JILPTリサーチアイ 第4回
壮年非正規雇用労働者の研究

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総合政策部門 研究員 高橋 康二

2014年8月6日(水曜)掲載

JILPTでは、第3期プロジェクト研究(2012~2016年度)の一環として「壮年非正規(雇用)労働者の働き方と意識に関する研究」を進めている。若年の非正規雇用労働者の増加が問題視されてからすでに20年以上が経つ現在、もはや若年とは呼べない、「壮年」と呼ぶべき年齢層の非正規雇用労働者が増加しているからである。かれらが直面している課題を明らかにし、そこに至る原因、そこからキャリアアップしたケースを分析することで、今後の労働政策の立案に役立てることが目的である。

「主婦パート」でもなく、「フリーター」でもない非正規雇用労働者

日本経済が高度成長を達成して以降、最初に大量に出現した非正規雇用労働者は、既婚女性のパートタイム労働者(主婦パート)であった[注1]。その後、バブル経済崩壊後に若年の非正規雇用労働者(フリーター)が増加[注2]、そのことが社会問題化し、さまざまな政策的対応がとられるに至っている[注3]

これに対し、昨今、主婦パートでもなく、フリーターの定義にも収まらない、35~44歳の男性・無配偶女性の非正規雇用労働者が増加している。ここでは、かれらを「壮年非正規雇用労働者」と呼ぶこととする。

図表1は、その人数を示したものである。ここから、過去10年間で男女合わせて51万人から104万人へと倍増していることが分かる。もっとも、人数の増加の一部は、いわゆる団塊ジュニア世代が35~44歳という年齢層に到達したことによる。しかし、同じ年齢層の雇用労働者全体に占める非正規雇用労働者の割合を見ても、確実に高まっていることが分かる。

図表1 壮年(35~44歳)非正規雇用労働者の人数推移

図表1グラフ

資料出所:総務省「労働力調査(詳細集計)」より。

注1:%は、「役員を除く雇用者」に占める非正規雇用労働者の割合。

注2:在学中の者は除く。

不本意非正規、上がらない賃金、厳しい生活実態

かれらの仕事と生活の現状はいかなるものか。図表2~図表4は、JILPTが実施した「職業キャリアと働き方に関するアンケート」(留置票)に基づく現状分析の結果である[注4]

まず注目されるのが、不本意非正規雇用労働者が多いということである。図表2から、若年(25~34歳)の非正規雇用労働者に比べ、壮年(35~44歳)の非正規雇用労働者には、男女ともに、現在の働き方を選んだ理由として「正社員として働ける会社がなかったから」を挙げる人が多いことが読み取れる。

図表2 不本意非正規雇用労働者の割合(%)

図表2グラフ

資料出所:労働政策研究報告書No.164 第Ⅱ部集計表より。

注:現在の働き方を選んだ理由として「正社員として働ける会社がなかったから」を挙げた非正規雇用労働者の割合。

非正規雇用の場合、年齢が上昇しても賃金上昇が乏しい。図表3は、雇用労働者の賃金(中央値)を示したものである。ここから、男性の正規雇用では壮年の方が月給ベースで6万円(25%)高く、女性の正規雇用でも4万円(20%)高いことが分かる。これに対し、男性の非正規雇用では、壮年は時給ベースで100円(11.1%)高いにとどまり、女性の非正規雇用では30円(3.4%)低くなっている。

図表3 雇用労働者の賃金(中央値)

図表3グラフ画像クリックで拡大表示(新しいウィンドウ)

資料出所:労働政策研究報告書No.164 第Ⅱ部集計表より。

若年から壮年にかけての賃金上昇が乏しいこともあってか、壮年非正規雇用労働者の生活は厳しい。図表4は、雇用労働者について等価所得を求め[注5]、正規/非正規別、男女別、年齢層別にその分布を示したものである。ここでは、雇用労働者全体の等価所得の中央値を求め、その半分以下である場合「貧困」と定義する。すると、正規雇用の場合には、男女ともに、若年と壮年とで貧困の割合に違いがない。他方、非正規雇用の場合には、男女ともに、若年よりも壮年の方が貧困の割合が高くなることが読み取れる。

図表4 雇用労働者の等価所得の分布

図表4グラフ画像クリックで拡大表示(新しいウィンドウ)

資料出所:労働政策研究報告書No.164 図表5-2-3、図表5-2-4より。

注:雇用労働者全体の等価所得の中央値を求め、中央値の半分以下である場合を「貧困」とした。

原因、キャリアアップの条件の探索

それでは、壮年非正規雇用労働者は、これまでどのようなキャリアを歩んできているのか。また、将来どのようなキャリアを歩むことになるのか。図表5と図表6は、JILPTが実施した「職業キャリアと働き方に関するアンケート」(面接票)を集計したものである。

まず、若い時から一貫して非正規雇用であった人は必ずしも多くないことが分かる。図表5は、壮年非正規雇用労働者の過去のキャリアを示したものであるが、ここから、男女ともに20代前半~20代半ばには半分近くが正規雇用で働いていたことが読み取れる。

では、なぜかれらは非正規雇用に転じることになったのか。当事者へのヒアリング調査の記録である資料シリーズNo.126からは、会社都合退職のほか、長時間労働・業務上疾病、理不尽な労働条件による退職がきっかけとなっている場合が多いことが示唆される。

図表5 壮年(35~44歳)非正規雇用労働者の過去のキャリア

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資料出所:「職業キャリアと働き方に関するアンケート」(面接票)を執筆者が集計。

注:集計対象は、35~44歳の非正規雇用労働者である。

このように厳しい生活状況に置かれている壮年非正規雇用労働者であるが、キャリアアップの可能性がないわけではない。図表6は、壮年男性のうち、25歳、30歳、35歳の時点で非正規雇用であった人について[注6]、20~40歳にかけてのキャリアを示したものである。ここから、25歳時点で非正規雇用であった人のうち、半分程度は30代後半には正規雇用に転じていることが分かる。これに対し、35歳時点で非正規雇用であった人の場合、後に正規雇用に転じる割合は相対的に低い。しかし該当者がいないわけではない。

資料シリーズNo.126では、35歳以上の年齢で正規雇用に転じた人のヒアリング記録も収録している。そこから浮かび上がってくる要因の1つが、職業資格の取得である。労働政策研究報告書No.164でも、壮年非正規雇用労働者のなかで、職業資格を持っている人、専門知識・スキルを求められる業務に従事している人は、労働条件が相対的によいことが示唆されている。

図表6 非正規雇用の経験がある壮年(35~44歳)男性のキャリア

図表6グラフ画像クリックで拡大表示(新しいウィンドウ)

資料出所:「職業キャリアと働き方に関するアンケート」(面接票)を執筆者が集計。

注:集計対象は、35~44歳の男性のうち、標記の条件を満たす人である。

終わりに

本研究は現在進行形であり、後半部分の原因とキャリアアップの条件についての分析は、まだ仮説の域を出ない。また、正規雇用か非正規雇用かで労働条件のすべてが決まるわけでもない。とはいえ、「主婦パート」でもなく、「フリーター」でもない「壮年非正規雇用労働者」の多くが、仕事と生活の両面で大きな困難に直面していることは疑いを得ない。その困難を少しでも軽減できる有効な労働政策の立案につながるよう、引き続きエビデンスを積み重ねていきたい。

注1 「主婦パート」という用語は、本田一成『主婦パート─最大の非正規雇用』(集英社新書、2010年)に倣ったものである。

注2 さしあたり「フリーター」の定義としては、「15~34歳の若年(ただし、学生と主婦を除く)のうち、パート・アルバイト(派遣等を含む)及び働く意思のある無職の人」を採用する。内閣府『平成15年版・国民生活白書』[新しいウィンドウ](ぎょうせい、2003年)を参照。

注3 たとえば、厚生労働省ホームページ「就職活動を続ける若者のみなさま、事業主の皆様へ」[新しいウィンドウ]を参照されたい。

注4 2013年7月~8月に、全国の25~34歳(若年)の男女3,000人、35~44歳(壮年)の男女7,000人、合計10,000人に対して実施した。有効回収数は4,970である。

注5 等価所得とは、世帯所得を世帯人員の平方根で除した値のことである。 

注6 ここでは、(25歳、30歳、35歳それぞれの)1年間のうち、6ヶ月以上非正規雇用で働いていた人を、(25歳、30歳、35歳それぞれの時点で)「非正規雇用であった」とみなした。