JR産別が定期大会を開催、JR東労組の組合員大量脱退が影を落とす

2018年6月15日 調査部

[労使]

JRグループの二大産別であるJR総連、JR連合は6月上旬、相次いで大会を開き、2018年度の運動方針を決定した。今年はJR総連の主力労組であるJR東労組で2月以降続いた3万人以上といわれる組合員の大量脱退問題をめぐる労使関係の混乱が影を落とし、JR総連は東労組の「指導責任」を批判するとともに、執行部を刷新した同労組との連帯を強調。これに対しJR連合は「JR産業全体における労使関係の正常化・健全化につなげていく運動」の推進を訴えた。

JR総連は東労組の前執行部を批判

JR総連は6月3、4の両日に都内で大会を開催し、JR東労組をめぐる問題が論議の中心となった。東労組は今春闘の交渉が始まった2月上旬時点で、JR総連組合員7万3,000人のうち約4万6,000人を占めていたが、その後の脱退者は5月時点でおよそ3万2,000人に達している。この大量脱退について、大会であいさつした榎本一夫委員長(JR北海道労組)は「JR労働運動史において類を見ない」と述べ、その背景に「会社経営陣による(脱退を働きかける)不当労働行為があっただろう」としつつ、「しかし、東労組前指導部の運営に欠陥があったことも事実だ」と指摘した。

背景に今春闘での「ストライキ権の行使」と「労使共同宣言の失効」

大量脱退の直接のきっかけは、今春闘のベースアップ要求にあたり、2017年に獲得した組合員間の差がない「ベア一律1,000円」の実績を念頭に「格差ベア反対」を掲げ、さらにストライキ権の行使を予告したことにある。会社側はこれに対し、東労組と結んでいた、団体交渉を優先させる条項を盛り込んだ労使共同宣言の失効を通告。賃上げ交渉は「基本給に対する0.25%のベアの実施」で決着したが、組合側は「一律のベア」を獲得することができず、脱退の歯止めもかからなかった。

榎本委員長はこの間の動きを振り返り、「指名ストを戦術とする決定について、東労組から総連執行部にいかなる報告・連絡もなかった」と述べ、労使共同宣言の失効については「30年間培ってきた労使の信頼関係を破壊した」と強調した。大会で発言した東労組の代議員も、スト権の確立はされていたものの、「組合員からは『確立と行使は別だ』という意見も出ていたが、執行部はそのような意見に耳を傾けなかった」、「格差ベアを永久に根絶していかなければならないという方針が意思統一され、そのためのスト行使の検討に入った」と経緯を説明。賃上げ回答後には「職場からは『自滅した』『敗北した』という声も出た」と「組合員との乖離」に言及し、「誤ったことを自覚し組合員との新しい関係、活動につなげなければならない」と主張した。

「新たなJR東労組運動を作り出すためのすべての決定を支持」(榎本委員長)

東労組は4月12日に臨時大会を開き、委員長、副委員長をはじめとする執行部メンバーに対する「制裁審査委員会」を設置するとともに、役員体制を刷新。そのうえで、スローガンに「職場の声を尊重し、全組合員が納得と共感を持てる運動づくりで新たなJR東労組運動を創り上げる」と掲げた。

この流れを踏まえ、榎本委員長は「JR東労組に、組合員の再結集のため、運動の再構築を求める」と強調。JR総連は大会方針で、「『労使共同宣言の失効』をもたらした事実と指導部としての責任に向き合い、新たなJR東労組運動を作り出すため」の(東労組の臨時大会における)「すべての決定を支持する」とし、「いかなる場合も労使双方『信義誠実』を原則とする労使関係を切り拓く決意をした東労組と固く連帯していく」ことを確認した。当面は、「東労組を脱退した3万人以上の社員には労働協約が適用されない」(榎本委員長)現状を踏まえ、今年の9月30日に期限を迎える労働協約の再締結などに取り組むことになる。

JR連合は「JR労働界の再結集」を訴える

一方、東海・西日本・四国・九州各社での多数派組合を中心に構成するJR連合(8万2,000人)は6月11、12の両日に大会を開き、「JR労働界の一元化」を図り10万人組織を目指すことなどを柱とする運動方針を確認した。

あいさつした松岡裕次会長(JR西労組)は、JR東労組の組合員脱退問題について、「東労組の組織瓦解が始まるなど、極めて大きな地殻変動が発生している」とし、「激変するJR労働界においてこそ、(JR発足30年を経て)更なる30年を見据えた、真に民主的な労働運動を展開し、すべてのJR連合運動を、組織の強化・拡大に帰結させなければならない」と強調。さらに、JR総連傘下のJR北海道労組、同貨物労組(ともに社内で多数派)の動きにも言及し、「JR労働界の再結集を目指すにあたって、極めて重要な分岐点に立っている」と指摘した。

グループ会社の組織化とグループ労組の拡大に取り組む

JR連合が進める組織拡大の当面の柱は、「他労組や無所属からの組織拡大」と「グループ会社の組織化・(グループ労組の)組織拡大」。とくに「グループ労組連絡会」は現在93単組2万5,000人の構成となっており、人員はJR連合の約3割を占めている。グループ労組は春季生活闘争でも実績を積み重ね、松岡会長によると、今大会時点では84単組で賃金交渉が妥結、うち50単組でベースアップ回答を引き出した(前年のベア回答実績は43単組)。JR連合は2019年春季生活闘争に向けて、グループ労組賃金実態調査の実施や交渉支援などに取り組むことを確認している。

このほか、大会では、最終年度を迎えた「中期労働政策ビジョン(2014~2018)」に沿って次の春季生活闘争や労働条件改善に取り組むこと、1年後に改訂する次の中期労働政策ビジョン策定のためのプロジェクトチームを設置することを決めた。新たな同ビジョンは19年6月開催予定の次回定期大会で決定する。