賃金改善による「底上げ」「格差是正」を継続/自動車総連定期大会

(2016年9月14日調査・解析部)

[労使]

自動車総連(相原康伸会長、約77万人)は、8、9の両日、東京・港区で第45回定期大会を開き、2015年総合生活改善の取り組み総括のほか、向こう1年間の運動方針を決定した。役員改選もあり相原会長、郡司典好事務局長などを再任したが、上部団体の連合の改選期と合わせるため、任期は1年となっている。相原会長はあいさつで、2017年の交渉に関して、総連全体の底上げ・格差是正の前進を基調に「自動車産業の持続的かつ、健全な発展につながりうる取り組みのあり方について検討を深めたい」と述べ、4年連続で賃金改善分の要求を組み入れることに前向きな姿勢を示した。

業種・規模間の「格差拡大」に歯止め―300人未満の獲得額が平均上回る

今季の取り組みでは、格差是正を重視し総連全体で取り組める要求として昨年の半額となる3000円の賃金改善で交渉に臨んだ。8月30日時点でまとめた2016年総合生活改善の取り組みの最終的な要求・回答状況によると、賃金については全体で1,099単組が要求。うち1,079単組が賃金改善の要求を盛り込み、その要求額は単純平均で3,198円となり、前年を約2,600円下回った。ただし、業種別にみると、大手メーカー組合は3,000円で横並びだったが、「車体・部品」3,072円、「販売」3,314円、「輸送」2,986円、「一般」3,048円となり、メーカー労組との格差是正を意識した要求が相次いだ。

交渉はすべて終結しており、賃金改善分を獲得したのは754単組数(獲得率約68.6%)、改善分の獲得額(単純平均)は1,134円で、前年を491円下回った。ただし、業種別にみると、「メーカー」1,415円(前年3,000円)、「車体・部品」978円(同1,435円)、「販売」1210円(同1,668円)、「輸送」1,371円(同1,839円)、「一般」1,351円(同2,041円)となり、前年に比べて、業種間の回答の開きが大きく縮小された。

また、企業規模別でみても、「3,000人以上」1,368円(同2,653円)、「1,000~2,999人」1,048円(同1,551円)、「500~999人」1,126円(同1,627円)、「300~499人」975円(同1,531円)、「300人未満」1,165円(同1,584円)となり、前年比で規模間格差が圧縮されただけでなく、300人未満規模の平均獲得額が全体平均を上回る結果を引き出している。

一時金については全体で1,077単組が要求し、年間回答を受けた941組合の平均は4.36カ月となり、前年を0.04カ月上回った。

非正規の「底上げ」でも着実な前進

非正規雇用の底支え・底上げにつなげるために重視している「企業内最低賃金協定」の取り組みでは、新規協定が52組合で、総連全体の協定締結率は76.6%となった。水準引き上げも318組合が回答を得た結果、全体平均では前年比1,013円増の15万7,313円となった。この成果を産業別最低賃金の改定審議につなげていきたいとしている。

また、非正規労働者の処遇改善・賃金・一時金の取り組みでは、具体的な回答を得たのは326組合で、前年の50組合を大きく上回った。

2016年総合生活改善の総括と課題―「格差是正」は道半ば

この結果を踏まえた総括では、昨年の獲得額に比べて総連全体としての結集感が高まり、今季取り組みの狙いに沿った結果になったこと、2年間続いた業種間・規模間の格差拡大に歯止めをかけたこと、企業内最低賃金協定の新規締結によって非正規雇用を含めた対象者が拡大したことにより、全体の底上げを着実に前進させたことを評価。しかし、3年連続で賃金改善分の獲得を果たせなかった単組があることから「格差是正」は道半ばというスタンスで来春以降さらに取り組みを強めるとしている。

今季から自動車産業の「現場力の底上げ」に向けて、産業内で生み出した付加価値を末端のサプライヤーや販売等も含めた産業のバリューチェーンに循環させる「WIN-WIN 最適循環運動」をキックオフした。向こう3年間の取り組みの初年は、この運動の狙いや考え方を経営側にも理解してもらうため、日本自動車工業会、日本自動車部品工業会、自動車販売店協会連合会などとそれぞれの「産業労使会議」で説明し、意見交換を実施した。相原会長は記者会見でこうした会議を通じて「自動車産業適正取引ガイドラインの遵守について確認できたことは大きい」とした。2年目以降はこれを踏まえて、「さらにプラスアルファを生み出す運動を展開したい」と語った。

また、大会挨拶で相原会長は、三菱自動車の燃費試験に関する不正問題に触れ、「私たちの職場から不正問題を発生させたことは痛恨の極みといわざるを得ない」と述べた。そのうえで、この間、自工会、部品工業会、自販連との産業労使会議で取り上げてきたこと踏まえて、「今回の問題を契機に値引き競争や無理な働き方など、ゆがんだ競争を懸念するとの問題意識を共有した」と報告した。

自動車関係諸税の取り組みを強化

運動方針は「日本の自動車産業基盤の維持・強化」や「仲間づくりを通じた社会的、地域的な役割発揮と政策活動の充実・定着」「豊かで健全な労働環境の実現と生活の安心・安定感の確保」などを具体的活動の柱に据え、それぞれ重点課題を挙げている。

自動車産業基盤の維持・強化では、まず自動車関係諸税について、平成28年度の税制改正が、「ユーザーを顧みず、財源確保を最優先するものとなった」などと批判。「平成29年度税制改正において、自動車関係諸税の『簡素化・負担の軽減』の実現に向けて取り組む」とした。「ユーザー負担の軽減、国内市場の活性化に向け、自動車ユーザー団体等とも協力しながら、自動車関係諸税の取り組みの意義を多くのユーザーに理解してもらう活動を進めつつ、税制改正に臨んでいく」(相原会長)考えだ。

多国籍企業組合ネットワークを構築

また、少子高齢化の進行等の社会構造の変化に対応する「社会保障制度の抜本改革」の早急な推進や、産業の底上げ・底支えを図る「付加価値の『WIN-WIN 最適循環運動』の推進」、重大災害の撲滅や自動車総連内での類似災害の再発防止に向けた取り組み強化も提起。グローバルでの建設的な労使関係の構築に向けて、多国籍企業労働組合ネットワークの構築や、2030年を見据えた国際活動の長期ビジョンの策定も掲げている。

再雇用者や非正規労働者の組織化を推進

地域的な役割発揮と政策活動の充実・強化については、自動車産業の健全な発展に向けた取り組みを行うことを目的とした「車と社会を考える政策推進フォーラム」に参加する議員や組織内地方議員、上・外部団体に対し、自動車総連が掲げる政策への理解者拡大などの取り組みを通じて政策推進力を強化。地方連合会での政策実現活動を通じた国・地方自治体に対する働きかけや、国政・地方選挙への取り組みも行う。

なお、組織拡大に関しては、全単組における60歳以降の再雇用者の組織化促進に加え、パート・有期契約社員などの企業内未組織労働者を組織化するなど、「『1,000万連合実現プラン』に対する自動車総連としての役割を果たす」とした。

労使双方の納得性を高める労働政策の決定システムを/相原会長

健全な労働環境の実現と生活の安心・安定感の確保については、継続審議になっている労働基準法の改正や「ニッポン一億総活躍プラン」で示された「同一労働同一賃金の実現を含む非正規労働者の待遇改善」、「長時間労働の是正」について、「今後の論議状況を注視し、実効性の高い法制度となるべく連合とともに活動を進める」構え。非正規労働者に関しては、「今後も雇用の原則は『直接かつ常用雇用が基本』との考え方を堅持する」としたうえで、「いかなる雇用形態であっても、公正で公平な働き方のできる職場環境の構築に向けて、引き続き積極的に関与する」。また、均等・均衡処遇に向け、「同じ職場でともに働く仲間の観点に加え、労働組合の社会的役割を果たす観点から、これまで同様、コンプライアンスの徹底の取り組みを継続する」としている。

政府が掲げる「働き方改革」について、相原会長はあいさつで「『雇用制度改革』や『生産性革命』など労働組合にかかわる重要課題が目白押し。政府が成すべきは公労使の三者構成原則の見直しではなく、労働政策審議会を中心に社会対話の仕組みを高度化し、労使双方の納得性を高める労働政策の決定システムを構想することではないか」などと述べた。

相原会長、郡司事務局長を再任

大会では、役員の改選年を連合と合わせるために役員任期を1年とする役員改選があり、相原会長(全トヨタ労連)と郡司事務局長(日産労連)は再任された。