人事労務管理事例
 
給与インセンティブの強化に向けて、部長以上に職務管理導入。係長・課長レベルの年齢給廃止 (株)高島屋
 
1.ポイント

  高島屋が導入した新人事制度は、現行制度である多段階の資格等級を持つ「職群別職能資格等級制度(※)」を19段階から12段階に圧縮し、資格等級内の給与幅を大きく設定することにより、給与のインセンティブを高めている。
  また経営層には、職務の役割、責任とその成果の達成度で人事管理を行う職務管理を導入するなど、従来の人事制度を抜本的に改革した制度である。
  以下に3つの大きな特徴を述べる。

  1. 職能資格等級の等級数を19等級から12等級へ大幅に削減
      現行の人事制度は、職群別職能資格等級制度であり、個人の意思や特性にあった複線型の多段階の資格等級を持つ制度で、資格進級により、ロイヤリティやインセンティブを維持しながら運営してきた。これを資格等級数を大幅に削減することにより段階差を大きくし、進級管理を厳正に行うとともに、より評価に重点をおいた運営ができるようにした。
      また、若手の登用を図りやすくした。

  2. 経営層に職務管理を導入
      経営層に職務管理を導入し、成果と処遇のミスマッチを解消した。
      経営層における成果管理が明確になることで、組織の活性化が図れるとともに、職務配置が厳正となり、組織の肥大化を防止できる。

  3. 専門初級・中級の年齢給の廃止
      資格等級の圧縮に加えて、専門初級(係長相当)・中級(課長相当)の年齢給を廃止し職務能力給に組み込んだことにより、評価のウエイトが大きくなり、より能力・成果が給与に強く反映され、給与インセンティブが高まり、給与のコントロールがしやすい制度とした。給与制度上、資格等級の削減、年齢給の廃止、職務能力給の拡大により、定期昇給の配分も変わった。
  
※ 職群別職能資格等級制度
  同社の人事運営の柱として人事管理制度に導入している制度で、専門階層(係長相当以上)から特性により職務をグルーピングし、職群ごとに職能資格等級を設定している。人事運営は職群で区分された複線型の人事管理制度として運営し、評価、進級(昇進・昇格)、給与、賞与の決定をこの区分に基づいて職群の範囲で行っている。(文中に戻る)


2.制度導入の背景

  1. 人事政策の基本となる理念
      同社の経営理念である「いつも、人から」と、これに基づく人事理念である「個人の自主性の尊重」をコンセプトに、企業活動を担う人材の育成および個人・組織の活性化への対応を図ること、また仕事に「働きがい」や「生きがい」を求め、キャリア形成により就労意識の変化への対応を図ること、という2つの視点が人事政策の基本になっている。
      新人事制度では、これまでの個々人の個性と意欲とを尊重したキャリア形成と能力・成果が評価される仕組みの強化を中心に見直しを図り、個々人が専門能力を有したプロフェッショナルとして自立できるとともに、目標の明確化と納得性の高い評価による組織と人材の活性化を行う制度への改正を目的としたものである。

  2. 制度改正の背景
      新人事制度の導入の背景には、21世紀の事業展開を図る上で、現状の課題となっている社会環境の変化および同社の労務構成の大きな変化に対応する必要性が高まったことがある。
    1. 社会環境の変化
      長引く不況により収益の伸びが期待できない状況下にあって、従来の成長を前提とした経営に基づく人事制度から、収益環境に合った経営に基づく人事制度に転換することが求められてきた。
    2. 労務構成の変化
      同社の労務構成は、いわゆる「団塊の世代」といわれる50歳代世代を多く抱える労務構成となっており、従来の人事制度はこの団塊の世代の処遇面から、多段階の資格等級が設定されていた。今後、現行制度により高齢・高資格化が進めば、世代交代期に入ると同時に定年退職者が増加し、現在、団塊の世代が担っている仕事を円滑に引き継げない状況が生じることになる。
    3. 人事運営課題
      このような状況から、今後の事業展開を行うためには、同社の人事運営課題は、男性の高齢化と女性の加齢化への対応ならびに長期的な視点での女性・若年層への職務の引継と人材の育成を継続的に行うことで、21世紀に向けての企業活力を維持することであると判断した。


3.制度概要

  1. 新人事制度のコンセプト
    新人制度のコンセプトは、前述した経営理念に基づき、社員全員が仕事に誇りと働きがいを持ち、生き生きとした風土が強化されることを目標に「HUMANITY&CAREER(ヒューマニティ・アンド・キャリア)」を基本コンセプトとしている。(図表1参照)

  2. 具体的な改正内容
    1. 賃金体系と給与制度
      • 基本給の考え方
          同社の賃金体系の旧制度は、上級専門、中級専門以下、経営層の3つの分類がなされており、上級専門では、基本給として、職能資格給(職群別、等級別の定額給与)、職務遂行給(職群別、職能段階別の評定別テーブル給)の組み合わせで構成されていた。また、中級専門以下では、基本給は職能資格給、職務能力給および年齢給(年齢別の定額給与)の組み合わせとなっており、経営層では職務遂行給だけであった。
          新制度における基本給は、上級専門、初級・中級専門、一般・マスター階層、経営層の4段階とし、上級専門では職能資格給と職務遂行給とで構成され、初級・中級専門では職能資格給、職務能力給とで構成、一般・マスター階層では職能資格給と職務能力給および年齢給、経営層では職務給(職務グレードの定額給与)と職務成果給(職務グレード別の評定別テーブル給)とで構成されている。
          基本給の配分については、個々人の職能資格等級に対応する職能資格給、各担当業務での職務遂行能力の伸長度合を反映する職務能力給、各年代の生計費を反映する年齢給の3要素を基本的な考え方とし、給与バランスの適正化を図っている。

      • 制度改定の特徴
          この制度改定の特徴としては、中級専門までは、職務遂行力評価、すなわち人事考課によって給与のランクアップ(ダウン)数を決定し、定額昇給を前提に、評価結果を能力の伸長度として給与に反映する仕組みにしている。これは、中級専門までを人材の育成過程とし、能力の伸長を促進すると捉えているからである。
          さらに、上級専門においては、職務資格給(職能資格等級に対応)と職務遂行給(評価を反映)とで構成されており、職務遂行給は、評価を直接的に反映するシングルレートの評価洗い替え方式で、毎年の評価結果により実額が決定されるため、定期昇給という考え方ではない。
          給与制度においては、職群別の特性を持たせており、例えば、セールス群職ではスタッフ群職やマネジメント群職よりも、職務能力給のピッチとウエイトとを高く設定しており、より強く業績・成果の評価を給与に反映させる仕組みにしている。

         図表2は、制度改正の内容を図化したものであるが、図で表現できないポイントを以下に整理しておく。

        ○ 年齢は最短モデルを示している。
        ○ 職務の職群区分は、3区分運営している。
          ・S職群(セールス職群:販売担当職、営業担当職)
          ・T職群(スタッフ職群:スタッフ担当職、バイヤー職、サービス担当職等)
          ・M職群(マネジメント職群:マネージャ職)
          なお、E職群(エキスパート職群)は廃止し,T職群へ再編・移行した。
        ○ 改正のポイント
          ・経営層
           G3級とG4級を統合し経営2とした。
           理事制度を廃止した。
           経営層は、職務管理に移行し、対象の全職務の職務グレードの設定を
          行い、グレード別の職務数に対応したポスト運営とした。
          ・専門階層
            資格等級数を削減し、職能段階ごとに2段階とした。
            初級・中級専門の各等級の最短経験年数を2年から3年とした。
          ・マスター階層/一般階層
            リーダー階層L1、L2等級を統合し、マスター階層のA1等級とした。
            リーダー階層L3、L4等級を各々マスター階層のA2、A3等級とした。
            一般3等級の最短経験年数を1年短縮した。

    2. 職能資格給
      • 定額給与でのベースアップ
          職能資格給は、基本的に職群別・資格等級別の定額給与の部分でベースアップを行っており、進級によって資格等級別差額分が昇給する仕組みになっており、給与制度の定期昇給配分設計は、進級昇給までを含めた昇給を定期昇給として捉えている。

      • 定期昇給配分の変更
          新制度では、進級インセンティブから給与インセンティブへとシフトした結果、定期昇給配分も大きく変化が生じた。
          基本的なモデルケースをみると、従来は進級昇給が全体の50%、能力昇給が35%、年齢昇給が15%という配分であったのが、新制度では進級昇給が30%、能力昇給が60%、年齢昇給が10%となっており、また、定期昇給率も労務構成の循環の範囲内で推移する設計になっているため、総額人件費と企業収益とのバランスが図れるようになっている。

    3. 職務能力給
        新制度では、現場における評価と昇給との関係を明確にするために、職務能力給の決定方法を極力簡略化することで、能力向上と成果に対する適正な昇給配分を決定し、中級専門までの層に対する育成型人事運営を促進することを目的とした。
        また、給与水準は、能力や業績・貢献度を反映できるよう幅広く設計するなど、給与インセンティブに重きを置いた人事運営を行っている。
        新制度による職務能力給の基本設計は、以下の3点となっている。

      • 職群別・職能段階別のテーブル給
          職能資格等級制度における職能段階別の範囲給与としており、一般職については一般階層とマスター階層の2区分としている。
          また、専門階層については各職群の職務特性を給与に反映するため、個人の業績・貢献度の格差が大きいS職群については、その他の職群とは別区分とし、各職群および職能段階(初級・中級)によって4区分で構成している。

      • 重複型の職務能力給
          各職能段階の職務能力給テーブルは、重複型給与として金額設定し、能力・貢献度によっては上位の職能段階を上回る給与が得られるよう能力重視の給与配分としているため、下位の資格等級に在級していても給与配分上は上位と同水準になる場合がある。
          重複型給与による金額設定は、能力の伸長度と給与の相関を長く持つという点において、乖離型給与よりも給与インセンティブが高い職務能力給表といえ、進級した場合の現行の賃金秩序をさほど崩すことなく運用できるほか、どのランクからの進級も昇給額をほぼ同額にすることが可能になるというメリットがある。

      • 可変ピッチ型の職務能力給表
          初級・中級の専門階層については、年齢給を廃止し職務能力給に組み込むことにより、給与水準幅を拡大したテーブルとなり業績・貢献度をより反映した給与体系とした。
          さらに資格等級と年齢による賃金モデルカーブに基づいた可変ピッチ型(凸型)の職務能力給表を導入した。この特徴は、同一考課であっても、同一職能(等級)内の給与ランクが高いほど、あるいは在級年数が長いほど、昇給額が逓減することになり、給与水準と評価レベルを近づけることが可能となることにある。
          すなわち、能力伸長度は、初期は大きく設計し、その後、徐々に逓減するなど、合理的な比例設計が可能となることがメリットである。

          図表3は、初級専門の職務能力給表であるが、70ランクある職務能力給表をAからCの3つのゾーンに区分し、各ゾーンのランク格差(ピッチ)を変えている。
         この可変ピッチ型の職務能力給表の基本的な設計は、標準評定マークとランク昇数とを設定した上で、最短在級年数(10%モデル)に見合う範囲をCゾーン、標準在級年数(50%モデル)に見合う範囲をBゾーンとしている。モデルから見た場合、Cゾーンが20歳後半から30歳前半、Bゾーンが30歳代から40歳前半の労務構成と相関させている。


4.課題および今後の展開

  今回の人事制度の大幅な改定は、同社の総合的な人事制度政策の一環として、取り組まれたものであり、この目的には、21世紀の事業展開、企業活動に向けた同社の人材育成戦略、人材、組織の活性化戦略として位置付けられている。
  新・人事制度導入以降も、人事制度の基本的な考え方としてHUMANITY&CAREERをコンセプトに、以下のような各種の制度導入を進めている。

  • 社員の意思や将来のキャリアコースを支援する仕組みの強化→キャリア10 等 アセスメント制度の充実
  • 定年後を視野に入れた中高齢者支援制度の導入→ゴールデンエイジプラン(平成13年3月よりスタート)
  • 個人のモチベーションの付与と組織の活性化をめざした新たな人事運営→特別チャレンジ受験制度、FA制度、オープンエントリー制度、業績連動型の賞与支給決定方法の見直し、等

 同社では、今回の人事制度の改定から、上記のような各種の人事施策が融合化し、本来の目的である21世紀の事業展開、企業活動に向けた同社の人材育成戦略、人材、組織の活性化戦略が円滑に遂行されることを最大の課題としている。


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