日本労働研究機構
 
「週35時間制緩和及びSMIC一本化のための政府原案が閣議通過/フランス」

  9月18日、フィヨン社会問題・労働・連帯相は、「給与・労働時間・雇用促進」法案を閣議に提出し、了承された。35時間制の緩和については、超過勤務にかかる労働コストの部分を多少軽減しつつ、年間超過勤務時間上限の緩和で実質的な39時間に近い「所定内労働」を可能にする枠組みは提供しているものの、その根幹部分を業種別労使協定に委ねている。また、SMICについては、2005年までの 3年間で段階的に統合していくこととしている。この措置により、今後 3年間で、例えば時給SMICは、11.4%引上げがなされる計算となり、低賃金労働に係る労働コストの高騰につながるとみられ、その代償措置として、低賃金労働者にかかる社会保障費の減免措置を行うこととしている。

  本法案に対しては、労使双方からの反発を生む結果となることが予想され、予定では、10月初旬から国民議会での第1読会が開始されるが、労使双方から支持を受けられない法案の今後については、極めて不透明である。

<労使との協議は難航>

 9月18日、フィヨン社会問題・労働・連帯相は、「給与・労働時間・雇用促進」法案を閣議に提出し、了承された。本法案は、シラク大統領の選挙公約ともなっていた週35時間制の緩和、及び先般 7月のSMIC改定の際に言及していたSMICの一本化などの労働関連施策を1本の法案にまとめたものである。

  これらの内容について、「労使との対話」を選挙公約にシラク大統領が掲げていたこともあり、8月末よりラファラン首相及びフィヨン社会問題・労働・連帯相が労使団体トップ等と精力的に協議を続けてきていた。しかしながら、両者を満足させる落としどころを見出すのは困難であったようで、会談終了後にしばしば漏れ伝えられる法案の内容も、二転三転していた。

<週35時間制の緩和は基本的に労使自決で対応>

  最大の焦点となった週35時間制の緩和については、「法定労働時間は週35時間」(L.212‐1)との規定を削除し、「年間法定労働時間を1,600時間とする」との規定と置き換えることとしている。週35時間を 1年間積み上げ、有給休暇や祝日分を除くと概ね1,600時間になることから、法定労働時間の水準自体はほぼ変わりがないこととなる(注1)

  一方、超過勤務時間の年間上限は現行の130時間から180時間に引上げられる(従業員20人以下の企業においては、2002年は週35時間制移行期間の1年目としてすでに180時間とされている。)。180時間とは、有給休暇や祝日分を考慮にいれると、ほぼ 1週当たり4時間程度の超過勤務が可能となる水準である。したがって、超過勤務割増を支払うことを甘受すれば週39時間程度の「所定内労働(=契約労働時間)」が可能となるという意味では(その場合超過勤務をそれ以上に命ぜられなくなるが)、週35時間制の緩和といえよう(注2)。ただし、この規定は業種別労使協定がない場合のみ適用され、各業種別に年間の超過勤務時間の上限を定めることとする。すなわち、所定内労働時間の設定可能な上限をどのレベルとするかを業種別の労使交渉に任せるというのが、今回の法の一つの眼目といえよう。

  年間超過勤務上限180時間の規定はデクレにより制定される。ただし、今後の業種別労使交渉や各業界の事情等も考慮し、年間超過勤務時間上限の180時間を18ヶ月当たり180時間へと引き下げるという再検討( 9月上旬にはこの案が有力であった)もなされることとなっている(注3)

  加えて、超過勤務割増の水準及び支払い方法にも変更を加えることとしている。まず、現行では、従業員20人を超える企業の週35時間から39時間までの4時間分の超過勤務に対しては、25%の超過休暇手当【Bonification】を支払うものとし、その手当は原則として代休で、ただし労働協約で合意されている場合は賃金として支払うこととなっている。また、20人以下の企業においては、移行期間の初年度である2002年は、35時間を超える最初の4時間分に対しては10%の超過休暇手当を与えるものとし、労働協約のない場合はこれを代休として与える(超過時間 1時間につき6分)こととなっている。一方、39時間から43時間までの4時間に対しては25%の超過勤務賃金手当【Majoration】を上乗せして支払こととなっており、44時間を超えるものに対しては50%の超過勤務手当を上乗せして支払うこととなっている。

  これを、法案では、35時間を超える労働時間の43時間までの8時間分の規定について、超過休暇手当【Bonification】を廃し超過勤務賃金手当【Majoration】に一本化し、その上乗せ率は、法律で最低幅10%のみを規定するにとどめ、労使協約に委ねることとした(労使協約で代休での支払いの取り決めも可能)。なお、従業員20人以下の企業においては、業界別協定が締結されるまでの待機措置として、2005年12月31日まで超過勤務賃金手当【Majoration】は10%と規定される。これは、2002年と2003年について設定された移行期間の初年度たる2002年度の措置とほぼ同水準の特例措置を2005年 いっぱい継続させ、実質的に所定内労働時間39時間制を継続してもさほどの労働コスト負担が発生しないようにしたものと考えられる(注4)

  また、重大な超過勤務による業務の遂行に対する「代休の義務」規定として、現行の「10人以下の企業において、超過勤務時間が、法規定の上限を超えた場合(注5)その50%の代休を与える」が20人以下の企業にまで有効とされ、「10人以上の企業において、超過勤務時間が、法規定の上限を超えた場合その100%の代休を与える。また、年間超過勤務時間の上限内で、週41時間を超える超過勤務においてはその50%の代休を与える。」が20人を超える企業に適用されることとなる。

<SMICの一本化は低賃金者にかかる社会保障負担の減免とセットで>

  本年7月のSMIC改定時にラファラン首相がアナウンスしたとおり、今回の法案には、現在6本あるSMIC(注6)を2005年までの3年間で段階的に(低いものを高いものにあわせるよう)統合していく措置が含まれている。現在、最も低いものと最も高いものの間で、119ユーロ(月額)の差がある。この措置により、今後 3年間で、例えば時給SMICは、11.4%引上げがなされる計算となり、今後3年間でSMICの5%程度の上昇が見込まれており、低賃金労働に係る労働コストの高騰につながるのは必至である。そこで、その代償措置として、SMICの1.5〜1.7倍を上限とする低賃金者にかかる社会保障費の減免措置(注7)を行うこととしている(これにより既存の減免制度は廃止)。

<本法案には労使共に不満>

  今回の法案は、超過勤務にかかる労働コストの部分を多少軽減しつつ実質的な39時間に近い「所定内労働」を可能にする枠組みは提供しているものの、その根幹部分を業種別労使協定に委ねている。現時点では、政府案が公表されたばかりであり労使からの正式な評価については報道されていないものの、当然のことながら労働者側は、労働者の既得権の確保という観点から今回の法案には強い反発を示すとみられる。加えて、使用者側も、実質的には根幹部分が労使交渉に委ねられることから、ほとんど見るべき果実はないと考えており、労使双方からの反発を生む結果となりそうである。

  さらに、SMIC改定についても、MEDEFのセリエール会長は、この減免措置ではSMICの1本化による労働コストを吸収できず、労働コストの高騰、インフレの亢進、雇用創出の減退などをもたらすものとして強く反発している。

 また、従業員規模20人を境にして取り扱いの違いが大きく固定される本法案は、大企業軽視、小企業優遇として、大企業等から批判を受ける可能性もある。

 予定では、10月初旬から国民議会での第1読会が開始されるが、このように、労使双方から支持を受けられていない法案の今後については、極めて不透明である。

 

(注1)
  この変更による週35時間労働制緩和の明示的な効果については見出しがたいが、変形労働時間制の活用をよ り容易にさせる効果や、年の中途でパートタイム労働からフルタイム労働へ移行した者(またはその逆の者)の超過勤務労働時間発生を抑制できる効果があるものと考えられる。

(注2)
  フランスの「法定労働時間」とは、我が国労働基準法の「法定労働時間」とは異なる概念であることに注意が必要である。我が国では、週40時間、1日8時間を原則として超えて労働させてはいけないこととなっており(労働基準法第32条)、これを超える内容の労働契約は無効となるが(労働基準法第13条)、フランスの場合は、法定労働時間を超える労働契約も可能である。すなわち、フランスの「法定労働時間」は、超過勤務時間算定の基礎となるものという性格を第一義としている。したがって、法定の最長労働時間(一日10時間、特定週で48時間、12週平均46時間、L.212-7-1)を超えなければ、超過勤務割増を支払うことを条件に所定内労働時間(=契約労働時間)を「法定労働時間」以上に(ただし、年間超過勤務上限は超えない範囲で)設定することも可能である。

(注3)
  もし18ヶ月180時間となれば、年間120時間という水準となり、むしろ超過勤務時間上限は若干厳しいものとなるが、18ヶ月というスパンの中で超過勤務時間のやりくりが可能となるので、繁閑等に応じた雇用・人事労務管理の柔軟性は増すといえよう。

(注4)
  2002年に係る現行の移行措置と異なるのは、10%分を超過休暇手当【Bonification】で支払うこととしていたのを超過勤務賃金手当【Majoration】で支払うこととした点である。

(注5)
  週35時間労働に移行した労働者については、その移行時期によって複数(本年7月1日以降は6本)の月給ベースでの最低賃金が並存する。これは、時短による最低賃金の目減りを避けるため、週35時間へ移行した労働者の最低賃金を移行時点の週39時間労働者の最低賃金に固定(月額ベース)するようオブリ法で定めたことによる。したがって、週35時間労働者の月給ベースでの最低賃金については、最終的に週39時間労働者のものに収斂させるため(オブリ法により2005年までの最低賃金の統一が義務づけられている)、改定率は低く設定されてきた(本年は1.8%)。35時間制については、社会保障費減免による奨励措置が1998年後半から始まっているため、1998年後半から切り替え企業が出現している(その前のジュペ法やロビアン法による時短については、SMICは考慮していない)。したがって、月給ベースのSMICについては、
   1. 時給SMICを35時間労働で積み上げ計算したもの
   2. 98年7月1日以降35時間を導入した企業向けのもの(1,035ユーロ)
   3. 99年(以下同)
   4. 00年(以下同)
   5. 01年(以下同)
   6. 02年(以下同)=時給SMICを39時間労働で積み上げ計算したもの(1,154ユーロ)
という計算で6本になる。番号が大きいほど時間当たりの額は大きくなるため、番号の大きいものほど、改定幅を小さくすることによって2005年までに1.に収斂さえようとしたのが、オブリ法の考え方である。このため、前社会党政権下では、スライド式の自動改定幅に上乗せをしてSMICを改定してきたものと考えられる。今回の一本化の考え方もオブリ法の考え方と大差はないように思われる。

(注6)
  年間の超過勤務上限を超える超過勤務は、企業委員会の意見を聞いたのちに労働監督官の許可を得るか、部門別の拡張協約による年間超過勤務上限の変更により可能となる。

(注7)
  2003年  SMICの1.5倍までの労働者の社会保障費を20.8%減免
  2004年   SMICの1.6倍までの労働者の社会保障費を23.4%減免
  2005年  SMICの1.7倍までの労働者の社会保障費を26.0%減免>
  これらの減免措置は、オブリ法等で時短導入企業に与えられた社会保障費減免策のあとを引き継ぐものともいえる。


(参考)社会問題・労働・連帯省発表資料、Liaisons Social等

(林雅彦・JETROパリセンター/JIL欧州事務所長)

 
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