2018年7月の新着図書紹介

1.石塚 浩美著『働き方と年収の壁の経済学』日本評論社

(xii+229頁,A5判)

「なぜ女性労働者の活躍が日本経済の存続になるのか」といえば、本書は、現在専業主婦などの無業者が多く、大きな潜在的労働力となっており、人材としても男性同様の教育を受けているためだとの見方を示す。そのうえで、パートの「年収103万円の壁」と税・社会保障制度の社会システムの変遷と課題に焦点を当てる。2018年には所得税の配偶者控除と特別控除制度が大幅に変更された。しかし、税制の扶養対象の配偶者控除の103万円が相変わらず壁となる可能性が高いとみる。社会保障の適用が2016年10月から拡大され、いわゆる「パートの年収106万円」の壁が生まれたものの、大きな変化にはつながっておらず、社会保障制度を抜本的に変える時期に来ていると説く。

請求番号:366.021/hat
書誌番号:JB00110432
ISBN:9784535558946

2.樋口 美雄他著『格差社会と労働市場』慶應義塾大学出版会

(xviii+222頁,A5判)

格差に対する人々の関心がかつてなく高まっている。本書は、新たなパネルデータを使用して所得格差拡大の原因を追究し、不平等の拡大と固定化を止めるための方策を明らかにしており、①雇用モデルの変容②最低賃金や能力開発支援等の積極的雇用政策③教育の機会均等④税や社会保険・社会保障給付――など労働経済学の視点から幅広く格差問題を分析している。中心的テーマである賃金については、上昇を続ける欧米諸国に比べて日本では名目・実質賃金ともに低下し続けており、その背景には労働生産性の低下があるという。このほか、教育・健康などについて多面的なアプローチで格差を固定化させない方策を考察し、各章ごとに「結果」を示している。

請求番号:366.021/kak
書誌番号:JB00110387
ISBN:9784766425079

3.西村 健著『プロフェッショナル労働市場』ミネルヴァ書房

(xiii+199頁,A5判)

日本の経済社会では、プロフェッショナル(専門職)労働市場の特性を明らかにした研究はこれまで多くみられなかった。このため、本書はプロフェッショナルとは何かというコンセンサスすら十分得られていないと指摘する。そこで古くからプロフェッショナルと考えられてきた医師や薬剤師、看護師などと、技術者や研究者などの新しいプロフェッショナルを同一文脈のなかで分析。米国との比較も含め、スキル形成や賃金、転職の実態について考察する。その結果、「職業団体主導型(医師)」「企業主導型(企業内科学技術者等)」「自己研さん型(薬剤師等)」のタイプが浮かび上がった。最後にプロフェッショナルのサービスの質の担保が今後の課題になると提言する。

請求番号:366.21/pur
書誌番号:JB00110403
ISBN:9784623082643

4.石井 香江著『電話交換手はなぜ「女の仕事」になったのか』ミネルヴァ書房

(vii+406+15頁,A5判)

本書は電話交換手が技術の発展によって、男性から女性の仕事に代わる過程をドイツとの比較で分析する。1800年代後半のドイツでは、非効率で高価な電信業務に代えて、電話交換業務が遠距離間での迅速な情報のやり取りを可能とした。当時電話交換の仕事に就いていたのは主に男性だったが、政府は限られた予算で操業する目的で、賃金が安価で意思疎通が優れており、声が聞きやすい女性労働力の導入を拡大。日本でも、電話事業費を抑えるため、低賃金の女性労働者の増大の是非を問う議論が起こったという。技術の「正史」ではほとんど顔を出すことのない、その存在が葬り去られた存在に注目することで、「男性並み」に活躍した女性たちの存在を浮き彫りにする一冊だ。

請求番号:694.2/den
書誌番号:JB00109345
ISBN:9784623080663

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2018年4月~5月の労働図書館受け入れ図書

  1. 小崎 敏男著『労働力不足の経済学』日本評論社(ix+224頁,A5判)
  2. 金津 健治著『目標による管理』経団連出版(156頁,A5判)
  3. 林 祥平著『一体感のマネジメント』白桃書房(viii+212頁,A5判)
  4. ガイ・スタンディング著『ベーシックインカムへの道』プレジデント社(388頁,四六判)
  5. 阿部 正浩他編『多様化する日本人の働き方』慶應義塾大学出版会(xi+266頁,A5判)
  6. 松原 仁美著『排除と包摂のフランス』晃洋書房(vi+225頁,A5判)
  7. 小山 博章編『裁判例や通達から読み解くマタニティ・ハラスメント』労働開発研究会(xii+503頁,A5判)
  8. 成瀬 友梨編著『子育てしながら建築を仕事にする』学生出版社(250頁,四六判)
  9. 岩崎 馨他著『春闘の歴史と課題』日本生産性本部生産性労働情報センター(74頁,A5判)
  10. 岩田 一哲著『職場のストレスとそのマネジメント』創成社(x+221頁,A5判)