JILPTリサーチアイ 第27回
65歳以降の雇用促進への示唆─2015年調査の二次分析から得られたこと

雇用構造と政策部門(兼任) 統括研究員[執筆時] 千葉 登志雄

2018年3月28日(水曜)掲載

1 はじめに

65歳以降も働きたいが働いていない高齢者は、65歳以降で顕著にみられる。2020年度には、継続雇用延長・定年引上げに関する制度のあり方について再検討されることになっており、高齢者の就業促進は、今後ますます論点として浮上することが見込まれる。

労働政策研究・研修機構では、高齢者雇用に関わる調査研究を長年かけて行ってきた。特に、2014年から2015年にかけて実施した、高齢者雇用に関する企業調査と60代の者を対象とした雇用・生活調査は、この分野に関わる豊富な事実を提供している。これらの調査を活用した研究成果を2016年から2017年にかけて公表しているので、この問題に関心のある方は、末尾の〔参考資料1~4〕をご覧いただければと思う。ただし、これらの調査の範囲は多岐にわたっており、このときの研究成果に収まりきらない事項があった。今回、これに関して補足的に取りまとめた、ディスカッション・ペーパー(DP18-01『労働市場の態様を軸とした65歳以降の雇用に関する一考察』参考資料5〕)の概要を、一部紹介する。(なお、これは研究員として筆者個人の責任で発表したものであり、当機構の見解ではないことにご留意いただきたい。)

2 本研究における着眼点

65歳以降の雇用を促進する、という方針自体は、高齢者雇用に関心を持つ多くの方々が首肯するであろう。ここで本研究における着眼点を2点指摘したい。第一に、一口に65歳以降の雇用を促進するといっても、目標とする像は複数あり、どれを目標にするのか考え方は異なり得る、ということである。具体的には、①希望したら基準に該当する者は65歳以降も働ける企業の割合をさらに増やすこと、②希望者全員が65歳以降も働けるようにすること、が挙げられる。もちろんこれらは二律背反の関係にある訳ではなく、まずは①に重点的に取り組み、いわば裾野を広く形成してから②に注力する、という考え方もあり得る。①②に関する現状(調査時点は2015年)は、65歳以降の雇用に関する具体的な目標値の設定、また、それに至る過程のあり方を考察するに当たり、基礎的な資料となり得よう。

第二に、目標とする像を達成するために、必要な手法は何か、ということである。高齢者雇用の経緯を紐解けば、その促進に当たっては定年・継続雇用と中途採用の双方が活用されてきたことが(時期によりこれらの濃淡は異なるものの)見て取れる。例えば、定年が60歳を下回らないようにする努力義務を課す高年齢者雇用安定法は1986年に制定され、1994年には強行規定化された。他方、2001年には雇用対策法が改正され、労働者の募集・採用について、年齢に関わりなく均等な機会を与えるよう努める義務が課されるに至った(2007年には強行規定化されている。)。これらは、高齢者雇用の促進に関して、定年・継続雇用、中途採用の双方が射程に入れられてきたことを示している。定年・継続雇用と中途採用のベストミックスを探り当てる意義は大きい。しかしながら、65歳以降の雇用に関して、企業はこれらを併用しているのか、どちらか一方のみを活用しているのかについては、調査研究を蓄積する余地が未だ大きいと言わざるを得ない。これに関する実態の把握は、定年・継続雇用と中途採用の組み合わせを想定するに当たり、やはり基礎的な資料になり得るものと考える。

3 二次分析による実態

本DPでは、上記の問題意識を踏まえつつ、企業における65歳以降の雇用手法の分布を析出している。具体的には、希望者全員が65歳以降も働ける企業(<65歳以降全員雇用群>)に、希望したら基準に該当する者は65歳以降も働ける企業を加えると(<65歳以降雇用可能群>)、該当する企業の割合は3分の2程度となる(図表1)。基準を作成せずとも人によって65歳以降も雇用される企業があることを想定すると、65歳以降の雇用があり得る企業の割合はこれより多くなろう。この結果からは、65歳以降の継続雇用は進展しており、希望者全員の継続雇用の裾野が、ある程度広がっているようにみえる。しかし、65歳以降で希望者全員を雇用する企業は、本DPの分析では1割程度に過ぎない(図表2)。両者の間には大きな差がある。

図表1 <65歳以降雇用可能群>と<65歳以降中途採用群>の分布

<65歳以降雇用可能群>と<65歳以降中途採用群>の分布図

図表2 <65歳以降全員雇用群>と<65歳以降中途採用群>の分布

<65歳以降雇用可能群>と<65歳以降中途採用群>の分布図

また、65歳以降の中途採用を活用する群(<65歳以降中途採用群>)については、<65歳以降全員雇用群>と大きくは重ならない(重なりは3.4%)。他方、<65歳以降中途採用群>と<65歳以降雇用可能群>とは、かなりの部分が重なっている(重なりは16.6%)。

4 インプリケーション

3の結果から、以下のインプリケーションが得られるのではないかと考える。まず、仮に65歳以降の希望者全てが雇用される社会が目指されるのであれば、希望する65歳以降の者を雇用することある企業が3分の2程度はある、という実態を踏まえることになろう。では、希望者全員が雇用される企業はどの程度かといえば、調査時点の2015年では1割程度に過ぎず、両者の割合の差は大きいといえる。今後JILPTで高齢者雇用に関する新しい企業調査を行うことになれば、こうした差がどの程度になっているのかを把握することが、一つの鍵となろう。その結果をも踏まえつつ、どのようなスケジュールで目指すべき高齢者雇用の像を確立させていくのか、考察を深めていくことになると思われる。

次に、目指すべき像を確立させていくため、どのような手法を採用するのが良いのであろうか。本分析によれば、高齢者を中途採用する場合にあっては、必ずしも希望者全員ではないにせよ、65歳以降も雇用されることが多い旨示唆される。つまり、両者の実施状況は多くが重なる。これに対して、希望者全員を雇用することになれば、高齢者の中途採用を行っている企業とそれ程重なる訳ではない。つまり、これらについては別個に推進策を講じていく必要性が大きいことが示唆される。この点も、新しい企業調査を行うとなれば確認を要すると思われる。

高齢者雇用の一層の促進のためには、企業や労働者個人の取組みはもちろんのこと、これを支援する公助の役割も大きい。JILPTが今後実施を予定している高齢者雇用に関する実態把握が、これらを進めるための一助となれば幸いである。