実質賃金の回復の点で課題残る/UAゼンセンの定期大会

(2015年9月16日 調査・解析部)

[労使]

国内最大の産別労組であるUAゼンセン(逢見直人会長、約147万人)は9、10の両日、広島市で定期大会を開催した。逢見会長は2015年の賃上げ結果について、パート賃上げなどでは健闘したものの、実質賃金の回復という点は課題を残したと総括した。

2015年賃上げ結果、「過年度物価上昇分を取り切れたとはいえない」

挨拶した逢見会長は、日本経済の現状について、「デフレはいまだ脱却せず、好循環シナリオには乗っていないのが現下の経済情勢だと思う」と述べたうえで、いわゆるアベノミクスについて、「延長線上で更なる景気対策を求める声もあるが、私は今一度立ち止まって、これまでの政府の経済政策の結果を検証する必要があると思う」とし、金融緩和や財政出動などの副作用についてしっかり検証していく必要があるとの認識を示した。

そのうえで、「国民生活と消費の下支えにとって重要なのは賃金の引き上げだ。政府は、デフレ脱却と持続的景気回復のために賃上げが重要であるという認識を示している。このことは労働組合も従前から主張していたことであり、基本的に見解の相違はない」としたうえで、UAゼンセンの2015年の賃上げ結果が、昨年に比べ正社員組合員で401円の上昇(体系維持分と賃上げ引き上げ分合わせて)、パート組合員で4.8円の上昇などとなったことについて、「加盟組合の企業の業容はばらつきが大きいものがあるが、減益見通しであっても昨年を上回る賃上げを獲得した組合も多く、その点で、各加盟組合の努力を多としたい。ただ、過年度物価上昇分を取り切れたとはいえず、実質賃金は明確な増加の傾向が表れているとはいえない。今年の春の賃金引き上げの交渉結果は実質賃金の回復という点ではまだまだ大きな課題を残したといえる」と総括し、「継続的な賃上げによって、労働者の将来への安心感を醸成し、消費拡大につなげる取り組みが必要だ」と強調した。

逢見会長、連合事務局長への立候補表明

挨拶の終わりに逢見会長は、連合の次期役員選挙で、事務局長に立候補することを表明。「私自身、UAゼンセンの会長職を最後まで全うすべきか、あるいは連合での新たな職務に就くべきか悩んだ」と吐露しながら、ゼンセン同盟に入った1976年当時の会長の宇佐美忠信氏、書記長の山田精吾氏に、労働運動の基本や連合運動の意義や責務などを学んできた自身のこれまでの経験を紹介。「結成から26年を経過し、そこに至る政策推進労組会議、全民労協、民間連合といった過程や、連合結成当時の姿を知る現役世代は少なくなってきたが、宇佐美氏や山田氏の運動を傍らで見てきた者の一人として、先輩のDNAを受け継ぎ、次世代に伝えていく責務があると考え、連合の職務に就くことを決意した」と説明するとともに、「連合に行っても、私はUAゼンセン出身の運動家であるし、それを誇りとして運動をしていくつもりだ」と抱負を語った。

来賓として連合から出席した神津里季生・事務局長がこのあとに挨拶し、自身が会長に立候補する予定でもあることから、「逢見氏としっかり力を合わせて連合運動を何とか前に進めていく。日本を覆う閉塞感を打破していくために力を尽くしたい」とエールを送った。

2015年度に6万人の組織化を達成

今回の大会は、2015~16年度活動期の中間にあたるため、この1年間の活動経過を報告するとともに、2016年度活動計画を確認した。

この1年間の組織化実績をみると、新加盟組合数は、製造産業部門が5組合(組合員数:601人)、流通部門が20組合(同1万5,892)、総合サービス部門が30組合+1分会(同1万6,682人で、UAゼンセン全体で55組合+1分会(3万3,175人)となった。

企業内組織拡大の実績は、製造産業部門が7組合による1,203人、流通部門が24組合による2万2,590人、総合サービス部門が11組合による3,046人で、全体では42組合による2万6,839人となっている。新規加盟と企業内組織拡大を合わせ、2015年度で計6万14人を組織化したことになる。

業界に対する戦略的な組織化の状況をみると、総合サービス関連の企業の組織化に着手しており、ひぐちグループ労働組合連合会(長崎、アミューズメント・外食、1,706人)、ホットランド労働組合(宮城、外食、1,601人)、アークランドサービスグループ労働組合(新潟、外食、2,300人)などが新規加盟した。ドラッグストアでは、ココカラファインユニオン(神奈川、6,200人)の組織化を果たし、これにより、「業界ランキング上位における未組織企業は残り数社」(大会での報告書)になったとしている。

パートタイム労働者の組織化の状況については、今回組織化した6万14人のうち、4万6,999人(78.3%)がパートタイム労働者(嘱託社員、契約社員、準社員、アルバイト等を含む)だと報告している。

2015闘争の妥結額は5,914円(加重平均)

2015賃金闘争の最終結果について、正社員の闘争グループ別の妥結結果からみると、先行して回答を引き出すAグループ203組合のうち、ヤマ場で妥結したのは66組合で、報告は「後続の組合につなぐ相場の底支えに課題を残した」としている。A、B、Cグループ全体796組合のうち、3月末までに解決した組合は414組合で5割程度にとどまったとしている。ただ、妥結水準の落ち込みは昨年に比べて小さいという。

8月3日現在の妥結結果をみると、1,510組合で解決し、妥結額(体系維持原資及び賃金引き上げ分)の単純平均は4,458円(1.78%)で、加重平均は5,914円(2.07%)となった。体系維持原資が明確な組合(379組合)の賃金引き上げ分は単純平均が1,103円(0.40%)、加重平均が1,620円(0.54%)。規模にかかわらず5割以上の組合が前年の妥結額を上回ったとしている。部門別に妥結額(単純平均)をみていくと、【製造産業】が4,142円(うち賃金行き上げ分894円)、【流通】が4,919円(同1,259円)、【総合サービス】が4,550円(同1,373円)。同一組合でみた賃金引き上げ分の前年差は、各部門200円~300円台となっている。報告は、UA全体での賃金引き上げ分の妥結水準について、「2014年度の物価上昇率は、総合で前年比2.9%増(2014年4月の消費税の影響を除くと0.9%増)であり、全体として、過年度物価上昇分を獲得するにはいたらなかった」と総括した。

また、初任給の改定状況をみると、集計組合の妥結後初任給は高卒が16万3,838円(134組合)、大卒が19万7,849円(157組合)で、引き上げ額は高卒が3,228円、大卒が2,850円となっている。

パートの時給引き上げは16.1円(単純平均)

一方、短時間組合員の妥結結果については、パートタイマーが16.1円(1.75%)の引き上げ(単純平均)で、契約社員が3,278円(1.69%)の引き上げ(同)となった。同一組合での短時間組合員と正社員との妥結率を比較したところ、パートタイマーが正社員を上回る賃金引き上げ率で妥結したところは74.6%、契約社員でも67.4%に達した。

次年度に向けての課題について報告は、今回の格差是正分の要求で幅を持たせた要求内容について「幅のある要求基準となり、各組合の対応が容易であったとする意見がある一方で、賃金引き上げの根拠が不明確になったとの意見もあった」などと総括。闘争体制については「闘争参加組合を増やすことが引き続き必要である」とし、「(中小の後続グループである)D、EグループのCグループへの移行の努力も必要」としている。

規模間格差是正の取り組みでは、全体の4割弱を占める100人未満で賃金水準不明の要求・妥結額の低さや、賃金引き上げ分を獲得できなかった組合の多さを問題視している。短時間組合員については、「正社員との均等均衡処遇の方向性の確立や、昇給制度や過年度分昇給の扱いの整理、地域相場を踏まえた要求方式など、総合的に検討を進めていかなくてはならない」などとしている。

「顔のみえる共闘」推進を

活動報告ではまた、総合的な労働条件改善と賃上げとの関係などについて検討した「第2次労働条件闘争のあり方委員会」の報告内容を紹介した。報告は、産別統一闘争の機能強化にむけて、「すべての加盟組合が地域、業種のいずれかの共闘組織に参加する『顔のみえる共闘』を推進することが鍵である」とし、都道府県支部でもできる限り業種や地域共闘を組織していく必要があるとしている。統一闘争と、妥結権限を本部に委譲しない賃上げ闘争の一本化については、一本化することを目標にさらに部門や部会内で論議、合意を積み重ねる必要があるとしている。闘争戦術では、事後対処方式をとる組合も、交渉決裂後にすみやかにスト権投票を実施できるようにするため、最終交渉予定日前に投票準備を行うことを提言した。

2016年度活動計画では、組織拡大・組織強化や雇用・労働条件の取り組み、政策実現活動と政治活動などが重点。このうち、政策実現活動と政治活動では、「国の基本問題」について、この間の環境変化などへの対応を含め、UAゼンセンとしての見解策定を進めるとしている。大会ではこのほか、2025中期ビジョンを中間報告するとともに、来年の参議院議員選挙にむけ、必勝決議を行った。

逢見会長、拉致問題と安全保障法案に言及

なお、逢見会長は挨拶のなかで、北朝鮮による拉致問題と安全保障についても触れた。拉致被害者のなかには、当時のゼンセン同盟の組合員が含まれており、拉致された可能性の高い特定失踪者にも組合員の家族が含まれている。

逢見会長は、「UAゼンセンは、昨年12月から、拉致被害者救済のための運動をさらに強化して署名運動を続けてきたが、今年4月13日に山谷拉致問題担当大臣に23万7,711筆の署名簿を手渡し、一日も早い帰国に向けた政府の一層の取り組みを要請した」と最近の活動を紹介するとともに、「6月には私が安倍首相に面会して、UAゼンセンのこれまでの運動を説明し、拉致問題解決への総理の強い決意を求めてきた」と報告した。

一方、安全保障の問題に関しては、「安倍内閣が提出した安保法案については、反対の立場だ。これは連合、民主党と同じ立ち位置にある」と述べ、現在国会で審議されている関連法案に対する産別としてのスタンスを明らかにしたうえで会長としての見解を披露。

「UAゼンセンはこの問題について、前身組織であるUIゼンセン同盟の時に『国の基本問題についての中執見解』をとりまとめた経緯があり、UAゼンセンもこの考え方を踏襲している。集団的自衛権の行使をめぐる問題については、これらを踏まえて昨年、UAゼンセンとして三役見解をまとめた」とし、この見解の理解のうえに立てば、「『集団的自衛権は、権利として保有しているが、行使できない』としてきたこれまでの政府見解、いわゆる『72年見解』の見直しを検討することは必要なことだと思う」と述べた。

あらためて、政府が提出した安保法案について「集団的自衛権の行使を限定的に可能としたものであり、これまでの政府見解から一歩踏み出したものであり、それ自体は評価できる」としたものの、「これまでの憲法解釈を変えたわけだから、これによって自衛権の活動分野が広がり、海外で行動することなどについて、国民が不安や懸念を抱いているのも事実だ」などと指摘し、「政府は国会の場において、国民に丁寧に説明する責任がある」などと主張した。