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1.制度のポイント
- 「ミゼット工房」は、新たな商品の生産開始にあたって、最小限の投資で対応することと、「ダイハツスキルアップ制度」を推進する過程で教育的な意味を持たせるという2つの目的のために活用されるようになった。
- 「ダイハツスキルアップ制度」の研修の修了者を選抜、組立ラインの入口から出口までを体験し、全体の流れを理解することを第一目標に約1週間でより広範囲の仕事を経験させる。
- 工房での研修においては、専任トレーナーと工房の熟練工が、作業上のチェックシートや研修者との間での面談等を通じ、評価判定する仕組みである。また、工房卒業生の評価については、職能や職位に連動していない。
- 結果として、品質保証に対する迅速な判断と対応が可能になったこと、安全性、衛生面に対する意識高揚、「車」づくりに関する創造性の向上がみられるなどの効果が得られている。
2.制度導入のねらい
- ダイハツスキルアップ制度
- 制度の目的、ねらい
同社では、魅力ある技能系職場づくりをめざすため、特に、工場等で勤務する社員の技能向上をはかるとともに、全社的な人材育成をねらいとする「ダイハツスキルアップ制度」を1994年より導入している。
本制度の基本的な考えは以下のとおりである。
- 直接部門に従事する者が、業務に密着した技術・技能・知識を修得し、自己成長することを目で見える形で認められることによって、自己実現の喜び、生き甲斐、やりがいを実感できるようにする。
- 全員の技能向上チャレンジよって、その職場で操業変動に対応でき、またコストダウン、品質向上に向け限りない可能性を持った強い職場づくりをはかる。
- 制度導入の背景
本制度は、「モノ作り」を行うための「活力ある職場づくり」を目的に、その中で「組織として生産性の向上をはかるためのリーダーシップ発揮」「小集団活動の進め方等の研修実施」を教育の基本的な考え方としている。
本制度導入の背景には、同社ではこれまで直接・間接部門を問わず、教育体系はできていたが、これらの研修内容は仕事の進め方が主体となっていた。
特に間接部門(特に保全部門)向けの研修は、整備が進んでおり、直接部門の研修の整備が課題になっていた。直接部門の整備課題としてはでは、技能社員の大多数(約70%)である若年層への技能向上教育の機会が少ないことから、これら技能社員の意欲・やり甲斐感の意欲が高揚しづらいことが職場・仕事への魅力低下につながる恐れがあると考えられていた。
そのため、直接部門に対する研修として、スキルアップ教育とスキル評価制度を導入することにより、到達目標を設定し、技能向上に対するチャレンジの機会を制度として与えることとした。
3.スキルアップ制度の概要
- 概要
本制度は以下の内容になっている。
- 仕事に密着した技術・技能の修得およびその結果を認定する制度である。
- 職種毎に1級、2級、3級の3段階で「技能修得基準」を設け、経験年数に応じた期待、技能を本人に提示し、その目標に向けて努力していくチャレンジシステムである。
- 技能修得ならびに認定は「実践技能(実務)」と「専門知識」「基本技能」の3本立てとし、実践技能に重点をおいて実施する制度である。
- 育成と技能認定の方法
育成と技能認定の方法としては、実践技能の習得として、OJTと計画的な職場内ローテーションにより、「仕事の熟練度」「信頼性」といった内容を評価する。その評価方法は、評価担当員による作業の観察が主体となる。
また、専門知識や基本技能の習得としては、職場集合教育(ひとりあたり40時間)により、実務知識・関連知識の習得、職種の個有技能の習得といった内容を評価する。その評価方法は、学科テストや実技が主体となる。
- 制度の対象および導入工程
本制度の対象は、入社2年目以降の社員とし、その中で職能ランクにそったキャリアアップを行うことを目標とした制度になっている。
具体的には、入社2年目(〜4年目)の社員に対しては、職能ランクJ2(J3昇格前)の資格が取れる3級コース、入社5年目(〜9年目)の社員では職能ランクJ3(J4昇格前)の資格が取れる2級コース、入社10年目以降の社員では、職能ランクJ5、J6に値する資格が取れる1級コースが設けられている。
本制度は、直接部門で同社工場における作業工程をベースに設定されており、導入実績としては、1994年に「ボデー組立」、95年に「プレス塗装」の工程において、本制度を導入した。その後、実施状況を見て順次、「機械検査」「鋳造」などの作業工程において導入をはかっている。図表1に、3級コースの研修スケジュールの例を示す。
- 運用および推進体制
実施運営は各工場(部門)が中心となっており、その内容は、技能修得ならびに評価、認定等の計画の立案および計画の実施である。
また、それぞれの各級(コース)において技能修得後に評価を行い、技能認定証を発行している。図表2に、制度の推進体制を示す。
4.ミゼット工房の設置
- ミゼット工房の設置に至る経緯
同社の製品で、人気製品のひとつである「ミゼットII」については、1995年の東京モーターショーへ出展して以来、大きな反響があり、その声に応える形で本格生産に入っており、製造手法として、通常の自動車生産には不可欠なコンベアラインやロボット、自動化設備に頼らない「手づくり」による生産を進めており、作業員が自らの知識と手を使い、1人あたりの工程が通常よりも多い「手作りによるモノづくり」の原点に立ち返った活動を展開している。
この「ミゼットII」を製造しているのが、ミゼット工房である。
ミゼット工房は、ボデー工程と組立工程の2ラインがあり、「手作り」のため、手作業でしかできないような工夫を凝らした車づくりを行うという特徴があるが、一方では作業者ひとりあたりの作業工程は、自動化されたラインの10倍以上になっている。
「ミゼット工房」は96年3月に設置されたが、当初、製造ラインは教育のために用意されたわけではなく、「ミゼットII」が、軽商用車であると同時に、ニッチを狙った特殊なポジションを与えられて登場したことから、一般の軽自動車よりもサイズが小さく、一人乗りの貨物車(後に二人乗り仕様も発売)という独特のパッケージングであるため、大量販売が難しいことから、少量生産が前提になっている。従って、投資額が大きくなる通常の製造ラインを新設できず、いわゆるコンベアのない手作り方式のラインが導入されることになった。
そのような理由で、ミゼット工房は社内的に「技能伝承の実践道場」と位置付けられており、高度熟練者と若手作業者とが協働し、その中で技能伝承が図れることから、ミゼット工房で働く社員のスキルアップに大きな成果をあげてきた。
- ミゼット工房の目的
1994年以降、「ダイハツスキルアップ制度」を推進する過程で、教育的な意味を持たせるために、「ミゼット工房」が活用されるようになった。つまり、新たな商品の生産開始にあたって、最小限の投資で対応する中で副産物的に誕生したのが「教育の場としてのミゼット工房」といえる。
従って、「ミゼット工房」の目的は、最小投資で製造を行うこと、また「ダイハツスキルアップ制度」の中でよりスキルアップを目指す人材教育の場という、生産と教育という2つの目的を有している。
- ミゼット工房における教育内容
- ミゼット工房の対象、主な内容
ミゼット工房で教育を受ける対象は、先述した「ダイハツスキルアップ制度」の中で、2級コースを終了したものが受講できるとしている。
正式に「ダイハツスキルアップ制度」と連携をはじめた1998年度は、off−JTの研修を終えた3名を選抜し、組立ラインの入口から出口までを体験し、全体の流れを理解することを第一目標に約1週間でより広範囲の仕事をミゼット工房で経験させた。
99年度は、職区間の枠を拡大し、1人の受講者がボデー工程、塗装工程、組立工程の3ラインを体験するという方式に変更し、さらに、将来的に幹部候補とみられる組立職1名を選抜、約1ヵ月間にわたり車づくり工程の多くのプロセスを体験させるカリキュラムを実施した。
具体的なスケジュールは、最初のオリエンテーションに2日間、ボデー、塗装、組立工程などの習熟については各々の工程につき各4日間、専門性が必要とされる組立工程にはさらに5日追加し、最終日にまとめの発表を行うというカリキュラム内容であった。
- 教育レベルの設定
ミゼット工房では、指導を受ける社員の熟練度を、レベルI〜IIIの3段階としている。
レベルの考え方は以下のとおりである。
レベルIでは、「工程をトータルに理解して、クルマ作り全体に精通すること」を目的とし、溶接および組立工程での全工区完結を目指す教育としており、現時点ではレベルIへの到達が、ミゼット工房での到達目標となっている。
いわゆるレベルII〜IIIでは、「工場全体の監督管理、海外生産の支援などを担うことができる」が最終的な到達目標となっているが、現段階では、レベルIIIに至る教育は実施していないことから、レベルIをクリアした段階で卒業としている。
5.評価手法および実績
- 基本的な評価の考え方
ミゼット工房では、専任トレーナーとミゼット工房の熟練工が、作業におけるチェックシートや研修を受ける本人との間で面談等を通じ、評価判定する仕組みとなっている。ミゼット工房の卒業生は、卒業後、本来所属している部署に戻るものの、この評価が職能や職位に連動しているわけではない。
- 評価
- 実績
ミゼット工房の実績については、組立の場合をみてみると、最終検査で発見される不具合は130台中で7〜8台となっている。
生産台数が、大きく異なるため同様の比較はできないが、同社の量産ラインとの比較において、通常の量産ラインが100台中で不具合の発見数が10台程度であることに比べ、不具合の率が低く、好成績であると判断している。
- 効果
- 品質保証に対する迅速な判断と対応が可能になる
ソフト面での効果をみると、ミゼット工房で研修を受ける従業員にとって、手作りで車をつくるという「仕事に対する満足度」が高揚しており、特に、品質を保証するという取り組みについては、自動化ラインにはない考え方により、異常発生に対する早急な対処が可能なることや、自らが製作した製品に対しての品質判断が迅速になることからその先の行動につなぎやすいという効果が現れている。
- 安全性、衛生面に対する意識高揚
専門技能を磨く効果は当然のことながら、生産工程や製作に使用する道具についての理解が増すことにより、安全性や衛生面に対しての意識を高める効果が生じている。 自動化ラインでは、機械への依存度が高すぎ、自己の判断ができないケースも生じてくる。使用する機械に対しても使用頻度が少ない場合、使用方法など充分に理解できていないケースもある。しかし、この工房での研修を通じて全ての工程を把握することにより、危険予知や危険防止策も判断しやすくなるとしている。
- 創造性の向上
生産工程全体を十分に理解することにより、車づくりの作業に関する様々なアイディアを生む力もついている。具体的には、ミゼット工房を開設して以降、3年間で従業員の提案による改善案はかなりの数に上っており、これまでの自動化ラインを中心としていた生産に比べ極めて積極的な傾向を示している。
実際には、ミゼット工房における生産台数は、自動化ラインに比べ圧倒的少ないため、これらの改善成果については、数値的にあらわすことができず、同社の生産活動全体において高く評価されてはいないが、この工房を通じての改善提案などによるアイディアの活用度は、将来的には同社の車づくりに対し大きな役割を果たすものと考えている。
6.今後の課題
- 社内キャリアアップとの連動
現在のミゼット工房の位置付けは、「最小投資で製造を行う」という生産ラインとしての位置付けと「ダイハツスキルアップ制度」の中でよりスキルアップを目指す人材教育の場という「教育の場」としての位置付けがメインであるが、今後は何らかのかたちで、ミゼット工房の卒業という結果を後の社内のキャリアにリンクさせていくことを検討している。
- 生産活動と教育との折り合い
ミゼット工房では、量産ラインでは経験することができない「本来のモノ(車)づくり」を実体験しながら、車を作る様々な経験に加え、作り上げた製品に対する愛着ならびに「車づくり」という仕事に対するプライドが生まれ、いずれはこれらの経験が個々人の職人としての成長へ大きな役割を果たすものと考えられる。
しかし、ミゼット工房が他社も含め類例のない全工程を習得できる自動車生産ラインとして存在し、とりわけ社員の技能伝承の場として、その存在感が大きいだけに、技能伝承という名目に対して企業側が投資を行うことに対する「折り合い」を明確にすることが今後の課題のひとつとされており、日々の生産活動と技能伝承などの人材教育という2つのの考え方についていかに折り合いをつけていくかについて検討していくとしている。
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