人事労務管理事例
 
公募による人事異動制度 (株)ミスミ
 
1.ポイント

  •   株式会社ミスミでは、部課や部門にとらわれないタスクベースでチーム編成する組織制度を導入した。役員が事業計画を経営会議に提案し、承認されれば提案者自身が事業担当のユニットリーダーとなり事業を総括する。事業の実行組織であるチームの、チームリーダーとチームメンバーは公募によって選ばれる。チームリーダーには「企業内企業家」として事業全般の実務能力と経営管理能力が要求される。

  •   公募対象には正社員だけではなく契約社員や社外の個人(業務委託先)まで含まれる。「企業家型人材は育てるのではなく、自ら育つものだ」と言う共通認識があり「自由と自己責任」を基本理念としているからである。

  •   チームを事業年度ごとに解散・新編成することにより、組織の固定化を防ぐ仕組みとなっている。


2.制度導入の背景

  株式会社ミスミは自らを「購買代理商社」と位置付け、販売代理店がメーカの製品を販売するのとは逆に、ユーザーのニーズに応じて商品・サービスを開発、調達する流通事業を展開してきた。刻々変化するユーザーのニーズに柔軟に対応し購買代理商社としての役割を果たしていくためには、事業に必要な部門組織や機能を自らが持ち抱えるのではなく、オープンコンペティション環境でのビジネスパートナーとの協力による「持たざる経営」が重要である、という企業コンセプトを掲げている。
  経営トップが自社の企業コンセプトないし経営ポリシーに深い確信を抱いており、トップダウンで強力な組織改革を実施している。社内組織運営については、従来型の部門制が自社都合優先・保守化に陥りがちであるのでこれを避けて、公募によるチーム組織制度を導入した。
  また、ミスミにはもともと新しい成果をあげることを評価する社風がある。1988年に人事制度改革を行いそれ以降も引き続き試行錯誤を繰り返す過程で、社員のなかにも思いきった改革を受け入れる素地が出来ていた。その結果、1994年に従来からの部課制を廃止して、社内外にこだわらない公募による「チーム制」を導入した。


3.制度概要

  1. チーム制
      ミスミのチーム制は、事業ごとにチームを編成する1事業1チーム制をとっている。チームに関連するポジションには「ユニットリーダー」、「チームリーダー」および「チームメンバー」の3つがある(図表1)。ユニットリーダーは事業全体の統括者、チームリーダーは実行組織であるチームの主管者、チームメンバーは実務担当者である。

      事業と実行チームは毎年、新規に検討・構成する(図表2)。
      チームを編成する手続は、まず、幹部社員が次年度の事業企画を、取締役や監査役が参加する経営戦略会議に提案し、事業のビジョン、フレームワーク等をプレゼンテーションする。複数の事業企画が類似あるいは重複した場合などは当然、提案者同士のコンペティションになる。この会議で提案が通れば、提案者自らが事業担当の「ユニットリーダー」となる。1人の役員は一般的には複数の事業のユニットリーダーになる。事業提案を行う幹部社員の役職は取締役であることが多いが、提案者を取締役等の役員に限定しているわけではない。役員でない社員の中からも、経営戦略会議への事業提案を行って承認されユニットリーダーとなった者がでている。
      次いで、ユニットリーダーは承認された事業計画を社内で公表(プレゼンテーション)し、チームリーダーを公募する。これに応募するチームリーダー候補者は、公表された事業計画をもとに独自の実行計画を作成し、ユニットリーダーおよび社員の前でプレゼンテーションし、ユニットリーダーが「チームリーダー」を選出する。
      最後に、選出されたチームリーダーがチームメンバーの公募にとりかかる。社員は、事業計画のプレゼンテーションおよび実行計画のプレゼンテーションの情報をもとに自分の希望によって応募する。チームリーダーが応募者の中から「チームメンバー」を選出して、チーム組織が最終的に編成される。
      すべてのチームは1年限り(毎年、4月から翌年3月)である。事業が継続する場合でも年度末にはチームは解散し、新年度は新チームを編成する。事業年度ごとに公募による新チームの編成を繰り返すのは、業績評価を明確にし、また組織の固定化を避けるためである。
      チームリーダー、チームメンバーの公募は応募者を社内に限定していないので、社外の人間でも応募できる。実際に社外からチームリーダーに立候補し、前年度のチームリーダーとプレゼンテーションを競い合い、結果として新たにチームリーダーとなって入社した者がいる。
      なお、上記のようにチーム制の要員は社員に限定されていないが、本稿の説明では便宜的に「社員」を使用している。

      現在、6人のユニットリーダーのもとに、26チームが活動している。その中には新規事業もある。
      新規参入分野では3年程度で単年度黒字達成を目標としているが、実際にはもう少し、5年ほどかかることが多い。チーム制の金銭処遇は年俸制とチームの業績に応じた利益配分制がある。赤字の場合には利益配分ゼロとなるので、年度成績を挙げることが簡単ではない新規事業チームのメンバーには厳しい面がある。その分、単年度黒字を達成した場合のボーナスを定めてあり、このようなメンバーのインセンティブとなっている。それだけではなく、新事業立上げに主体的に参画できることは自己のキャリアを積むよいチャンスであるので、新規事業のチームの希望者は多い。
      「企業家型人材は育てるのではなく、自ら育つものだ」と言う共通認識があり、会社から社内教育研修などは一切あてがわない(自己申告により、チームに必要な社外研修等へ参加することはある)。「自由と自己責任」を基本理念として、会社は目的意識を持った、自ら育つ気のある人に活躍する場を提供するので、それを自ら活用していくという考え方である。このため面接・筆記などの方法による一般的な新卒採用は行わず、ミスミに興味を持つ大学生には夏休みにチームに参加してもらうサマージョブ制をとっている。サマージョブでの実務体験に基づいてミスミの仕事の進め方に納得できた人を採用している。これは同時に、チームタスクに必要な人材を集めるのに社内・社外を区別しないということでもある。個人の労働市場における実力を評価し「マーケットバリュー(市場相場価値)」の概念に基づいた年俸制を適用しているため、入社希望者には即戦力を備えている中途採用者が多い。中途採用10に対し新卒採用はほぼ2、といった採用実績である。

  2. チームリーダー
      ユニットリーダーが社員に向けてプレゼンテーションした事業計画に対し、誰でもチームリーダーに立候補できる。複数の者が立候補することも当然あり、多くの社員に興味を持たれる事業ほど競合度が高くなる。チームリーダー候補者は事業計画を具体化する行動計画(収支予想、要員体制等も含む)を作成し、ユニットリーダーおよび社員に対しプレゼンテーションする。チームリーダーには「企業内企業家」として、事業内容に精通しユーザーニーズに的確に対応する実務能力だけではなく、B/S、P/Lが読めて事業の経営管理ができることなど、企業トップと同様に高い経営能力が必要である。ミスミではチームの独立性を高める制度改革を続行しており、今後はチームメンバーの年俸額の決定まで、チームリーダーが独自に行うこととなる。
      立候補者のプレゼンテーションに対して、ユニットリーダーはプレゼンテーション内容(行動計画)および候補者のリーダーシップなどを総合的に評価してチームリーダーを決定する。

  3. チームメンバー
      選任されたチームリーダーは全チームメンバーを公募する。この時までにユニットリーダーが事業計画を、チームリーダー(候補者)が実行計画をそれぞれプレゼンテーションしている。社員は予定表(プレゼンテーションの日時場所、事業名・チーム名、候補者名)を見て、自分が興味をもったプレゼンテーションに出席し、次年度どのチームで働きたいかを考えておく。プレゼンテーションの席上では資料が配られるが、事前・事後に資料だけを提供することはせず、社員が実際にプレゼンテーションへ参加して判断することを求めている。

      応募に当たっては、社員は自分がメンバーとして働きたいチームを第3希望まで選んだ応募シート(図表3)を提出する。応募シートには、共通項目として「現在の年俸・時給」「スタイル」「自己PR」を記入する。このうち、スタイルには正社員(A)、契約社員(B)、時給勤務者(C)および業務委託先の個人(D)の4区分がある。言いかえれば「正社員」だけではなく社外の個人も同じ応募シートを提示できる。時給勤務者であってもチームメンバーとして働きたい者は全員、年1回の応募を行うということである。
      このほか、第1〜第3希望までの各チーム向けの個別項目として、それぞれに「応募理由」と「希望する年俸・時給」(チーム=事業によって自分のしたいことが異なりそれに応じて希望額も異なる)を記入する。
      各チームリーダーは自分のチームへの応募者を審査する。昨年の改訂によりチームリーダー独自の判断で、メンバーの年俸を決定することができるようになった。
      チーム編成は年度末に一斉に行われるので、応募チャンスは1回きりである。第3希望まで応募できるものの、どのチームリーダーからも認められなければその社員には1年間担当すべき仕事がないこととなり、事実上退職せざるを得ない。そのような者が出る年もあり出ない年もあるが、ごく少数ではあるが実例は起こっている。個人の労働市場における実力評価という観点からは致し方ないことではあるが、会社としては外部の職業紹介企業の斡旋を受ける転職支援制度を設けて転職をバックアップしている。
      これとは別に、社員の意思で自主退職しミスミでの経験を生かして事業を起こす者もおり、その場合でもビジネスパートナーとしてミスミと協力関係を強めていく例もある。


4.制度導入の過程

  1. チーム制の導入
      1988年の人事制度改革のあとも、企業理念を実現するための方策としてイントラプレナー(企業内企業家)を育てるにはどうしたらいいかを検討してきた。
      1992年から21世紀を見据えた組織改革を行うための検討に入り、大手コンサルタントの協力を求め成功事例数十社の調査を行った結果、社員の意識改革を本当に達成するにはサラリーマン型の組織を否定し企業家型企業へと脱皮することが必要、と経営トップが確信した。
      これを実現するために、経営トップの強いリーダーシップによって1994年7月に公募によるチーム制を導入した。

  2. 関連制度の導入・改訂
      1994年7月にチーム制を導入したのに続いて、1995年には年俸制を導入した。次いで1996年には退職金制度を見なおした。わが国の税制では、退職金に対し年功制度を前提とした優遇処置があり(退職時に一括して支払われる退職金には大きな課税の控除がある)、ミスミのような単年度の成果に報いる人事処遇制度にはうまく合わない面がある。さらに1997年には利益配分を実施し、1998年には年俸制の見なおしを行った。ミスミのチーム制のメンバーは正社員、契約社員、時給勤務者、業務委託する個人などで構成されていて会社との契約形態はさまざまであるが、これらの金銭処遇の改訂は、実績に対する報酬に不均衡が生じないようにする方向で見なおしたものである。そして1999年には年俸額を会社が決めるのではなく本人とチームリーダーとの自由交渉によって決める年俸制度とした。この結果、年俸上も社員と社外メンバーの格差がほぼ解消し、同格化した。
      これに合わせて、ミスミのチームには社員に限らず社外の人も自由かつ平等に参画できる関係を明らかにするため、チームのメンバーに対し「参画者」(さんかくしゃ)という呼称を使いはじめている


5.課題

  企業内企業家は育てるが、いわゆる「分社化」はしない。分社はサラリーマン型企業ないし固定的組織のミニチュアを形成してしまう恐れがあるので、ミスミの戦略には合致しない。
  現状ではユニットリーダーを取締役が担当することが多く、固定的であると考えている。このような組織の硬直化はミスミの最も忌避するところである。


6.今後の展開

  現在、事業提案者やユニットリーダーが社内の役員であることを改め、これらの機能を社外にも広め要員の適材適所を高める改革を進めていく予定である。
  今後もチーム制を強化し、社会の変革に柔軟に対応できる組織を目指す。


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