JILPTリサーチアイ 第21回
キャリアコンサルティングの効果に関するエビデンス

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キャリア支援部門 主任研究員 下村 英雄

2017年3月31日(金曜)掲載

1.キャリアコンサルティング経験者と未経験者の比較

キャリアコンサルティングに効果はあるのか。何度も繰り返されたこの疑問に一定の解を与えることが、本論の目的である。

ある政策、施策の効果を検討する際に、最も厳密な手法が「ランダム化比較試験(RCT)」であることは、よく知られるようになった(原田,2015;中室,2015)。RCTとは大まかには実験的な研究手法である。何らかの介入を行う群と行わない群を設けて、その比較を行う。その際、両群の属性・特徴を一定にするために実験協力者を両群にランダムに割り当てる。その上で、介入後の測定を行い、その違いを検討する。

残念ながら、キャリアコンサルティングについて、ここまで厳密な研究が行われた例は、国内外を見ても、ほぼ存在しない。そもそもRCT以前に、キャリアコンサルティングを経験した者と経験していない者を比較した研究そのものが少ない[注1]。また、少ないながらも行われた効果研究はサンプルサイズが小さく、知見を一般化することに限界があった。

そこで、昨年度、労働政策研究・研修機構では、キャリアコンサルティングの効果に関するエビデンスを求めるべく大規模な質問紙調査を実施した。この調査では、過去にキャリアコンサルティングおよびそれに類似の相談支援を受けた経験がある者と、そうした経験がない者に分類した。その上で、現在の意識や就労状況、働き方について幅広くたずねた。

具体的には、調査冒頭で「あなたは、過去に、専門家や専門の担当者にキャリアコンサルティングを受けたり、キャリアに関する相談したことがありますか」とたずね、「相談経験あり」の回答者と「相談経験なし」の回答者を分けた[注2]。また「相談経験あり」の回答者には、さらに「キャリアに関する相談の専門家(キャリアコンサルタント、キャリアカウンセラーなど)」「キャリア以外に関する相談の専門家(一般的なカウンセラー、その他の相談支援者)」「その他の関連する担当者(大学等キャリアセンター職員、会社の人事担当者)」を選択してもらった。現在、全国でキャリアコンサルティングおよびそれに類似の相談支援を経験したことがある者は約1割と想定されたため、相談経験者をおよそ1,000名収集すべく、調査会社のモニター約1万人に調査を依頼し、相談経験ありの回答者1,117名、相談経験なしの者8,833名から回答を収集した。

こうして調査回答者をキャリアコンサルティングの経験者と未経験者に分け、相互に比較する準実験的な手法で検討を行った。このような調査手法はRCTの厳密さには及ばず、その点、エビデンスの質が高いとは言えない。しかしながら、従来、こうした準実験的な検討も十分にはなされてこなかった。本格的な研究は金銭的・時間的コストが莫大なものになるため、そうした研究に先立って、実施可能な範囲内で暫定的な知見を得ることには十分な意義があると考えられた。

以下、労働政策研究・研修機構(2017)「キャリアコンサルティングの実態、効果および潜在的ニーズ-相談経験者1,117名等の調査結果より」のデータを再分析した結果を示す。

2.キャリアコンサルティングに効果はあったのか

従来、キャリアコンサルティングの効果が明確に現れやすいことが分かっているのは、満足感などの意識面での効果である。

図表1に示したとおり、今回の調査でも、キャリアに関する相談の専門家に相談経験あり>キャリア以外の相談の専門家に相談経験あり>その他の関連する担当者に相談経験あり>相談経験なしの順に、「仕事内容」「職場の人間関係」「職業生活全般」の満足感が高いことが示された。その他、調査では「収入」「仕事上の地位」「現在の生活全般」に対する満足感についても回答を求めたが、すべて同じ傾向であった。なお、図表1で「仕事内容」の満足感のみ、「その他の担当者」の値も高かったが、この中には会社の人事担当者なども含まれる。社内で何らかの相談をすることで仕事内容の満足感が高くなったことが推測される。

図表1 相談経験の有無別にみた現在の満足感

図表1のグラフ画像

今回の調査では意識面の効果だけでなく、少し客観的な指標に近い就労状況に関してもエビデンスが得られた。図表2に示したとおり、過去にキャリアに関する相談の専門家に相談した経験がある者は、現在、正規就労者として働いている割合、個人年収が400万円以上である割合が高かった。また、組織で働いている者では昇進している割合も高かった。

図表2 相談経験の有無別にみた正規就労率、年収、昇進

図表2のグラフ画像

なお、調査回答者には、相談を経験したのは何年前かをたずねたが、それぞれ「キャリアに関する相談の専門家に相談経験あり」3.8年前、「キャリア以外の相談の専門家に相談経験あり」4.1年前、「その他の関連する担当者に相談経験あり」4.1年前であり、統計的に有意な差はなかった。したがって今回の調査は、おおむね4年前の相談経験の有無がその後の職業生活に与える影響を検討したものと考えることができる。

そして、ここまでの結果から、過去にキャリアに関する相談の専門家に相談した経験がある者は、満足感、正規就労率、年収、昇進など指標で、現在、良好な状態にあることが、ある程度、示されると言える。

3.様々な要因の影響を取り除いたキャリアコンサルティング独自の効果

ただし、ここまでの結果では、本人の学歴、就労形態、仕事内容、勤務先の規模、年齢、性別などの様々な要因が、結果に影響を与えた可能性が想定される。本来、こうした様々な要因の影響を排除するために、事前にランダムに割り当てるのが望ましく、それを完全に行い得た場合、RCTが成立することになる。

しかし、それが可能でない場合、次善策として、統計的にこれらの要因の影響を排除する方法をとりうる。ここではロジスティック回帰分析を用いて、上記の要因を取り除き、その上で、相談経験があることがどの程度の効果をもつのかを検討する。

検討の結果、現在の職業生活に対する満足感に対して、キャリアに関する相談の専門家に相談経験があるか否かは1%水準で統計的に有意に影響を与えていた。具体的には、キャリアの相談の専門家に相談経験がある場合、ない場合とくらべて、現在の職業生活に対する満足感は1.886倍高かった。

これは、現在、正規就労をしているか否か、現在、年収が400万円以上あるか否かでも同様であり、キャリアの相談の専門家に相談経験がある場合、1%水準で統計的に有意に、正規就労者である確率は1.715倍高く、年収は1.927倍高かった。

当然ながら、学歴や仕事内容、性別や従業員規模などの影響もあるが、そういった要因の影響とは独立に、キャリアの専門家に対する相談経験の効果もあったことになる。

図表3 「キャリアの専門家に相談経験あり」が正規就労、年収、満足感に与える影響

図表3の表画像

これらの結果は、企業で働く正社員として働く者だけに絞って検討しても同様の結果となる。「キャリアの専門家に相談が経験あり」の場合、現在の職業生活に対する満足感は1.958倍高く、年収400万円以上の確率は1.979倍高い。また、女性に限定して分析を行っても同様の結果となり、「キャリアの専門家に相談が経験あり」の場合、正規就労率は1.799倍、満足感は1.752倍、年収400万以上は2.775倍となる。

一方で、結果が出なくなるケースもある。例えば、現在、非正規の形態で働いている者に限定して同様の分析を行うと「キャリアの専門家に相談が経験あり」の場合、満足感は1.591倍となるが年収では効果がみられなくなる。また、年代で分けた場合、「キャリアの専門家に相談が経験あり」の効果は、20代では現在の職業生活に対する満足感でのみ統計的に有意となり、2.159倍高い。一方で50代では年収400万円以上でのみ統計的に有意となり2.592倍となった。

4.キャリアコンサルティングの中長期的な効果

ここまでの結果から、キャリアコンサルティングには効果があると、一定の限界はありながらも、ある程度のところまでは主張が可能であると思われる。無論、今後、可能であれば、より厳密なRCTによる研究の蓄積を行っていく必要がある。時流もあり、国内外問わず、キャリア支援に関わる研究者にはリゴラス(厳格な)なエビデンスを常に示すことが求められるのは事実である。

一方で、海外のキャリアガイダンス論では若干、方向性の異なる議論もある。キャリアガイダンスの効果は何に現れるのかというアウトカムをめぐる議論である。この点について、欧州では「キャリアガイダンスの経済的なインパクト」というテーマに継続的に関心が持たれてきた。これは、キャリアガイダンスがたんに進路やキャリアに思い悩む個人の問題を解決するにとどまらず、中長期的には国の経済全体に影響を与えうるとする議論である。

この系統の最新の議論としてHooley & Dodd(2015)は、キャリアガイダンスの効果を、(1) 個人的効果、(2) 1次的経済効果(労働力率の増加、失業の減少、スキルや知識の増加、柔軟で移動しやすい労働市場の形成)、(3) 2次的経済効果(健康の増進、犯罪の減少、税収の増加、社会保障費用の減少)、(4) マクロ経済便益(赤字削減、生産性向上、生活水準の向上、経済成長)に分類する。その上で、おおむねこの順にキャリアガイダンスの効果は波及するとしている。そして、こうした波及効果が想定される以上、一国のスキル政策の基盤を整備するにあたっては、キャリアガイダンスは本来的に労働者に提供される必要があると、議論は進む(CEDEFOP,2008 労働政策研究・研修機構,2014訳;CEDEFOP,2011;OECD,2012)。

つまり、効果があるからやるというのではなく、やる必要があるからやるという議論を展開する。これは、日本におけるキャリア権の発想とも類似しており、労働者にはキャリアコンサルティングのようなキャリア支援サービスを受ける必要性があり、したがって、国や組織はそれに応じたキャリア支援サービスを提供する必然性があると考える。

こうした議論を日本の環境に置き換えた場合、どの程度、妥当であるかはであるのかは定かではない。しかし、日本のキャリアコンサルティング施策を含むキャリア政策全般を考える上で重要な視点を提供するものであるとは言えるであろう。

脚注

注1 キャリアコンサルティングに限定せず、広い意味でのカウンセリング全般に範囲を拡大した場合には、心理学では実験研究が一般的であったこともあり、比較的、効果研究は多くなされてきた。例えば、クーパー(2012)では、カウンセリング効果研究のエビデンスを豊富に掲載しており、過去30年間にわたる数多くのメタ分析の結果、「カウンセリングやサイコセラピー実践の平均効果量は、治療なしの統制群と比較して、約0.75~0.85」であり、「多くの内科的・外科的処置の平均的な総合的効果量が0.5であることから、それらと比べても相当大きな値を示している(クーパー,2012 p.27)」ことが示されている。この効果量0.75~0.85とは、おおむね約79%のクライエントが何もしなかった人よりも良い方向に改善したことを示す。よりキャリアカウンセリングに近い文献としては、Whiston, Sexton & Lasoff (1998) は、1983年~1995年の47研究についてメタ分析を行い、キャリアガイダンスは総じて効果的と結論づけている。その上で、特に個別カウンセリングが最も効果的であるとしている。さらに、この研究を発展させたWhiston, Brecheisen & Stephens (2003) では1975年から2000年までのキャリアガイダンスに関する347研究のメタ分析を実施した。その結果、総じてカウンセラーがつかないキャリアガイダンスは効果が低いといった結果を示している。

注2 調査冒頭では、以下の注記を付して、回答者が自らの相談経験の有無を容易に判断できるようにした。

  1. この調査で「専門家や専門の担当者」とは、身近な人(友人・先輩・家族等)以外の以下の人を言います。
    ア)キャリアに関する相談の専門家(キャリアコンサルタント、キャリアカウンセラーなど)
    イ)キャリア以外に関する相談の専門家(一般的なカウンセラー、その他の相談支援者)
    ウ)その他の関連する担当者(大学キャリアセンター職員、会社の人事部担当社員など)
    ※「専門家や専門の担当者」に対する相談かどうか迷う場合は、「専門家や専門の担当者」に相談したことがあるものとしてお答えください。
  2. この調査で「キャリアコンサルティング」とは、本人の適性や職業経験等に応じて自らの職業生活設計を行い、これに即した職業選択や能力開発を効果的に行えるようにするための相談、助言、指導のことを言います。キャリアカウンセリングなどと呼ばれることもあります。
  3. この調査で「キャリアに関する相談」とは、就職、転職、離職、再就職、復職のほか、職場の人間関係、ハラスメント、長時間労働のほか、職業や仕事に関する相談ごとすべてを含みます。
    ※「キャリアに関する相談」かどうか迷う場合は、「キャリアに関する相談」をしたことがあるものとしてお答えください。

引用文献

  • CEDEFOP (2010). From policy to practice: A systemic change to lifelong guidance in Europe. CEDEFOP.(労働政策研究・研修機構(2014).欧州におけるキャリアガイダンス政策とその実践①政策から実践へ─欧州における生涯ガイダンスに向けたシステム全体の変化 資料シリーズNo.131)
  • ELGPN (2012). Lifelong guidance policy development: A European resource kit. ELGPN.
  • 原田隆之(2015).心理職のためのエビデンス・ベイスト・プラクティス入門 金剛出版
  • Hooley, T., & Dodd, V. (2015). The economic benefits of career guidance. Derby: Careers England. Online.
  • クーパー・M(清水幹夫・末武康弘監訳)(2012).エビデンスにもとづくカウンセリング効果の研究 岩崎学術出版社
  • 中室牧子(2015).「学力」の経済学 ディスカヴァー・トゥエンティワン
  • OECD (2012), Better skills, better jobs, better lives: A strategic approach to skills policies, OECD.
  • 労働政策研究・研修機構(2017).キャリアコンサルティングの実態、効果および潜在的ニーズ─相談経験者1,117名等の調査結果より 労働政策研究報告書No.191
  • Whiston, S. C., Brecheisen, B. K., & Stephens, J. (2003). Does treatment modality affect career counseling effectiveness? Journal of Vocational Behavior, 62, 390-410.
  • Whiston, S. C., Sexton, T. L., & Lasoff, D. T. (1998). Career intervention outcome: A replication and extension of Oliver and Spokane(1988). Journal of Counseling Psychology, 45, 150-165.