厚 生 労 働 省 発 表
平成13年11月15日(木)
| 担 当 |
労働基準局労災補償部補償課
職 業 病 認 定 対 策 室
室 長 佐 藤 清
室長補佐 佐々木 博仁
電 話 5253-1111(内線5569)
夜間直通 3502-6750
|
「脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会」の検討結果(方針)について
- 脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)を発症した労働者について、これを業務上の疾病として労災認定するか否かについては、平成7年2月に改正した「脳・心臓疾患の認定基準」に基づいて運用を行ってきたが、同12年7月、最高裁判所は、労働基準監督署長が業務外と判断した自動車運転者に係る2件の事件について、国側敗訴の判決を行ったところである。
この判決は、業務の過重性の評価に当たり、現行の脳・心臓疾患の認定基準では具体的に明示していない慢性の疲労や、就労態様に応じた諸要因を考慮する考え方を示したものである。
このため、平成12年11月から医学専門家等を参集者とする「脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会(以下「検討会」という。)」(座長:和田 攻(おさむ) 埼玉医科大学教授)が開催され、疲労の蓄積等について医学面からの検討が行われてきたが、本日、その検討結果がほぼ取りまとめられたところである。
- 厚生労働省としては、検討会から報告書の提出を受けた後、その検討結果を踏まえ、早急に脳・心臓疾患の認定基準を改正することとしている。
- 検討会の検討経過等は、別添1のとおりである。
- 検討結果の概要は、別添2のとおりである。
(別添1)
「脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会」の検討経過等について
1 現行認定基準について
脳・心臓疾患は、日常生活の中においても発症するものであるため、これが業務上の疾病と認められるためには、業務による過重負荷が血管病変等をその自然経過を超えて増悪させたと認められることが必要である。
業務の過重性の評価について、現行認定基準は、
- 発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事(業務に関連する出来事に限る。)に遭遇したこと
- 日常業務に比較して、原則として発症前1週間以内に特に過重な業務に就労したこと
等を認定要件としている。
2 現行認定基準の見直しについて
- 平成12年7月の2件の最高裁判決は、
- 業務の過重性の評価に際し、労働時間の長さ等の過重性に加えて、相当長期間にわたる業務による負荷を評価し、
- また、業務の過重性の評価に当たって、精神的緊張、業務の不規則性、拘束時間の長さ等の具体的な就労態様による影響を考慮したものである。
- この判決を踏まえ、「脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会」において、平成12年11月以来12回にわたって、検討を行ってきた。
3 脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会の検討課題
- 検討会の主な検討課題は、次のとおりである。
- 「慢性の疲労や過度のストレス」の検討
「慢性の疲労や過度のストレス」の考え方、評価方法
- 過重性の評価期間の検討
慢性の疲労や過度のストレスの評価とも関連する評価期間
- 「業務の過重性」の評価要因の具体化の検討
的確かつ客観的に業務の過重性を評価するための就労態様に応じた評価要因の具体化
- 検討会の参集者は、次のとおりである。
|
○臨床 |
笠貫 宏
黒岩 義之
西村 重敬
馬杉 則彦 |
東京女子医科大学附属
日本心臓血圧研究所所長
横浜市立大学医学部教授
埼玉医科大学教授
横浜労災病院副院長 |
| ○病理学 |
奥平 雅彦 |
北里大学名誉教授 |
○(公衆)衛生学
[座長] |
荒記 俊一
小林 章雄
和田 攻 |
独立行政法人 産業医学総合研究所理事長
愛知医科大学教授
埼玉医科大学教授 |
| ○法律学 |
岩村 正彦
西村健一郎 |
東京大学大学院法学政治学研究料教授
京都大学大学院法学研究科教授 |
(別添2)
「脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会報告書」の概要
1 基本的な考え方
- 脳・心臓疾患は、血管病変等が長年の生活の営みのなかで、形成、進行及び増悪するといった自然経過をたどり発症するが、業務による過重負荷が加わることによって、血管病変等がその自然経過を超えて著しく増悪し、脳・心臓疾患が発症する場合がある。
- 「長期間にわたる疲労の蓄積」が脳・心臓疾患の発症に影響を及ぼすことが考えられることから、業務による明らかな過重負荷として、脳・心臓疾患の発症に近接した時期における負荷(異常な出来事及び短期間の過重負荷)のほか、長期間にわたる業務による疲労の蓄積(長期間の過重負荷)についても考慮すべきである。
- 評価の基準となる労働者は、発症した労働者と同程度の年齢、経験等を有する健康な状態にある者のほか、基礎疾患を有するものの日常業務を支障なく遂行できる労働者とすることが妥当である。
2 業務の過重性の総合評価
- 長期間にわたる過重負荷の考え方
- 業務の過重性の評価は、疲労の蓄積が血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ、脳・心臓疾患の発症に至らしめる程度であったかという観点から、発症前6か月間における就労状態を具体的かつ客観的に考察して行うことが妥当である。
- 具体的には、労働時間、勤務の不規則性、拘束性、交替制動務、作業環境などの諸要因の関わりや業務に由来する精神的緊張の要因を考慮して、当該労働者と同程度の年齢、経験を有する同僚労働者又は同種労働者であって日常業務を支障なく遂行できる労働者にとっても、特に過重な身体的、精神的負荷と認められるか否かという観点から、総合的に評価することが妥当である。
- その際、疲労の蓄積の最も重要な要因である労働時間に着目すると、
- 発症前1か月間におおむね100時間を超える時間外労働が認められる場合、発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性は強いと判断される。
- 発症前1か月間ないし6か月間にわたって、
- 1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合は、業務と発症との関連性が弱く、
- 1か月当たりおおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まると判断される。
-
労働時間以外の要因は、次のとおりである(具体的な内容は別添のとおりである。)。
- 不規則な勤務
- 拘束時間の長い勤務
- 出張の多い業務
- 交替制勤務、深夜勤務
- 作業環境(温度環境、騒音、時差)
- 精神的緊張(心理的緊張)を伴う業務
- 異常な出来事や短期間の過重負荷
発症に近接した時期における業務による明らかな過重負荷が脳・心臓疾患の発症の直接的原因になり得るとする考え方は、現在の医学的知見に照らし、是認できるものであり、この考え方に沿って策定された現行認定基準は、妥当性を持つものと判断する。
3 脳・心臓疾患のリスクファクター
脳・心臓疾患の発症には、高血圧、高脂血症、喫煙等のリスクファクターが関与し、多重のリスクファクターを有する者は、発症のリスクが高いことから、労働者の健康状態を十分把握し、基礎疾患等の程度や業務の過重性を十分検討し、これらと当該労働者に発症した脳・心臓疾患との関連性について総合的に判断する必要がある。
(参考) 対象疾病
業務による過重負荷によって発症する疾患として、「疾病、傷害および死因統計分類提要」(「ICD−10」)に基づく疾患名で整理した。
なお、新たに追加、削除した疾患はない。
- 脳血管疾患
- 脳内出血(脳出血)
- くも膜下出血
- 脳梗塞
- 高血圧性脳症
- 虚血性心疾患等
- 心筋梗塞
- 狭心症
- 心停止(心臓性突然死を含む。)
- 解離性大動脈瘤
(別添)
労働時間以外の要因
|
就 労 態 様 |
負荷の程度を評価する視点 |
|
不規則な勤務
|
予定された業務スケジュールの変更の頻度、程度、事前の通知状況、予測 の度合、業務内容の変更の程度等 |
拘束時間の
長い勤務 |
業務内容、労働密度(実作業時間と手待時間との割合等)、休憩・仮眠時 間、休憩・仮眠施設の状況(広さ、空調、騒音等)等 |
|
出張の多い業務
|
出張中の業務内容、出張(特に時差のある海外出張)の頻度、交通手段、 移動時間及び移動時間中の状況、宿泊の有無、宿泊施設の状況、出張中に 睡眠を含む休憩・休息が十分取れる時間が確保されていたか、出張中の疲労が出張後において回復できる状態であったか等 |
交替制勤務・
深夜勤務 |
勤務シフトの変更度合、勤務と次の勤務までの時間、交替制動務における 深夜時間帯の頻度等 |
作
業
環
境 |
温度環境 |
寒冷のため手足の痛みや極度に激しい震えが生じる程度の作業であった か、作業強度や気温に応じた適切な保温力を有する防寒衣類を着用してい
たか、一連続作業時間中に暖を採れる状況であったか、暑熱と寒冷との交 互のばく露の繰り返しや激しい温度差がある場所への出入りの頻度等 |
| 騒音 |
70〜80dBを超える騒音レベルであったか、そのばく露時間・期間等 |
|
時差 |
5時間以上の時差がある地域を航空機で移動する業務であったか、時差の 程度や時差を受ける頻度はどうであったか等 |
精神的緊張を
伴う業務 |
【日常的に精神的緊張を伴う業務】
業務量、従事期間、経験、適応能力、会社の支援等
【発症に近接した時期における精神的緊張を伴う業務に関連する出来事】
出来事(事故、事件等)の大きさ、損害の程度等
|
|