会長に松浦氏、書記長に木暮氏を選出/UAゼンセンの定期大会

(2016年9月14日調査・解析部)

[労使]

わが国最大の産業別労働組合で、製造から流通・小売、外食などまで幅広い業種で組織化を進めるUAゼンセン(153万6,000人)は7、8の両日、横浜市で定期大会を開催した。役員の改選を行い、会長と連合事務局長を兼任していた逢見直人氏に代わり、書記長の松浦昭彦氏(本部)が新たな会長に就任し、新書記長には流通部門事務局長の木暮弘氏(イオンリテールワーカーズユニオン)が就いた。向こう2年間の新運動方針では、中期ビジョンの実現に向け、短時間組合員担当局を設置するなど本部の機構改革なども行うとしている。

「働き方改革」の議論へ積極的に加わる/逢見会長

逢見会長は、政府で検討が進められている長時間労働対策などの「働き方改革」についてあいさつのなかで言及し、「われわれは働く人たちを軸にした政策を中心にして、その実現に取り組んでいる。政府が唱える『働き方改革』が、われわれが求める方向と一致するなら、その議論にも積極的に加わっていきたいと思っている」などと述べた。

政治情勢については、「自民党にとって代わる二大政治勢力の一角を占める中心となるべきは、やはり民進党だ」とし、「次の総選挙はいつになるかわからないが、衆議院選挙は参議院選挙と違って政権選択選挙となる。参院選の一人区では、共産党も含む選挙協力が行われたが、それは中間選挙としての参院選の性格からできたものであって、政権選択選挙では、野党第1党である民進党が政権をとった場合には、どのような政策を実現するかを国民の前に示すことが求められる。理念や基本政策が大きく異なる政党との政権の連立はあり得ない、つまりは共産党と政権を共にすることはあり得ないと思う」などと選挙協力の基本的スタンスを示した。

この1年間で8万人を組織化、全体で164万人に

大会で報告されたこの1年間の組織拡大状況によると、新規加盟した組合数・組合員数は、「製造産業部門」が9組合・469人、「流通部門」が39組合・1万7,918人、「総合サービス部門」が18組合+1分会・2万651人で、3部門合計では66組合+1分会・3万9,038人だった。一方、企業内組織拡大の実績は、3部門合計で42組合・4万1,424人。これにより、新規加盟と企業内組織拡大を合わせた組織化実績は8万462人にのぼった。

この間、UAゼンセンは、業界戦略としては大手外食の組織化に注力。また、ドラッグストアについては業界大手の組織化がほぼ終息したことから、中小規模の未組織企業に重点をおいた。その結果、流通部門では、マツヤスーパー労働組合(食品スーパー、1,022人)、ワイズマート労働組合(食品スーパー、2,159人)、G-7スーパーマートユニオン(小売業、1,127人)、せんどう労働組合(食品スーパー、2,031人)、ナリタヤ労働組合(食品スーパー、1,249人)などが新規加盟した。総合サービス部門では、アールディーシー労働組合(外食事業、2,304人)、ワタミメンバーズアライアンス(外食事業、1万3,181人)、江戸一労働組合(外食事業、4,000人)などが加盟組織に加わった。

大会では新規加盟組合を代表してワタミメンバーズアライアンスの亀本伸彦・中央執行委員長があいさつし、「ワタミグループは近年、ブラック企業として社会から厳しい批判があった。しかし、こういう状況のなかでも働く従業員がいて、その家族がいる。社会から自分たちや家族が働く会社を非難されて、つらい思いをした仲間も多かった。ブラック企業批判をうけ、会社として多くの対策が行われたが、労働条件や職場環境について従業員から意見を出して交渉することはなかった。根本から会社の体質を変え、二度と同じようなことを起こさないためには、我々自身の意識改革が必要と感じ、組合を立ち上げた。働く仲間が会社に不満があるならば自分たちが話し合い、会社に提案を上げていきたいと思う」などと抱負を語った。

UAゼンセン公表ベースの組合員数は、9月7日現在で164万1,955人となった。このうち短時間組合員は92万2,208人を占める。部門別にみると、製造産業部門が22万4,855人(うち短時間9,767人)、流通部門が96万1,657人(同63万3,964人)、総合サービス部門が45万5,423人(同27万8,477人)となる。

短時間組合員の一人あたり平均賃上げ率が初めて正社員を上回る

大会では、2016労働条件闘争のまとめを確認した。UAゼンセンは賃金体系維持分に加える賃金引き上げ分として、過年度物価上昇分に、実質生産性の伸びに相当する生活向上分、格差是正分を加えて2%基準の要求をすることを方針に掲げた。

まとめによると、7月26日時点で、賃金闘争に参加した1,859組合のうち、1,541組合が要求を行った。「賃金体系維持分」と「賃金引き上げ分」を合わせた賃上げ全体の要求額の平均は8,337円(3.50%)で、賃金引き上げ分だけでみると3,909円(1.47%)となっている。比較可能な組合(1,413組合)で前年と比較すると、全体、引き上げ分ともに下回った。

妥結結果をみると、1,395組合が妥結し、妥結額の単純平均は、全体で4,336円(1,75%)、賃金引き上げ分のみで856円(0.31%)。加重平均は全体が5,726円(2.01%)、賃金引き上げ分が1,049円(0.36%)で、比較可能な組合(1,295組合)で、全体も賃金引き上げ分もともに前年を下回った。

一方、短時間組合員の妥結状況では、妥結組合数(320組合)が昨年(275組合)を上回った。妥結額(制度昇給分+賃金引き上げ分)は、単純平均で17.1円(1.84%)、加重平均で19.6円(2.15%)となり、単純・加重平均、額・率ともに前年同時期を上回る結果となっている。

賃金以外では、労働時間改善の取り組みで62組合がインターバル規制の導入を要求し、流通部門(スーパーマーケット)を中心に14組合が改善の回答を得た。このうち6組合が11時間のインターバル規制の導入を果たしたなどとしている。

逢見会長は2016労働条件闘争における正社員組合員の賃上げ結果について、「要求趣旨からは十分とはいえないものの、3年連続で賃上げの流れを継続できた点、昨年度の物価上昇分を上回るベースアップを獲得できた点、大手組合と中小組合の妥結水準の差が縮小したという意味で中小組合ががんばった点は評価できる」と中小の健闘を評価する一方、「中小組合の妥結水準自体は平均で4,500円を下回る水準にあり、格差是正、底上げは来年度以降も継続の課題となる。より多くの組合が賃金水準の把握、賃金体系維持分の確認、3月内解決、この3点で足並みを揃え共闘を強化していく必要がある」と来年以降に向けた課題も口にした。

短時間組合員については、「昨年を上回る引き上げを獲得した。短時間組合員の一人あたり平均賃上げ率、妥結人数が正社員を上回るのはUAゼンセンの闘争としてはじめてのことだ」と強調。「人手不足という追い風はあるが、この間の組織拡大、交渉力強化の取り組みが形にあらわれたものであり、法定最低賃金引き上げ審議に対しても大きなインパクトを与えることができた」と評価した。

短時間組合員の担当部局設置 ― 同一価値同一労働の実現を

UAゼンセンは今年1月の中央委員会で、10年後の実現を目指す社会ビジョンである「2025中期ビジョン」を決定。ビジョンのなかで、(1)一人ひとりが希望する働き方を選択でき、能力を発揮し、十分な生活を営める雇用をつくる(2)持続可能で魅力ある産業をつくる(3)一人ひとりが、心豊かに生きていくために安心を築く(4)人のつながりや助け合うことを基盤に、持続可能で安心できる地域社会をつくる――の4項目に挑戦していく姿勢を表明した。向こう2年間が、これらの「4つの挑戦」に取り組む最初の運動期となる。

大会で決定した新運動方針は、「4つの挑戦」に取り組んでいくため、まずは「組織・運営の見直し」などを実施していくとした。具体的には、製造産業、流通、総合サービスの3部門に分けて行っている組織運営について、「同盟体組織としてより強力に運動を進める組織をめざす」とし、今後は産業に関わる課題解決に向けた「部門の個別的な取り組み」や、UAゼンセン全体の課題に対して部門が「部門ごとの方法での取り組み」を増やしていくとしている。

UAゼンセンでは、加盟組合の約8割を、組合員数が300人に満たない中小組合が占めており、財政的に専従役員を置く余裕がなかったり、役員が組合活動の時間を確保することが難しい場合も多い。そのため、本部機構も見直しを行い、組織拡大・強化局を組織局と一体的に運営することで、中小組合をはじめとする加盟組合の支援・指導を充実させる。

また、短時間組合員が組合員数全体の過半を占めているものの、短時間組合員に関する政策・運動が主要な柱になっていなかったことから、短時間組合員に関する担当局を本部の政策グループに設置する。さらに、総合検討会議を設置して、短時間組合員に関する課題についての総合的な議論をスタートさせる。

一方、運動面では、新方針は、同一価値労働同一賃金の実現をめざした均等・均衡待遇の取り組みをさらに前進させ、男女間賃金格差のより詳細な実態と原因追究を行う。賃金闘争では、産業・業種内の公正労働基準実現を図るため、本部方針の下で部門が具体的要求内容を設定する方向にシフトし、妥結についても部門にその権限を委譲する時期を早める考えだ。このほか、中小企業の健全な育成の視点から、産業横断的な「総合中小企業政策」策定の可能性について検討するなどとしている。

会長に選出された松浦氏は帝人労組の出身。連合事務局長とUAゼンセン会長職を兼務していた逢見直人氏は、連合の事務局長職に専念することとなった。

会長、書記長以外の新役員の顔ぶれをみると、逢見会長が連合事務局長を兼任していた関係で会長代行を務めていた島田尚信氏(本部)が本部業務担当の副会長に戻り、八野正一氏(本部)は再任となった。新たに郷野晶子氏(本部)が本部業務担当の副会長となった。部門業務を担当する副会長には、新たに下二朗氏(総合サービス部門・ダスキン労組)、南澤宏樹氏(製造産業部門・帝人労組)が就任し、藤吉大輔氏(流通部門・ダイエーユニオン)は再任となった。