外労働と深夜労働とが重複した場合、および休日労働と深夜労働が重複した場合には、割増率は合算され、それぞれ5割以上(深夜の時間帯に1カ月60時間を超える時間外労働を行わせた場合は7割5分以上)、6割以上となります(労基則20条)。しかし、休日に1日8時間を超える労働がなされても、深夜労働に該当しない限り、割増率は3割5分以上で差し支えありません(昭22.11.21基発366号など)。

なお、平成20年の労基法改正では、同時に「時間外労働の限度に関する基準」(平成10年労働省告示154号)が改正され、労使当事者は限度時間を超える時間外労働に対する割増賃金率を引き上げるよう努めることとされました。すなわち、36協定において、臨時的な特別の事情のある場合について一定期間における時間外労働の限度基準(1カ月45時間)を超えて時間外労働をさせうることをその延長限度・対象者を明示して定める場合(いわゆる特別条項を設ける場合)には、その基準を超える時間については割増率をも定めるべきこととし、その割増率は法定割増賃金率(2割5分以上)を超える率とするよう努めるべきことが定められました(平成21年厚労省告示316号)。

<割増賃金を支払うべき労働>

労基法37条により割増賃金の支払義務が生じるのは、法定労働時間を超えた労働、法定休日における労働および深夜労働が現実になされた場合です。したがって、所定の始業時刻よりも早く就労したものの、終業時刻より早く帰宅したために実労働時間が8時間を超えなかったような場合には、労基法にもとづく割増賃金支払義務は生じません(就業規則などにおいて割増賃金の支払対象とされている場合は別です)。

また、労基法の制限の範囲内で各企業の所定労働時間を超えてなされた労働(法内超勤)や、法定外休日になされた労働についても、労基法上の割増賃金支払義務は発生しません。ただし、労基法上の労働時間であれば、通常は賃金支払の対象時間とされていると思われますので、就業規則などにおいて、時間外労働等につき割増賃金を支払う旨の一般的規定がある場合には、上記の法内超勤などについては、それらを別個に取り扱う規定がない限り、所定外割増賃金が支払われるべきものと解するのが原則だと思われます(大星ビル管理事件・最一小判平成14・2・28)。質問の事例における午後5時30分から午後6時までの残業は法内超勤となりますので、このように考えることになるでしょう。

<割増賃金の算定>

割増賃金は、「通常の労働時間の賃金」または「通常の労働日の賃金」に、割増率および時間外労働数または休日数等を掛けて算出します。通常の労働時間または通常の労働日の賃金とは、(1)時間により定められた賃金についてはその金額、(2)日により定められた賃金については、その金額を1日の所定労働時間数(日により異なる場合は平均時間)で割った金額、(3)週により定められた賃金については、その金額を1週の所定労働時間数(週により異なる場合は平均時間)で割った金額、(4)月により定められた賃金については、その金額を1月の所定労働時間数(月により異なる場合は平均時間)で割った金額、(5)月、週以外の一定の期間によって定められた賃金については、(1)ないし(4)に準じて計算した金額、(6)出来高払制その他請負制によって計算された賃金については、その賃金算定期間における総労働時間数で除した金額、などをいいます(労基則19条1項)。

ただし、家族手当および通勤手当(労基法37条5項)のほか、別居手当、子女教育手当、一定の住宅手当(住宅に要する費用に応じて算定されるものに限られます。平11.3.31基発170号)、臨時に支払われた賃金、1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金(労基則21条)は、算定基礎から除外されます。除外賃金にあたるか否かは名称に関係なく実質的に判断されますが、除外賃金に含まれない賃金を割増賃金の算定基礎から除くことは許されません。

<割増賃金の支払方法>

割増賃金は、その対象となる時間外労働、休日労働、深夜労働が発生した賃金支払期間ごとに支払う必要があります。その場合、1カ月における時間外労働、休日労働及び深夜業の各々の時間数の合計に1時間未満の端数があるときに、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げることは賃金全額払いの原則に反しないとされています(昭63.3.14基発150号)。

実務上は、一定額の手当を割増賃金に代えて支払う場合や、労基法とは別の計算方法を用いる場合がありますが、こうした支払方法も、上記の方法により算定される割増賃金額を下回らないかぎり適法とされています(小里機材事件・最一小判昭63・7・14)。ただし、その際には、当該手当が割増賃金に代わる趣旨のものであることが認められることが必要です。また、法律上必要な割増賃金額がどれだけかを判断しうるように、通常の労働時間の賃金にあたる部分と割増賃金にあたる部分とを区別できることも必要となります(高知県観光事件・最二小判平6・6・13)。

なお、月60時間を超える時間外労働についての特別の割増率(5割以上)については、通常の割増率(2割5分以上)よりも引き上げられた部分については、労働者の健康確保の観点から、割増賃金の支払いに代えて有給の休暇(代替休暇)を付与することができます(労基法37条3項)。代替休暇制度の導入には、事業場の過半数組合、そうした労働組合がない場合には労働者の過半数代表者との間で労使協定を結ぶことが必要です。この協定では、a.代替休暇を与えることができる時間外労働の時間数の算定方法、b.代替休暇の単位、c.代替休暇を与えることができる期間、d.代替休暇の取得日の決定方法および割増賃金の支払い日を定めるべきとされています(労規則19条の2平21基発0529001号(PDF:220KB))に規定されています。

関係法令・資料

労働基準法(昭和22年04月07日 法律第49号)第36条 37条 138条

労働基準法施行規則(昭和22年08月30日 厚生省令第23号) 第19条 19条の2 20条 21条

労働基準法第37条第1項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令 (平成06年01月04日 政令第5号)

労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準(平成10年労働省告示154号,改正 平成21年厚生労働省告示316号)

昭和63年03月14日 基発150号

昭和24年01月10日 基収68号

昭和22年11月21日 基発366号

平成11年03月31日 基発170号

労働基準法の一部を改正する法律の施行について(PDF:220KB)(平成21年05月29日 基発第0529001号)

(名古屋大学准教授 中野 妙子)

2011年3月掲載

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