3,000円以上の賃上げ要求基準を決定/金属労協(JCM)の協議委員会

(2015年12月9日 調査・解析部)

[労使]

自動車総連、電機連合、JAM、基幹労連、全電線の金属5産別労組で構成する金属労協(JCM、相原康伸議長)は4日、都内で協議委員会を開き、2016年闘争方針を決定した。方針は賃金の底上げと格差是正を重視するとし、賃金の引き上げ要求基準について「賃金制度維持分を確保したうえで、3,000円以上の賃上げに取り組む」とした。今回は企業間の付加価値の適正配分を図るため、適正な取引の確立とバリューチェーンにおける「付加価値の適正循環」構築に向け、対政府や金属産業内で具体的な活動も展開するとした。

「最大の課題は賃上げ、底上げと格差是正」(相原議長)

あいさつした相原議長(自動車総連会長)は、国内外の経済情勢や物価、労働市場の状況を概括したうえで、「日本経済は、資源価格の下落などを背景に物価は必ずしも明確なプラスとなっておらず、個人消費、設備投資にも今ひとつ力強さに欠けることは否めない。こうした状況にあっても、金属産業全体としては、懸命な職場の努力に支えられる形で、一部業種、業態を除き増収増益基調を維持し、リーマンショック以降、企業体力は着実に強化されてきた」と指摘。また、2014年、15年の金属労協の賃金闘争では、着実に成果を上げてきたとしながら、「こうした状況を踏まえつつ、2016年闘争においても、継続的に賃上げを獲得すべく、金属労協として具体的な要求水準を提起し、『デフレ脱却』を確実なものとし、『経済の好循環』実現に向けて最大限の取り組みを推進していく」と強調した。

また、相原議長は、「2016年闘争の最大の取り組み課題は、賃金の引き上げ、底上げと賃金格差の是正であることは言うまでもない」と強調。2015年闘争で賃上げ要求を行った組合は全単組の7割、賃上げを獲得した組合は回答を引き出した組合の6割にとどまっているとしたうえで、「こうした結果を踏まえると、2016年闘争においてはまず、中堅・中小労組を念頭に賃上げ要求組合、そして賃上げ獲得組合の拡大を図る必要がある」と主張し、「こうした観点に立って、金属労協が一枚岩となって『3,000円以上』の賃上げを核とする賃金・労働諸条件の引き上げに積極的に取り組む」と述べた。

企業間取引における適正配分に向け『付加価値の適正循環』構築へ

闘争方針の具体的な内容をみていくと、基本的な考え方のなかで、「JC共闘が一枚岩となって、継続的な賃上げを求めていく」とし、①賃上げ獲得組合の拡大、積極的な賃金格差是正②基幹労働者の個別賃金重視による水準形成③企業内最低賃金の全組合締結と水準引き上げ④特定(産業別)最低賃金の取り組み強化⑤非正規労働者の正社員への登用促進、賃上げ、労働諸条件改善――などに「全力で取り組むことにより、賃金の底上げと賃金格差の是正を図る」と明記。また、「あわせて、企業間の付加価値の適正配分に向け、適正取引の確立とバリューチェーンにおける『付加価値の適正循環』構築に向けた対政府および産業内の具体的活動を展開する」として、初めて企業間取引における適正配分の問題に取り組む姿勢を前面に掲げた。

具体的な要求基準をみると、賃金の引き上げでは、グローバルな経済情勢を見据えた国内経済の動向、生産性や金属産業の動向、物価動向をはじめとする勤労者生活などを総合的に勘案しつつ、底上げ・格差是正の観点を踏まえ、「賃金制度維持分を確保したうえで、3,000円以上の賃上げに取り組む」とした。

2年連続で賃上げの要求基準設定は2000年代初頭以来

2015年闘争方針は賃上げ分を「6,000円以上」としていたことから、2016年方針では、賃上げ幅が半減した形。この点について相原議長は、同日の協議委員会前に行われた会見で「加盟5産別の賃金の底上げと格差是正へのこだわりと狙いを踏まえ、それぞれが成果を最大限に発揮できる水準として設定した」などと説明した。

2015年闘争では、大手組合が登録する「集計登録組合」(53組合)の最終の平均賃上げ獲得額は2,801円だったのに対し、「中堅・中小登録組合」(169組合)の同額は1,862円と1,000円近くの差がついた。また、規模別にみると、1,000人以上(206組合)の同額は2,265円なのに対し、300人未満(1,942組合)は1,631円にとどまり、むしろ規模間格差は拡大する結果となった。今回の要求基準は、これ以上の規模間格差に歯止めをかけるため、中小組合に配慮する意味合いも含まれているものとみられる。会見で相原議長はまた、金属労協が具体的な額を示して2年連続で賃上げの要求基準を設定するのは、2000年代の初頭以来のことであると説明した。

企業内・産別最賃の取り組みも強化

一方、賃金のミニマム運動(JCミニマム運動)では、企業内最低賃金について、全組合での締結をめざし、未締結組合は協定締結に取り組むとした。協定締結では、非正規労働者(直接雇用)を含めた協定締結をめざすとしている。協定額の引き上げでは、月額15万9,000円以上の水準、もしくは月額2,000円以上の引き上げに取り組む。2015年闘争後の金属労協全体での締結組合数と締結率をみると、それぞれ1,714組合、52.9%にとどまる。また協定額の平均は15万6,957円となっている。企業内最低賃金協定に準拠した水準への特定(産業別)最低賃金の引き上げにも取り組むとしている。

一時金に関しては、前回と同様、年間5カ月分以上を基本とするとし、最低獲得水準として年間4カ月分以上を確保するとした。

非正規労働者の雇用、賃金など改善に力点

今回の闘争方針では、非正規労働者の雇用と賃金・労働諸条件の改善にも力点を置いているのが特徴。雇用面では、「派遣労働者、契約社員、期間従業員などの非正規労働者について、労働組合として正社員への登用促進に取り組む」とし、初めて正社員登用を方針化。労使交渉や協議の基盤整備として、組織化を図るとともに職場での実態を把握する。賃金等については、非正規労働者についても具体的な賃上げ水準を設定する。

基本的な考え方のなかで提起した適正取引の確立については、政策・制度課題として、公正取引委員会に対して対応強化を求めていくほか、調達先との関係での留意事項を記した「適正取引推進マニュアル」を普及させる。バリューチェーンでは、各プロセスの企業における「人への投資」も含めた「付加価値の適正循環」の構築について検討を図るとした。

重みは昨年以上の5産別一枚岩の対応

方針討議では、5産別すべてから発言があった。JAMは付加価値の適正配分について「中小企業においては、労働力確保の観点からも重要な課題だ。しかし、具体的な取り組みを考えると、これまで当たり前だった慣行を変えるということになり、非常に難しい課題でもある。まずは、内外に『付加価値の適正循環』という言葉の定義を定着させ、その上で幅広く世論を形成していくことが必要。JCMが先頭に立って運動を推進してほしい」と要望した。全電線は、方針は検討中としながらも賃上げ方針の方向性について、「賃金構造維持分を確保したうえで、実質生活を維持するために賃金水準の引き上げを図っていく」と表明。企業内最低賃金では、18歳最低賃金協定の水準面で到達闘争を行うと述べた。

基幹労連は、「2年サイクルの基本年度として、魅力ある労働条件づくりと産業・企業の競争力強化、好循環を追求し、継続的な賃金引き上げによって魅力的な労働条件を確立するとともに、生活の安心・安定を図る人への投資に向けた取り組みを進める」と発言。自動車総連は、賃金引き上げについては「JCM方針を踏まえつつ、物価をはじめとする経済動向や昨年以上にバラツキの見られる企業収益などを総合的に勘案しつつ、総連全体の底上げと格差是正を果たしうる要求基準を単組と論議中だ」と報告した。

電機連合は、「同じ産業内でも、業種、業態、個別企業間で業績にバラツキがみられ、中国経済の落ち込みなどから不透明感が広がるなか、JCMの5産別が一枚岩となって3,000円以上の賃上げに取り組むことになったが、額は昨年と比べ違いはあっても、重みは昨年以上だ」と述べるとともに「電機連合は多くの組合で14年に2,000円、15年に3,000円の賃金改善を獲得したが、マクロ経済に好影響を与えたとまでは言えず、もう一歩の取り組みが必要であり、デフレ脱却、経済好循環を実現するうえでの正念場だ」と賃上げの継続の必要性を強調した。