組織の拡大・強化などを柱とする新運動方針を決定/産別労組JAMの定期大会

(2015年9月2日 調査・解析部)

[労使]

金属や機械関連の中小労組を多く抱える産別労組のJAM(眞中行雄会長、約36万人)は8月27、28の両日、静岡県熱海市で定期大会を開催し、2015年春季生活闘争総括を確認するとともに、組織の強化・拡大の取り組みなどを柱とする向こう2年間の新運動方針を確認した。役員改選を行い、書記長を務めていた宮本礼一氏が会長に就任し、書記長には、副書記長をしていた河野哲也氏を選んだ。

JAMは5月26日に開いた中央委員会で、2015春闘の中間総括を確認している。今回確認した総括は、回答結果の記載を最終回答集計である6月19日時点の内容に更新しているものの、闘争の経過や特徴、課題等についての記述内容は中間総括からほとんど変えていない(中間総括の内容はバックナンバーNo.1111のJAM中央委員会記事を参照)。

「賃金改善」を獲得した609単組の平均額は1,790円

6月19日時点の最終集計結果をみると、交渉単位である1,590組合のうち、定期昇給などの「賃金構造維持分」が明示でき(902組合)、かつベースアップを含む「賃金改善分」を要求している単組は841組合で、賃金改善分の要求額の平均は5,919円となっている。回答状況については、「賃金構造維持分」が明示できる単組のうち回答を受けているのが858組合で、そのうち「賃金改善分」の回答を得た単組が609組合。賃金改善分の平均金額は1,790円だった。

JAMでは、交渉単位組合のうち、6月19日時点の集計でも回答データを寄せていない単組の交渉状況を調べ、全単組の最終状況も集約した。それをみると、有額回答があった単組の割合は85.2%で、昨年の86.8%を若干下回った。要求を断念した単組と、ゼロ回答で妥結した単組を指す「賃金凍結単組」の数は91組合で、割合としては昨年比0.1ポイント増の5.7%だった。

挨拶した眞中会長は、2015春闘について、「長らく続いたデフレからの脱却、そして経済の好循環実現のために、従来に増して重要度を増した。特に雇用労働者の7割が中小企業で働いているため、中小の取り組みが例年以上に注目された。JAMもこれまで以上にマスコミにアピールし、要求段階では、強気の中小要求といった記事もあった。中小への波及効果を広げたいとして取り組んだ」と振り返りながら、平均賃上げ額が300人未満でも昨年に比べて300円から400円のプラスなどなった結果を踏まえ、「円安による原材料・エネルギー高というなかにあっても、全体平均で昨年を上回ったこと、ベアを実現できた単組が広がったこと、さらに金額も昨年比プラスとなったことなどから、一定の成果を残した」と評価するとともに、「この流れを2016年、17年というように確実に続けることによって経済の好循環が実現できる」と述べて、賃上げ継続の必要性を強調した。

運動方針に「社会的責任に関する指針」を盛り込む

運動方針では、「JAMのめざすもの」として、2019年の結成20周年に向けて策定している中期的な取り組み項目の柱の1つに、「労働組合が取り組む社会的責任の推進」を追加し、それにあわせて、「労働組合が取り組む社会的責任に関する指針」を作成した。「労働組合としても、事業活動の産業社会への影響に責任を持つべき」(宮本書記長)との考え方からだ。また、JAMの傘下組合は中堅・中小が多いとはいえ、2013年時点で369社が海外に生産拠点を持っており、拠点の数は1,200カ所近くにのぼる。海外でも、公正な労働条件や環境などを確保する労働側としての取り組みの展開が喫緊の課題になっている。

指針は、その位置付けを「JAMの理念に基づく『めざすべき社会』の実現に向けた指針であるとともに、JAM構成組織企業、ひいてはそこで働くJAM組合員の雇用と労働条件を守るための指針」とした。取り組むべきテーマは、①人権、②労働、③環境、④公正な慣行、⑤消費者課題、⑥コミュニティへの参画およびコミュニティの発展――の6つを設定。構成組織は、まずはチェックリストを活用して自社のCSRの状況を点検し、本部は労働条件の高位平準化への取り組みや、構成取引実現に向けた取り組みなどから着手する方針だ。

「ブラック企業問題」への取り組み

向こう2年にわたる具体的な運動課題としては、参議院選挙、震災からの復興・再生、職場、組織など関する取り組みを柱に据えた。

職場に関する取り組みでは、新たに「ブラック企業問題対策」を掲げた。方針は、若者にとどまらず、中高年層も酷使する「ネオブラック企業」も登場していると指摘。また、「会社乗っ取り」のような形での経営者による企業買収も横行しているとして、「単なる個別労使紛争の問題ではなく、産業別労働組合JAM、あるいは労働界全体として重大な問題。こうした事態に対し継続的な対策を強める」と強調している。

また、男女間賃金格差是正の取り組みにおいて、JAMでは2015年度に賃金実態の再調査(2005年報告以来)を実施したが、今期(2016~17年度)は本部の労働政策委員会と女性協議会の連携による「男女間賃金問題検討委員会」を設置し、単組ヒアリングを実施するなどとして課題の整理を行うとしている。

組織に関する取り組みでは、JAMは2019年に50万組織をめざす方針(「アタック50」)にもとづき活動中であり、今期はその中間年度にあたることから、引き続き、本部、地方JAM・地協、大手労組会議・業種別部会が中心になって連合などとも連携して組織の拡大に努める。2015年度に全地方を管轄する組織拡大専任チームを立ち上げており、2016年度から実践的な活動に移るなどとしている。

また、組織強化対策では、人材不足などから機関会議に常態的に出席できない単組も見られることなどから、人材育成に地協や単組が取り組んでいく。

役員改選が行われ、眞中会長(日本精工)が勇退し、書記長を務めていた宮本礼一氏(本部)が会長に選出された。書記長には、副書記長だった河野哲也氏(本部)が就いた。副会長は以下の顔ぶれとなっている(敬称略)。藤川慎一(本部)、武井喜樹(日立オートモティブシステムズ)、佐藤靖彦(NOK)、菊地栄男(クボタ)、上野啓治(日本精工)、安河内賢弘(井関農機)、芳野友子(JUKI)。