Q6.裁量労働制とは何ですか。

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質問

勤務先では経営企画室に所属していますが、人事部では、経営企画室の従業員について裁量労働制を導入する計画を立てていると聞きました。裁量労働制とはどのような制度なのでしょうか。

回答

ポイント

  1. 裁量労働制とは、業務の遂行方法が大幅に労働者の裁量に委ねられる一定の業務に携わる労働者について、労働時間の計算を実労働時間ではなくみなし時間によって行うことを認める制度です。
  2. 裁量労働制には、専門的な職種の労働者について労使協定によりみなし時間制を実施する「専門業務型」と、経営の中枢部門で企画・立案・調査・分析業務に従事する労働者に関し、労使委員会の決議によって実施する「企画業務型」の2種類があります。

解説

労働基準法上の労働時間は実労働時間によって算定するのが原則ですが、事業場外労働のみなし時間制(労基法38条の2)のほかに、業務の遂行方法が大幅に労働者の裁量に委ねられる一定の業務に従事する労働者についても、みなし制の適用が可能な場合があります。この制度は、裁量労働のみなし時間制と呼ばれ、1987年の労基法改正により導入された際には、システムエンジニアなどの専門職にのみ適用されるものでしたが、98年の法改正により、企業の中枢部門において企画・立案・調査・分析の業務を行う一定範囲のホワイトカラー労働者を適用対象とする新たな制度が設けられました。現在、前者の制度は専門業務型裁量労働制と呼ばれ、後者は企画業務型裁量労働制と呼ばれています。

後者の企画業務型裁量労働制の導入要件は特に複雑なため、以下では、2種類の裁量労働制について、それぞれの概要を説明することとします。

<専門業務型裁量労働制>

専門業務型裁量労働制は、(1)業務の性質上その遂行方法を労働者の大幅な裁量に委ねる必要性があるため、(2)業務遂行の手段および時間配分につき具体的指示をすることが困難な一定の専門的業務に適用されるものです(労基法38条の3第1項)。具体的な対象業務は、a.研究開発、b.情報処理システムの分析・設計、c.取材・編集、d.デザイナー、e.プロデューサー・ディレクター、f.その他厚生労働大臣が中央労働基準審議会の議を経て指定する業務(コピーライター、公認会計士、弁護士、不動産鑑定士、弁理士、システムコンサルタント、インテリアコーディネーター、ゲーム用ソフトウェア開発、証券アナリスト、金融工学による金融商品の開発、建築士、税理士、中小企業診断士、大学における教授研究)に限られます(労基則24条の2の2第2項平成9年労働省告示7号など)。

このような業務について労働時間のみなし制による処理が認められる理由については見解の対立がありますが、専門的業務に従事する労働者の場合は、労働時間の長さではなく、労働の質や成果によって評価を行うことを認めるべきであることを根拠に挙げる見解が有力です。

この制度を実施するには、使用者は、その事業場において過半数の労働者を組織する労働組合があればその組合、なければ労働者の過半数を代表する者と、労使協定を締結し、対象業務を特定したうえ、業務の遂行手段ならびに時間配分につき具体的指示をしない旨を定めるとともに、労働時間のみなし規定を置かなければなりません。また、対象労働者の健康確保措置や苦情処理措置についても定める必要があります(労基法38条の3第1項)。協定は、労働協約の形式(労組法14条)を充たす場合を除き、有効期間を定めなければなりません(労基則24条の2の2第3項)。また、協定は、労働基準監督署長へ届け出ることが必要です(労基法38条の3第2項)。協定を締結するにあたっては、みなし制の対象となる労働者の意見を聞くことが望ましいとされています(昭63.1.1基発1号(3.労働時間の算定(2)裁量労働に関するみなし労働時間制 ホ.労使協定の届出))。また、この制度に労働契約上の拘束力を持たせるには、労働者の合意や就業規則上の合理的定めなどの根拠が必要となります。

この制度により労働時間のみなし計算がなされる場合には、労基法上の労働時間規制への違反の有無、あるいは時間外労働についての割増賃金の額は、あくまでもみなし時間を基準に判断します。ただし、このようなみなし時間制は、労基法第4章の労働時間の計算に関してのみ用いられるもので、みなしにより計算された時間が法定労働時間を超えたり深夜業になったりする場合には、割増賃金が必要となります。また、休憩や休日に関する規定も適用されます(昭63.1.1基発1号(3.労働時間の算定(2)裁量労働に関するみなし労働時間制 ニ.みなし労働時間制の適用範囲))。

<企画業務型裁量労働制>

企画業務型裁量労働制は、企業の中枢部門で企画立案などの業務を自律的に行っているホワイトカラー労働者について、みなし制による労働時間の計算を認めるものです。このような労働者も、専門業務型裁量労働制の対象者と同様に、仕事の質や成果により処遇することが妥当な場合があることを根拠としたものですが、濫用のおそれもあるため、労使委員会における5分の4以上の多数決による決議を要するなど、専門業務型に比べて要件は厳格になっています(関連法令の他、厚生労働省の指針もご参照ください。平11.12.27労働省告示149号(平15.10.22厚生労働省告示353号により改正)

すなわち、労使委員会が5分の4以上の多数決による決議を行い、使用者がその決議を行政官庁に届け出た場合には、事業の運営に関する企画・立案・調査・分析の業務であって、性質上その遂行方法を大幅に労働者に委ねる必要があるため、その業務の遂行の手段および時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務に、その業務を適切に遂行するための知識・経験等をもつ労働者を就かせたときには、その労働者については決議で定めた時間だけ労働したものとみなすことができます(労基法38条の4第1項)。みなし制の効果は、専門業務型の場合と同様です。

企画業務型裁量労働制の対象業務に当たるか否かは個々の労働者ごとに判断され、「企画課」などの部門の全業務が対象業務になるわけではありません。対象業務の具体例は、上述した指針に挙げられています。また、対象となる労働者としては、少なくとも3年ないし5年程度の職務経験をもち、対象業務を適切に遂行しうる知識・経験をもつ者が想定されています。

また、この制度を実施するには、上述したように、使用者および事業場の労働者を代表する者からなる労使委員会による決議が必要です。労使委員会の委員の半数以上については、事業場の過半数組合、そうした組合がない場合は過半数の代表者が任期を定めて指名することを要します(労基法38条の4第2項)。労使委員会の決議事項は、a.対象業務と対象労働者の具体的範囲、b.みなし労働時間、c.対象者の健康・福祉の確保措置および苦情処理措置、d.実施にあたり対象労働者の同意を得ること、および不同意を理由に不利益取扱をしないこと、e.決議の有効期間、f.記録の保存などです(労基法38条の4第1項労基則24条の2の3第3項)。

以上のうち、対象者の健康・福祉の確保措置としては、代償休日や特別休暇の付与などがあげられます(健康等の確保の前提として、始終業・入退出時刻の記録等により勤務状況を把握することも必要になります)。また、決議に基づく労働者の同意は、各人ごと、かつ決議の有効期間ごとに得なければなりません。なお、裁量労働制のもとでも、使用者が安全配慮義務を負うことに変わりはありませんので、使用者としては、労働者が心身の健康を害するような働き方をしていないかどうかに注意し、必要に応じて適切な措置をとることが求められます。

(名古屋大学准教授 中野 妙子)

2011年3月掲載