人事労務管理事例
 
自律型人材育成支援制度 (株)エスアールエル
 
1.ポイント

  • 株式会社エスアールエルは、1999年1月より、一般社員を対象に、社員自身が望むビジネススキルの修得に対して、会社が費用等の一部を支援する新しい教育機能を持った「自律型人材育成支援制度」を導入した。

  • 新制度は、同社の期待する「自律型人材」に対し、自律的に自分に必要な研修等を探して申請することで、研修の受講料金など研修にかかった費用の半額を会社が手当として支給するものである。会社の負担額は年間5万円を上限とし、いくつでも研修を受けることができる。そのほか、本人が自律的に自己の強み・弱みを把握し、適切な研修等を探し出せるように、会社は自己分析支援や情報提供支援など、さまざまな支援を行う。

  • 今年度に入り、同社のイントラネットなどを通じて同制度を改めて社員に紹介したところ、未利用者からの問合せが増えつつある。


2.制度導入の背景

  エスアールエルはこれまで順調に業績を伸ばしてきたが、現在では経営環境が一変し、しかもその変化は速度を増している。この厳しい環境を乗り越えるためには、過去のやり方に縛られることなく、仕事に新しい価値を生み出し利益に繋げることが重要である。そのためには社員一人一人が、常に市場(会社)に自分の価値をセールスして行くことを考える感覚を養う必要がある。このような社員像を「自律型人材」と定義し、仕事における自分自身の価値を高めるための自己育成を、会社として支援する「自律型人材育成支援制度」を1999年1月から導入した。
  同社の教育研修体系には大きく見て、全社共通の教育と本部別(検査本部、営業本部)の教育の二つがある。全社共通の教育には入社時研修のような「義務教育」のほかに、全社員に機会が与えられている通信教育、ビデオライブラリー、外部講習参加等の自己啓発があるが、自律人材育成支援制度はこの1つに加えられる。(図表1参照)


3.制度概要

  エスアールエルの考える自律型人材とは以下のような人である。
  • 自己の欲望や他の命令に依存することなく、自分の客観的な視点から判断し律することができる人
  • 「なりたい自分になること」を会社の仕事を通して行おうと行動する人
  • 自分の価値を外部市場(一般社会)の価値基準で捉えようとする人
  • 会社という資源を活用し、自ら新たな仕事を創出しようとする人
  自律型人材育成支援制度は、社員が自律型人材として、仕事における自身の価値を高めるため、自ら申し出て社外の研修等を受ける場合に、会社としてさまざまな支援を行う制度である。適用対象者は1〜6等級の一般職社員としている。

  1. 支援内容
      同制度のしくみは以下の通りである。(制度の手続きの流れは、図表2参照)

    《自己分析支援》
      希望者に対し、自己選択の教育を考える前に自分の「弱み・強み」を把握し、より効果的な教育内容とするための支援ツールを提供する。適性検査はあくまで希望者に対するもので、研修等を受ける前提ではない。適性検査だけを受けることも認められている。費用は全額会社負担である。

    • 外部の適性検査を使用。結果は検査機関より本人に郵送・宅配等により直接フィードバックされ、会社は結果に関して一切関知しない。
    • 行動特性検査・時価給与評価テスト・教育サーベイランス等、数種の適性検査から本人の知りたい情報にあわせて一番適している検査を紹介する。

    《情報提供支援》
      外部講習・通信教育・その他の教育関連情報を電子メール等で提供して行く。

    《費用支援》
      主な支援策は、研修等の受講料金の半額を会社から支給するものである。

    • 1回の研修に関して半分の費用を会社が支援(上限5万円)
    • 年間合計5万円までであれば、何度でも利用可能
    • 研修日当、週休利用の研修などの手当等は支給しない。また休日の振替取得は認めない
    • 研修申しこみ前に、担当窓口である本社の人材開発チームに適用申請書を提出して、同制度の適用の審査を受けることが前提

      同制度の適用申請書が受理された後、社外研修等への申しこみを社員自らが行い、研修の料金を一旦全額自己負担する。研修修了後、適用申請書コピー(報告書の上書きになる)、自己負担した領収書、研修を修了した証明書、本人が書いた受講報告書をまとめて、担当窓口へ提出する。これにより経理処理を行い、それが済み次第、次の給与のときに、料金の半額を「その他手当」として支給する。1年間に最高5万円までの支援であるので、仮に20万円の研修なら支援金額は上限金額の5万円となる。仮に6万円の研修では半分の3万円となり、同一年度内に別に2万円の支援を受ける権利が残る。期日の算定は、毎年1月〜12月の1年間に対し、適用申請が承認された日を基準として実施する。例えば、11月に承認をうけ翌年3月末に研修が修了したとすると、金額支援は翌年4月以降になるが、1月から新たに5万円までの支援を申請する権利が発生している。

  2. 対象となる研修等
      支援対象となる研修等は、原則として、仕事に関わる知識・技術を習得する目的であるものとしている。しかし、明らかに趣味的である内容を除いて、業務に支障のない範囲で広く捉えることができる。個々のケースについては担当窓口(人材開発チーム)で検討する。
      ビジネススクールは、期間が1年以内・定時以降の開催のものを対象とする。通学時間(スクールまでの移動時間)についても、部署長と相談の上、業務に支障がない限りできるだけ支援することとしている。夜間大学・通信教育大学は、期間1年を超えるためこの制度の対象外とする。また、一般的な英会話やパソコン教室も、「自律型」という趣旨から見て対象外としている。
      業務上必要となる研修は、従来から営業本部または検査本部単位で、上司の承認により本人に対しては各本部からの業務命令として実施しているが、同制度の適用申請はこれとは異なり、全社一括して本社人材開発チームが取り扱う。
      同制度は、厚生労働省管轄の「教育訓練給付金制度」と合わせて利用できる。教育訓練給付金制度は一定の条件を満たす雇用保険の一般保険者(在籍者)または一般保険者であった者(離職者)が、被保険者個人が直接ハローワークに申請することにより、大臣指定の教育訓練を受講した場合の経費の80%(上限30万円)をハローワークから支給されるものである。厚労省の制度は、同社の自律型人材育成支援制度に比べ支給金額は大きいものの、手続が面倒であったり、一度利用すると5年間再利用できない、と言った制約があるので、それぞれの制度を目的を分けて利用することを薦めている。

  3. 利用実態
      最近の1年間の利用者は約50人であり、一般職社員の約4%に当たる(2000年度)。
      利用者は本部スタッフが多く、次いで検査部門の社員が中小企業診断士の講座やマネージメントセミナーなどの研修を受ける例がある。営業要員では最近の提案型営業に向けて話し方研修を受けた例もあるが、概して営業要員の利用は少ない。
      このような利用傾向の背景には、第一に、現在、同制度の適用対象となる社外研修には、経理、総務など本部業務関連のコンテンツが圧倒的に多いことが上げられる。コンテンツだけではなく、本部スタッフには勤務場所(研修開催場所が近い)の点でも同制度を利用しやすい。検査要員の利用は、それまで技術中心に研さんしてきた社員が、管理職に近づいてきた段階で、自発的に経営・管理に関する知識を獲得し管理職に備えようとする場合が多い。営業要員の利用が少ないことについては、同社では検査施設をセンターに集中させてきた反面、営業要員は全国展開していることから、地方に勤務する営業要員にとって近くで開催される研修が少ないことや営業に関する研修(コンテンツ)そのものが少ないことが原因に挙げられる。
      また、全体として、利用者にはリピーターが多く、自律的に制度を活用している社員とそうでない社員が分離してくる傾向が見られる。
      自らの意思で同制度を利用していく過程自体が「自律的行動」であり、そのような行動ができる者(自律的人材)が繰り返し利用するようになることが、リピーターが多い理由のひとつと考えられる。一方、これまで利用していない社員に対しては、今年度になってから、同社イントラネット上で教育関連情報の紹介ページをリニューアルし、同制度の紹介に力を入れたところ、社員からの問い合わせが増えてきている。改めて同制度を紹介し新たな動機付けを強化することで、新規の利用者が増える兆しがあり、利用者の裾野が広がり始めている。
      同制度は、研修受講後ただちに直接的な効果が現れることを期待していない。したがって、研修成果を測定することはしていないが、上長者からは同制度利用者の仕事に対する姿勢が良くなったという好意的な意見が多く、単に知識獲得だけではない大きな意味での効果があると考えている。


4.課題

  同制度適用対象の研修(コンテンツ)がもっと増えれば利用者も広がると考えられる。研修企業には提供するコンテンツの種類を増やしてほしい。同社としては新しい研修等を常にチェックして、同社に適したものは前述のイントラネットなどで積極的に紹介している。コンテンツの充実がもっとも大きな課題である。
  検査業務に関しては、同社の技術水準は高くむしろコンテンツを提供する側とも言える。ビデオ教材を自社開発することを検討したことがあるが、同社の求める水準のものを作るには開発経費がかかり過ぎることがわかり実行にはいたらなかった。コンテンツの自社開発については、今後も製作技術の普及あるいは開発経費の低廉化などの状況を見守っていく。
  同社の教育体系の中で、自律型人材育成支援制度の位置付けを改めて明確にすることにより、他の制度とともに同制度を利用する意識付けを行う。とくに、イントラネット等で社員へ最新の情報を提供することが、社員の興味を得るうえで有効と考えている。


5.今後の展開

  前項の課題で述べたように、コンテンツを増やすことに留意しながら、利用者の拡大を図る。また、イントラネットなど通信技術を活用して、全国に配置された社員への広報、社員との連絡を強化し、自律的な自己育成の充実を図って行く。


※ PDFファイルはAcrobat Reader(無料)でご覧下さい → acrobat
 
next  index  home