2016年8月の図書紹介(2016年7月受け入れ図書)

1.橘木 俊詔他著『世襲格差社会』中央公論新社

(iv+211頁,新書判)

「団塊の世代」が仕事から引退し始めているなか、「世襲」が注目を集めている。後継者問題などと絡めて、「親の仕事を継ぐべきか」あるいは「子どもに継がせるべきか」と迷う人が少なくないようだ。本書は、世襲の現状やその経済的意味などを考察。職業の世襲を中心に、事例やデータを駆使して多様な面を分析し、メカニズムを明かす。これによれば、医師や経営者、学者、農業などでは親子が資産、職業を継承していることが多く、人生のスタート時点で有利に立っている。他方、世襲の程度が弱いのはサラリーマン。著者は、親ないし親族から遺産、資産を受け継ぐ人とそうでない人の間には、結果ではなく、機会の格差の問題が発生するのではないかと提起する。

請求番号:361.8/ses
書誌番号:JB00106817
ISBN:9784121023773

2.ラース・スヴェンセン著『働くことの哲学』紀伊國屋書店

(262頁,四六判)

「哲学」と聞けば、身構えてしまう人も少なくないだろうが、本書はそんなおかたい専門書ではない。ノルウェーの気鋭の哲学者が自分の就業体験や父親の職業人生からのエピソードを紹介しながら、「仕事」の現代社会における位置づけを平易に分析している。人々が幸福に満たされた生活を求めるなか、「仕事は人生の意味そのものを与えてくれるか」「自己実現の神話を信じすぎることで、かえって仕事が災いになってはいないか」「給与の額と幸福感は比例するか」などの論考から「働くこと」の過去、現在、未来を考察する。第1版では想定もしていなかった急激な経済変動が発生したため、一部を大幅に改訂、新たに「仕事とグローバリゼーション」をテーマに1章を加筆。

請求番号:366/hat
書誌番号:JB00106631
ISBN:9784314011365

3.山田 久著『失業なき雇用流動化』慶應義塾大学出版会

(x+268頁,四六判)

著者は、過去20年、雇用の流動化をめぐって政策的にも理論的にも様々な議論が行われてきたが、結論が得られたとはいえず、共通認識すら十分に得られていないと指摘する。雇用は国民生活の根幹であり、そのあり方の方向性について立場を超えて多くの人々が認識を共有することは、日本の経済社会を立て直すために不可欠にもかかわらず、十分できていないと強調。こうした問題意識から本書は、産業別・国際比較など多様な面から雇用流動化と経済成長の関係を独自のフレームワークで提示する。どのような条件で雇用流動化が経済活力につながるか、という実践的な問題設定から論じている。本書は約15年継続されてきた著者の労働・雇用研究の集大成と位置づけられている。

請求番号:366.21/shi
書誌番号:JB00106731
ISBN:9784766423457

4.今野 晴貴著『ブラックバイト』岩波書店

(x+223+3頁,新書判)

労働条件が過酷で、学業に支障が出るほどのアルバイトを「ブラックバイト」という。長時間労働など違法行為を常態化させ、時に働く人の命まで奪う「ブラック企業」の学生版である。現在、単なる学生アルバイトであるのに、過重労働で倒れてしまうほど働かされる事例が急増し、もはや、アルバイトとは「気楽なもの」とは言えなくなってきた。本書では、ブラックバイトの特徴として、①過重な責任②過度な長時間・深夜勤務③急な呼び出し、シフトの強要④最低賃金割れの賃金⑤罰金、ノルマ、自腹購入――などの兆候が表れたら危険だと警告。一方で、家計の悪化や学費の値上げによる奨学金利用の増大などで学生の貧困化が進行、アルバイトに駆り立てる実情も指摘。

請求番号:366.8/bur
書誌番号:JB00106632
ISBN:9784004316022

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2016年5月~2016年6月の労働図書館受け入れ図書

  1. 太田 肇著『個人を幸福にしない日本の組織』新潮社(220頁,新書判)
  2. 荒牧 草平著『学歴の階層差はなぜ生まれるか』勁草書房(ix+292頁,A5判)
  3. 金成垣著『福祉国家の日韓比較』明石書店(195頁,A5判)
  4. 中谷 文美他編『仕事の人類学』世界思想社(307頁,A5判)
  5. 太田 英基著『ワーク・モデルズ』いろは出版(373頁,四六判)
  6. 水町 勇一郎著『労働法』有斐閣(518頁,A5判)
  7. 小杉 俊哉著『熱狂しやがれ』ワニブックス(189頁,四六判)
  8. 大崎 玄長著『やりたいことを仕事にするなら、派遣社員をやりなさい!』総合法令出版(61頁,四六判)
  9. シヴォーン・マクリーン他著『パワーとエンパワーメント』クリエイツかもがわ(133頁,四六判)
  10. 渋谷 和宏著『働き方は生き方』幻冬舎(189頁,新書判)